|
山本にとって、リボーンという男は何度も何度も印象を変える面白い人間だった。
初対面の頃など姿形は赤ん坊のくせに、言うこと為すこと全て無茶苦茶、しかし最終的にはいつも彼の思惑通りに事が進み、
仲間達に対して叱咤激励する姿をよく目にした。
山本自身も摩訶不思議なバットを与えられて剣を振るう日々に何の疑問も無く、ただ可笑しくて退屈しない毎日だった。
その後、垣間見ることになった壮絶な未来。そこで師弟関係を結んで戦いの経験値を積み、何とか生き残った。
それからも仲間たちと死線を越えて強くなり、正式にボンゴレファミリーとして生きていく為にイタリアの地にやってきた。
その間もリボーンは指導者として、最強の家庭教師であり続け、山本にとっても良き師であり、良き友であり、良き理解者であり、良き仲間であった。
だから、あの日。どうしようもなく落ち込んでいた孤島での最初の夜。
普段なら表に出ることがない甘えや不安がリボーンの前でだとふっとごぼれ落ちて、自分の弱さに内心苦笑するしかなかった。
昔のように、良くなったら特訓だな、と頼もしい笑みで発破をかけられるものだと思ったのだが。
気付けば強い力で引き寄せられて、彼の唇によって言葉も呼吸さえも一瞬にして塞がれた。
ただ、硬直はすぐに解けてその後はただただ流れに身を任せ、嵐に翻弄されるような怒涛の夜が終わった。
男に抱かれるという初めての行為に身体の節々は痛み、下半身は特に気怠くセックスに使った後ろの排泄器官は熱を帯びて痺れ、
昨夜が現実であることを示し続けた。山本にとっても不思議な事に、激しい接吻の後いつの間にか寝室のベットに押し倒された後も、
抵抗しようなんて気は一切起こらず、ただ素直に今まで知らなかった彼の表情や仕草、熱の激しさを感じて我を失っていた自分に苦笑い。
きっとリボーンは大自然に囲まれた孤島に缶詰めにされ、女性との触れ合いも絶たれて色々溜まっていたのだろう。
そうなった元凶である自分に身代わりが務まるというならそれでよかった。
赤ん坊から大人の男へと本来の姿を取り戻した後に生じたリボーンとの距離が気になっていた。山本だけでなく、昔馴染みの仲間達も皆感じていたようだが、
それが本当の彼が望む在り方だというなら受け入れるしかない。
いつも肩に乗って交わした心地良い会話が無くなり、密かに寂しいと思っていたなんて恥ずかしくて誰にも言えないまま。
小さなリボーンと隙間もないほど近い距離で、新しい発見だらけの時間を過ごせたことがどうしようもなく嬉しかったなんて、自分でも奇妙な感情だったが、
山本は素直に受け入れた。この約十年という時間で、不思議で面白いリボーンという人間が特別な存在であったことを。
その正体がこんな即物的で、異端な感情だったなんて思いもしなかったけれど。気付いた所で山本からは何も変えるつもりはなかった。
最強の殺し屋で、最高の家庭教師である男と、まだまだ半人前で大した取り柄も容姿も持たない山本ではつり合う物が何も無く、
その背中を追いかけるだけでも難しいのにその隣に立つことなど想像できない。
ただ彼が認めてくれた剣の才を磨き、仲間の為に全力で戦い、生き抜くことが恩返しになるだろう、と。
ボンゴレに戻ったらすぐに修行しよう。
だから、もう少しだけ。
毎日毎日広大な海を眺めながら出した結論に満足し、失っていた聴覚が戻った時もすぐに報告したかったが、
山本自身の我が儘で一週間が終わるまで、彼を思う存分独り占めしようと思ったのだ。きっと忘れられない日々になる。
一生分の思い出にするからどうかもう少しだけ。
日中は健康的に外で過ごし、闇夜になると女のように貫かれ、抱かれ続けた毎日の中でそう思っていただけなのに。
