人間がリボーン達を悪魔と名付け、恐れはじめたのはたった数百年前の話。
もっともっと気が遠くなるほど昔から存在してきたにも関わらず、どうやって生まれたのか、
何故生まれてきたのか、自分は何者なのか、そんなことに疑問を持ったことは一度も無い。
ただ、自我を持った瞬間から己の内に根づいている本能にのみ、従って。
数十年、数百年、数千年と時間がループする中、変わらない暮らしを続ける生物。



腹が減れば喰えばいい。
気に食わなければ壊せばいい。
争いたければ戦えばいい。
勝者にこそ、生きる権利が与えられる。


そのシンプルさが好ましかった。
本能を抑えられないのは種族ゆえか、生来の性格か。



リボーンにとって敗者は敗者でしかない。価値を、意味を、見出すなど無駄なこと。
興味など湧くはずもなく、勝者として、支配者として優位な立場を貫くことが己の存在意義。


それは、誇り高い悪魔として闇の世界で生き続けるリボーンが出した答えだった。









祈りは彼方、月は君の傍らで 5









月が奇麗な夜、人間達には魔界と呼ばれる場所から翼を広げて舞い降りる。
人間が住む世界と悪魔や魔物が跋扈うする世界は光と影であり、表と裏。
最も近しく、最も相容れぬ隣人。それが人間との距離だとリボーンは認識している。



明朗な少年から精悍な青年へ成長途中である山本武に目を付けたのは気まぐれだった。
あまりの律儀さに、あまりの必死さに、あまりの純粋さに、魅かれた。
人間の思考を読むことは容易く、弱った心ほどつけ入り易いものはない。
次の標的には持ってこいの人材だった。




『すげぇな、羽根も本物なのか!空飛ぶのって気持ち良さそうなのなっ』



並盛神社で契約を交わした際、なぜか翼に興味を持ったらしい山本の反応には意表を突かれた。
これまで何百人という人間を相手にしてきたが、こんなにも気安く普通に受け入れられるなど珍しいことだ。
悪魔と正体を知った途端、殺そうと向かってくる者、私欲のため金を貢ごうとする者、反応は様々だが、
大抵は畏怖や狂気の対象として最期まで互いの利害関係が揺るぐことはない。
特に疚しいことがある人間達には悪魔がどんな種族であり、どんな個体であるかを気にする余裕など無く、
リボーン達にとっても契約相手など餌も同然の存在。そんな距離感が最も相応しいというのに。
山本はまるで硝子のように繊細で光彩を放ち、鋼鉄のように頑固で硬い意志を持つ少年で。
知れば知るほど、傍にいれば居るほど、それは不思議なヤツだった。











「次はカーブ投げるぜ、しっかり飛ばせよ!」
「っしゃー!!来い、山本!!」


山本が投げた球は宣言通り右に弧を描いて打者の元へ。
しかし、軽快なインパクトと共に前に飛ぶはずだった球はそのまま後方のネットに吸い込まれた。


「わ、悪ぃ山本!もう一回頼む!!」
「おう、どんどん投げるから気にすんな!いくぜ!」


空が夕焼けに染まった校庭の片隅で、部員の打撃の上達に一役買おうとエース自らバッティング投手を務め、
自身も練習しながら励ましたり助言したり、山本は練習中も常に忙しなく動き回っている。
どれだけ野球に疎くとも、山本と他の部員との力の差などこの環境を見れば一目瞭然。
はっきり言って山本のレベルでこのチームに居ること自体、勿体ないことだと思う。
山本が所属している野球部は県内でもごく普通の公立高校のレベルだ。
過去、これまでも一回戦、二回戦負けは当たり前で、近年では奇跡的にベスト8が最高の成績。
強豪でもなく、野球部に期待をかけていない学校側の趣旨でレギュラーは毎年、年功序列で選ばれる。
根深い体質に疑問を抱きながら、中学での試合成績は無く、ブランクもあった山本に発言権はもちろん無い。
ずっと、待っていたと言っていた。我慢して、悔しい気持ちを飲み込んで、最終学年になって活躍する日を。
ずっと、ずっと、待ち望んでいたのだと、初めて会った日の晩、微笑みながら山本は話した。
そんな野球部が甲子園出場を決めたのだから、学校だけじゃなく地元を巻き込んでの大騒ぎは目に見えている。
監督や学校側からの期待、仲間たちからの信頼、様々なプレッシャーと戦っているというのに、
山本は本当に楽しそうに笑っている。学校での練習以外に行っている朝晩の自主練の時でさえ。



これまでリボーンが欲深い人間の性を誰よりも近い距離で眺めてきた。
金、権力、名誉、極上の異性、延命、一夜の恋など実に様々。
一時的でも夢に溺れる人間達を愚かだと蔑みながら高みの見物が悪魔の仕事。
眩しいモノは好きじゃない。美しいモノは苦手なのだ、昔から。



「みんな!甲子園まであと一つ、明日の決勝も絶対に勝とうぜ!!」


練習中にも関わらず、球を投げてウズウズしてきたらしい山本が満面の笑みで叫ぶ。
それに呼応するようにグラウンドのあちこちから返事が上がり、士気を高まらせた選手達は、
全員、誓いを胸に最後の仕上げというように夕暮れの空に向かって拳を突き上げた。


翌日、山本達の野球部は見事、県代表として甲子園への切符を手に入れた。






山本の願いは驚くほどちっぽけで、それでも彼にとっては自分の全てを懸けて手に入れたいモノだった。
野球が好きで、野球をしていないと何の価値も見出せないというように、山本の世界は野球で回っている。
それはまるで焦がれるような、あまりにも馬鹿で、純粋で、一途な想い。





「さぁ、これでカウントダウンが始めったぞ。山本」




途中棄権も、国外逃亡も赦されない。
それでもお前はその笑顔を貫けるのだろうか。



覆しようのない結末の時が、刻一刻と迫っていた。


6へ


2011/03/20



トップへ
戻る




テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル