02:駆ける




「・・・・・チッ、ヤベぇな」



腕時計を覗き込み、思わず舌打ちする。
ボンゴレ本部から部下に町まで送ってもらい、そこからは歩いて待ち合わせの広場へ。
赤レンガ造りの時計台が山本のお気に入りで、町での待ち合わせ場所に重宝していた。
ここ最近、リボーンは任務が立て込んで忙しく家事を山本に任すことが多かったから。
その詫びに今夜は最近オープンしたばかりのリストランテの店に山本を誘ったのだ。
全て独断で計画して予約まで終わらせた事を伝えると彼は苦笑していたが。
嬉しそうに頬を赤くした姿を見て、リボーンが彼を抱きしめたのは今から3日前の話。


今、リボーンは全速力で走っていた。

どんな修羅場もくぐり向けてきた脚力を活かして石畳の道を駆ける。
待ち合わせは18時ジャスト。約束の時間まであと10分。
山本が現れるのはいつも直前だ。少し小走りに駆けよって来る姿が定番だった。
そして、時間に遅れてくる時は道に迷った人を案内したとか、荷物を持ってやっていたなど。
お人よしで人懐っこい山本らしい理由。
待たされるのは嫌いだが、山本の申し訳なさそうな顔を実は気に入っているから怒れない。
リボーンは待ち合わせで自分を見つけた時の嬉しそうな山本の表情を見るのが好きだった。
だから密かな楽しみとして、いつも山本よりも先に待ち合わせ場所にいるようにしてきた。
今夜ももちろん、その予定。

ただ仕事が重なって没頭してしまい、こうして街中を駆ける羽目になってしまった。



(・・・・何とか間に合うか?)


見えて来た時計台。鐘が鳴り響くまであと少し。
リボーンはスピードを緩め、ネクタイや髪の毛の乱れを整える。

呼吸は楽に。ゆっくりと深呼吸。

日が暮れようとしている広場では花屋の若い娘が閉店準備中。
口角を上げて移動式の店に近づき、時間外でもガーデニアを1輪売ってもらうことができた。




(山本には分かんねぇだろうな)


ガーデニア、日本では梔子として親しまれている。
欧米では女性へのプレゼントの定番だ。リボーンは花言葉がその原因だろうと思っていた。


(『私はあまりにも幸せです』なんて、言い飽きたぞ)


彼が中学生の頃から囁き続けてもう10年。
それでもこうして伝えたくなる。

あの笑顔を見れば、いくらでも。


リーン、ゴーンと頭上から響く鐘の音。




「リボーン、悪ぃ!お待たせ」


同じように待ち合わせをしている人込みをかき分けながら山本が駆け寄って来る。
ネクタイはしていないラフなスーツ姿を見て、彼が今日は休みだったことを思い出した。



「いや、お前を待つ時間は気に入ってる」


そう言ってガーデニアを差し出すと、山本が目尻を思いっきり垂らして微笑んだ。
山本のそんな顔はリボーンの心に満ち溢れた感情を運んでくる。


「はは、サンキューな!・・・ん?リボーンなんか汗掻いてるけど、大丈夫か?」


息は整えたものの汗はなかなか引いてくれない。
まさか全力で駆けてきたなど、一流の男として悟らせる訳にはいかないから。
もうすぐ7月に入るこの時期にリボーンは感謝した。



「もうすぐ、夏だな」

「そうだなー。甲子園あるしオレは夏好きだぜ」


ガーデニアの白い花びらを指先で触りながら山本が笑顔で言う。
それは白球を追いかけてグラウンドを駆け回っていた頃のまま。
真夏の太陽のように明るい表情に、リボーンは目を細めてゆっくりと歩きだした。



時々、無性に待ち合わせをしたくなる。
職場も家も一緒なのだから、そんな必要は殆どないのに。
マフィアとなって生きる環境が変わってしまった山本の、素の部分を引き出したくなる。
それをこんな傍で感じ取れる瞬間が何よりも愛しい時間。


闇に生きる戦士に暫しの休息を。


リボーンと山本は時計台を離れ、賑わう街の中へと溶けて行った。


Fin.

2009/03/03

改 2009/09/12

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