「これからも生きろ。・・・・生きて、笑ってくれ。愛してるぞ、タケシ』
その言葉に今度は幻聴が聞こえたのかと思ったが、背後に感じる圧倒的な存在感は確かにリボーンのもので。
彼の言葉を脳で理解した瞬間、身体中の熱が上がった気がした。
その後に続いた怒りの絶対零度の言葉に血の気が引いたが、何だかもう逃げられないな、と気付かされて。
共に過ごした孤島に、最後の闇夜がやって来た。
閉じられた楽園で眠る 2
「…ふ、ぁ…んっ、ぁ…」
「ハッ、いい声だな。ずっと啼かせたくて仕方なかったぞ。存分に喘いでろ、山本」
吐息と共に耳元で囁かれた声に、身体が勝手に反応してどうしようも無く震えてしまう。改めて羞恥心と戦う羽目になるなんて。
聴覚が回復した事実を隠していたのだから自業自得かもしれないが、何の言い訳も出来ないまま寝室に連れ戻され、荒っぽい接吻が始まったと思ったら、
いつの間にか衣服を脱がされ、気付けば身体中触れられて、舐められて、丁寧過ぎる愛撫の数々に、こちらは息も絶え絶えだ。
しかし、覆いかぶさってくるリボーンは上半身裸にはなったものの余裕たっぷりで、これまでは我慢出来ていたのに自分じゃないような、甘ったるくか細い声が
溢れてしまい、居た堪れない。
「ふぁ…こぞ、ちょ、待っ…」
「蕩けた表情して何言ってんだ。毎晩特訓した甲斐あっていい反応だぞ。すっかり敏感だな、山本」
太腿の内側に吸いつき、見せつけるようにゆっくり舐め上げる姿は本当に楽しそうで、尚更見ていられない。
ここ毎晩、優しく愛撫され、身体の裡をリボーンの熱で穿たれる快感を教えられた自分を改めて実感し、山本は更に頬が紅くなった。
「…それで?答えは見つかったか?下手な言い訳したら手足縛ってレオンを大人の玩具に変身させて一晩中放置してやるぞ」
ニヤリ、と唇を歪めて笑うリボーンからは本気しか感じられない。
昔から成果を出す為ならどんな無茶も行う姿を知っているだけに一気に背中が寒くなって冷や汗が伝う。
過ぎた快楽とも合わさって、山本は必死に頭を働かせ、隠してきた思いを吐露することになった。
「…俺たちはお互い同じ事を考えてたってことか。危うくお前を手放すところだったな」
小僧は特別な存在だと気付いたから、あと少しだけ二人だけで過ごしたかったのだと、少し大人しくなった愛撫の手を受けながら、必死に言葉を繋いだ。
何とか伝わったようで珍しく苦笑いするリボーンの顔をぼんやりと眺め、山本もひと息吐き出す。
「なら、晴れて両想いって訳だ。これまで以上にじっくり、がっつり愛してやるから安心しろ」
「えっ!?・・・ひっ、ん、ヤぁ…!」
気を抜いて油断していた所に、リボーンは熱を溜め込んだ山本の性器をパクりと咥え、音を出して吸い上げる。
漸く得た直接的な愛撫を喜ぶように無意識に腰が揺れてしまい、そんな自分を戒める為にグッと唇を噛み締めた。
「コラ、素直に感じていればいいんだぞ。もっともっと可愛いお前を見せろ」
まるで小さな子供を諭すような叱責。
しかし、内容は到底受け入れがたいものだ。
「はぁ…ん、か、可愛い訳無いの、な。筋肉ばっかで硬いし、声も変だし…男、だぞ?」
こうなったからといって悲観する訳ではないが、昔から女性に不自由したことがないリボーンの姿を知っているだけに、
彼女らのように目の前の男を満足させられているか自信はない。山本にあるのは、リボーンと共に増え続ける屍の山を越えて行く覚悟と、
傍に寄り添って、彼を独りにしたくないという、山本だけの我が儘の為。
母の腕の中のような優しい安らぎも、子孫を残し血脈を繋ぐという本能を満たすことも、山本には出来ないのだ。
