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誕生日




ゴーイングメリー号、甲板。

ウソップとサンジが何やら楽しそうに話をしている。
しばらくするとそこにチョッパーも加わり更に賑やかになる。
ウソップとサンジがチョッパーをからかい、騒ぎは段々と大きくなる。
いつもの日常。
騒がしいことこの上ない。

ゾロが寝ている。
これもいつものこと。

ゾロはウソップとサンジとチョッパーの馬鹿騒ぎの真横に寝ているにも関わらず、目を覚ます様子は伺えない。
いつも寝ている。
そして、目を覚ますことはない。

サンジはこの騒がしい中でも眠れるゾロを呆れるのを通り越し感心してしまう。
そして、いつものようにゾロを見やる。
不思議と皆が居る場所で眠るゾロをサンジは面白いと思う。
ふとサンジが気付くとゾロはいつも自分達が騒いでいる近くで寝ている。
特に誰もが意識してお互いの近くに居るわけではない。
だから、仲間達の近くで眠るゾロを不思議に思う。
そして、面白いと思う。

そして、今日もサンジは何気にゾロを見やる。


しかし、今日は珍しいことにゾロの目が覚める。

偶然とはいえジッとゾロを見やる形となっていたサンジはゾロと目がかち合う。
ゾロの目が覚めるとは決して思わなかったサンジは、慌てて目を逸らしてしまった。
(べ、別にやましいことしてたわけじゃねェんだから、オレが目を逸らす必要はねェんだよな)
本当に何げにゾロを見ていたサンジである。
(な、何で今日に限って目ェ覚ますんだよ)


「・・・おい、クソコック」
「なっ、な、な、何だよ」
ゾロに声を掛けられ思わずサンジは動揺してしまう。
(珍しく目が覚めたと思ったら、いきなりオレを呼ぶたぁどーいうこっちゃ)
そして、何だか動悸が早いかもと思うサンジであった。


「てめェ、何驚いてんだよ」
「おっ、お、驚いてなんかねェよ」

「オレは驚いたぞ!」
チョッパーが言う。
「おう。オレも驚いた」
チョッパーの言葉にウソップが続く。
「オレ。ゾロが用事もないのに目を覚ますのなんて初めて見たぞ」
「おう。オレも初めてだ。普段、起きねーだろ。初めて見たぞ。お前だってそー思うだろ、サンジ」

いきなり話を振られ、まだ動揺しているサンジはまともな返事が返せない。
「えっ、あっ、そ、そーだな」
(な、何でまだオレ動揺してんだよ)
自分で自分が分からないサンジであった。


「・・・散々な言い草だな・・・」

そんなゾロにウソップとチョッパーはお互いを見やり肯くのだった。
「だってなぁ」
「うん」

「まぁ、いい。おい、クソコック。オレはさっきからてめェを呼んでんだ」
「まだ、一回しか呼ばれてねェ」
思わずゾロに突っ込むサンジであった。


「・・・」


「ケンカなら買うぞ、クソ野郎」
「・・・いや、やめとく。それより、オレはお前に頼みがある」


「・・・はっ?」
「・・・その間は何だ?」
「誰が?」
「オレが」
「誰に?」
「てめェだ」
「何だって?」
「だから!さっきから、頼みてェことがあると言ってんだろ!」
「いや、まだ一回しか聞いてねェ」


「・・・」

いつものように喧嘩にならないのは、ゾロが果てしなく我慢を強いているせいだろう。

「明日、誕生日なんだ。」
ゾロが再び口を開く。

「誰の?」
「オレに決まっているだろ!」
どどーんという文字を背負うゾロである。

「・・・はっ?」

(・・・誕生日?誰の?ゾロのだよな。こいつに誕生日?・・・に、似合わねェ)
そんなことを思いゾロの顔を見るサンジはまさにこの世のものではない何か珍しいものを見るような目つきである。
完全に珍獣でも見るような目つきでゾロを見いてる。

ゾロは自分の誕生日が明日だと言う。
そして、ゾロはサンジに頼みがあると言う。

(頼み?こいつがオレに?天変地異の前触れか?オレまだオールブルー見つけてねェぞ。クソ剣士、どーしてくれんだ)

思わず思考が変な方向にいってしまうサンジである。

「おい、サンジ。大丈夫か?」
呆けていたのだろう。
サンジはチョッパーに声を掛けられ、我に返る。

「・・・た、頼みって、おめェが珍しいな」
黙ってしまったサンジをジッと見ていたゾロだか、ようやくサンジが口を開いたことに安心している様子だ。
「料理を作って欲しい」
「はっ?」
「だから、料理だ」
「オレ、いつも作っているだろ?」