「バカだな、山本。中学生の頃から俺には可愛くて仕方ねぇぞ。男も女も関係ねぇ、これが俺の愛し方だから安心して啼かされてろ」
「んんっ!あっ、ひぃ…」
繋がる為の後ろの蕾をベロりと舐められ、腰が跳ねた。本当に心臓に悪い。
これまでの行為はリボーンにとってただの性欲処理だろうと思っていたことも、彼はお見通しなのだろう。
この世界最高の家庭教師は、昔から山本を甘やかすのが得意なのだ。
それなら今は全てを委ね、これからを考えるのは明日朝が来てからにしよう。
此処は他に誰もいない、二人だけの楽園。淫らに愛を語り合うには相応しい。
「こぞっ…、もう早く、お前が欲しい…っ」
ゆらゆらと今度は意図的に腰を揺らし、精一杯の催促。
もう理性なんて捨て去って、身体全てでリボーンを感じたいから。
「ハッ、最高だな。何なら休暇取ってあと一週間此処でセックス三昧ってのも悪くねぇな」
リボーンはそう言うとズボンも下着も全て脱ぎ捨て、本格的に愛撫を再開させた。
これで会話は終わりだというように、そこからはいつも以上の時間をかけて後腔を慣らされ、漸く熱い楔を打たれた時には何も考えられず、
快感だけが体を支配して。それから何度繋がって、熱を吐き出したか山本には分からない。
気付いた時にはもう朝日が昇り、綱吉達が迎えに来る時間まで一時間を切っていて本当に驚いた。
すぐに支度を、と起き上がろうとしても下半身に力が入らず愕然とする。
昔から体力だけは自信があり、この島に来て抱かれるようになっても朝起きるといつも通り過ごせていたから、こんな事態は人生で初めてだった。
「うぅ…ダルい。小僧ってすげぇんだなぁ」
「あんま褒めんな。山本が可愛いのが悪いんだぞ」
すぐ隣からした声に思わず振り向くと、上半身を起こしてニヤニヤしながらリボーンがしっかりとこちらの様子を眺めていた。
いつから起きていたのか、そんな疑問が過ったが彼の言葉を理解すると一気に顔が赤くなる。
昨日からリボーンのペースに乗せられていると解ってはいるが、隠すことなく愛を伝えてくる姿は、男の山本から見ても壮絶にイヤらしく、
しかも格好良くて、困るばかりだ。
「もう…ありがとな小僧。それより早く準備しないとツナ達が来ちまうぜ!」
「あぁ、とりあえず三日間の休暇をもぎ取ったから安心して休んでいていいぞ」
サラリと告げられた言葉に目を見開く。確かに昨日そんな事を言っていた。
仕事優先を常々掲げているリボーンが本当に実行するとは思わず、きっと急な変更に綱吉達が困っているだろうとも分かるのだが、
隣でリラックスした顔でこちらを眺めるこの男も、この島での生活を惜しんでくれたのだと思うと無碍には出来ず苦笑するしかない。
「ハハ、じゃあお言葉に甘えてちょっと休むな。少し休んだら、一緒に朝ご飯作って海行こうぜ」
治療と休養に来ていたこの島で、もう少しだけ二人だけの時間を過ごせるというなら、楽しまなければ勿体無い。
「ボンゴレ本部に戻った後はすぐ引越しだな。荷物運びは部下達に手伝わせるからお前はただ俺の家に来ればいいぞ」
もう手配済みだ、と得意げに言われ、その手際の良さに呆れるどころか笑ってしまう。きっと、こんな所に惚れたのだ。
神出鬼没、予測不能、そんな面白い男だから山本は彼の傍で生きていきたいと思う。
「ハハハ、好きだぜリボーン。これからもよろしくな」
もう一度ベッドに潜り込んでそう伝えると、昨夜の疲労からか急に睡魔に襲われて目を閉じる。
薄れゆく意識の中、優しくて心地良い大きな手が頭を撫でる感触に身を委ねて眠りについた。
二人だけの、閉ざされた孤島にて。
寄り添う二人は羽を休めるように、ただ穏やかな夢路へと旅立った。
Fin.
2014.07.25
|