確かにサンジはいつも料理を作っている。
ゾロは自分の頼み方が悪かったのだろうかと頭を傾げた。

「そーいうんじゃねェ。オレが頼みたいのは、そーいうんじゃねェんだ」
「ケーキか?」

(違うと思うぞ、サンジ)
思わずウソップが心の中で突っ込む。

「違う!」
甘党ではないゾロがケーキを欲しがるとは到底思えない。
しかし、誕生日イコールケーキという図式が一般的に出来上がっている今そう思うサンジに悪気はない。

「ガキのころ毎年誕生日ってーと好物が必ず出たんだ。だから、明日はオレの好物を作って欲しいんだ」
「何だ、そんなことか」
「良いのか?」
「良いぜ」

(何を頼まれるかと思やぁ、そんなことか。吃驚させやがって、このクソ野郎)
本気で天変地異が起こるかも知れないと思ったサンジ。
どんなご大層な頼みをしてくるのだろうかと思っていた。
だか、どんな頼みをしてくるのかは全く想像が出来ず、この世の破滅に導かれたらどうしようと本気で思っていたということをゾロが知るよしもない。

二人とも安心していた。
ゾロは頼みを聞いてくれたサンジに対し、サンジは天変地異が起こらないことに対してである。





次の日。
11月11日。
ゾロの誕生日。

夕食時。
珍しくゾロが真っ先に席に付く。
普段は、皆と一緒か最後に席に付くのが常である。

夕食にゾロの好物が次々とテーブルに並ぶ。

席に付いたゾロをサンジはジッと見ていた。
ゾロの視線はというと料理の方に釘付けである。
そして、心なしか嬉しそうな顔をしている。

そんなゾロを見てサンジは思う。
(こんな嬉しそうな顔するなら、タマじゃなくでもこいつの好物作ってやっても良いかもな)
いつもはレディ優先なサンジである。
栄養配分等いろいろ考えて作っているのは確かだが、それに加え好物を作るとなるとレディが最優先である。
ナミの好物を作りビビの好物を作りレディが好きなお菓子を作り、美味しそうに嬉しそうに食べる彼女達の顔を見るのがサンジは大好きだ。
でも、こんなゾロの顔を見るのも悪くないとサンジは思う。
レディの顔ではなく、ゾロの顔だということに対しサンジは自分自身に苦笑する。
しかし、そう思えてしまうほどに、ゾロの顔は本当に嬉しそうだ。


「ゾロ、誕生日なんだってね。おめでとう」
「おう。ゾロ。おめでとー」
「ゾロ、おめでとう」
「Mr.ブシドー誕生日おめでとうございます」
「サンジ、ケーキは?おう、ゾロ、ケーキがねェぞ」
「ちょっと、ルフィ。あんた、素直におめでとうって言えないの?」
「だって、ケーキがねェぞ。一大事だぞ。違うのか?」

そういうルフィの胃袋は既に我慢の限界にきている。
先ほどからヨダレが垂れている。

「あー、もう良いから食え」
ゾロが言う。


食事中にサンジがゾロだけの顔を長い間ジッと見ていることはない。
サンジはゾロに限らず野郎の顔を眺めることはしない。
しかし、今日はゾロの顔を見ることが多い。
彼は本当に嬉しそうに食べている。
美味しそうに嬉しそうに食べているのである。
普段のゾロは普通に美味しそうに食べていることをサンジは知っている。
好物を出した時にはこんなにも美味しそうに嬉しそうに食べていたのかと思うと、今さらながらにこそばゆい思いがする。

サンジは自分の顔が笑っているだろうということに気が付く。

そーいえば・・・と彼は思う。
(あ?オレ、忘れてたな)

「ゾロ、うめェか?」
「ああっ、うまェよ。悪かったな。わざわざ作らせて」
「いや。別に構わねーよ」

うめェうめェとルフィが相変わらず肉をほおばっている。
そして、やはり美味しそうに嬉しそうに食べている。

(ゾロだけじゃねぇんだよな)
ウソップもチョッパーにしてもそうだ。
(何かゾロのおかげでこいつらまで新鮮に見えちまうな)
サンジは嬉しそうに笑う。
そして、とても楽しそうだ。


サンジが口を開く。


「ゾロ、誕生日おめでとう」





おしまい。





あー、本当に書き慣れないったらこの上ないっす(T_T)。
前ジャンルでは文ばかり書いていました(笑)。
最遊記ではないっす。
最遊記で書いた文は1本だけ。
文は、今年の2月に書いたのを最後にストップしていました。
文を書いたのは9、10ヶ月ぶりぐらいっすね。
本当に久しぶりに書きました。
ワンピでは初小説。
今回、ゾロのお誕生日期間に文を載せたいなぁと思い細々と書いていました。
主役は誰なんだろう(笑)。
ゾロ?サンジ?
そして、全然ゾロサンじゃないと思うのは私だけでしょうか。
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