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誕生日



「ゾロ、あんた。サンジくんの誕生日、知ってる?」
ナミが甲板で鍛錬中のゾロに声をかける。


「・・・あ?・・・何で?・・・んなの、知らねェよ」
ゾロは手を止めナミに答える。


「・・・やっぱり。3月2日よ。もうすぐよ。あんた、自分の誕生日にサンジくんに祝ってもらったんだから、あんたも祝ってあげなさいよ」
知らないと言うゾロにナミは呆れる。
だか、予想はしていたことだ。
ナミの様子を気にする風でもなくゾロは言葉を続ける。
「祝ってもらったって・・・特別、祝ってもらったわけじゃねェだろ。料理を作ってもらっただけだ。それにだ。普通、祝って欲しけりゃ自分で言ってくるだろ」


「・・・はっ?・・・まさか!・・・あっきれた。あんたねぇ、サンジくんに限って、んなわけないわよ。それに、それのどこが普通なのよ」
ゾロの言葉にナミは今度こそ完全に呆れてしまったようだ。



「普通じゃねェのか?」
「普通じゃないわよ」



「そうか?」
「そうよ」



「んなもんか?」
「んなもんよ」



「ふーん」
「・・・ふーんって、何?あんた、いやに解せない顔してるわね」
そういうナミも解せない顔をしていた。
何が違うというのだろう。
彼女は思う。
誕生日を自分から祝ってもらう。
そう主張すること自体は可笑しくない。
それは、普通のことだと思う。
ゾロが言うから普通が普通でないと思ってしまうのだろう。


彼が自ら自分の誕生日を主張するとは思わなかったのだ。
祝えと言われた訳ではないが・・・

(・・・そういえば・・・)
ナミは、サンジがゾロの誕生日の前日に天変地異が起きると騒いでいたことを思い出す。
何を馬鹿なことをと思ったものだ。
だから、どういうことなのかとサンジに問い質した。
天変地異が起きるというサンジの思考もどうかと思うが、そう思うサンジの気持ちも分かる気がした。
彼女もサンジの話を聞き、かなり驚いてしまったのだ。
ある意味、ゾロに対してとてつもなく失礼だということは、この際、棚の上に置いておく。



彼のキャラクターではない、といってしまえばそれまでなのだが・・・



「まぁ、いいわ。そんなことより、ゾロ。あんた、サンジくんの誕生日を祝う気あるの?」
「・・・あっ?何でそんなことを聞くんだ?」
「祝う気ないの?」
ナミはとても悲しそうな顔する。
「・・・てめェ、似合わねェ演技するな。それに、オレは別に祝わねェなんて言ってねェだろ」
「あっ、そ。・・・なら、祝うのね」
けろっとした顔でナミが言う。
「ああっ。祝ってやるぜ」
「・・・何か、あんたのキャラクターじゃないわね」
祝うと言うゾロに対し、ナミは失礼極まりない言葉を口に乗せる。
そして、はぁと一つ溜息を付く。
つくづく失礼極まりない。


「ほんと、つくづくキャラクターじゃないわよねぇ」



「てめェ、いい加減失礼だぞ」
ゾロの額に何本かの青筋が浮かんでいた。
切れているのは明白だが、耐えているいるのは相手がナミだからであろう。


「はぁ・・・やぁねぇ。短気な男は・・・」
ふっと穏やかな微笑みさえ浮かべナミはゾロに答える。
そんなナミにゾロはひたすら額に青筋を浮かべ耐えている。



「でも、よく素直に祝う気になったわよね。あんたら、仲いいけど・・・あんたが人の誕生日を祝うってのが不思議に思えちゃう」
「・・・」
「・・・ん?・・・そういえば、あんた。誰の誕生日でも祝ってたわよね。覚えてる。あたしだって、あんたに祝ってもらったわ。良かったなって言ったわよね。吃驚しちゃったもん」
思い出したのか覚えていたのか甚だ怪しいところだか、どちらにせよナミはゾロから祝福の言葉を受け取ったのだ。
彼女は鮮明に覚えている。
たった今まで忘れていたとしてもだ。
おめでとうではないが良かったなと穏やかな声で言われた。
それは、ごく自然に口から出た言葉だった。
そして、ゾロにとってはおめでとうと同意語だろう。



サンジが仲間になり最初の誕生日がナミだった。
ナミは魔獣と呼ばれる男から自分の誕生日に祝福の言葉を聞いた。
この男の口から出た言葉が意外だったのだ。
本気で驚いた。
そして、魔獣もしくは万年寝太郎だと思っていた男が普通の人間だったのだと少なからず思ったものだ。


ナミの誕生日でもそうだったが、チョッパーの誕生日にビビ。
やはり、彼は祝っていたのではないだろうか。
サンジを中心に誕生日パーティーが始まる。
ゾロの時は多少違ったが、誕生日パーティーと呼んでも差し支えないだろう。

彼がサンジに誕生日の頼みごとを言わなかったら、パーティーはなかっただろう。
あるいは、彼の誕生日自体を知らずにいたかもしれない。





「誕生日は祝うもんだろ?」





ゾロの言葉にナミは我に返る。





「違うのか?」





「・・・そうね。違わないわ。あんたもたまには良いこと言うじゃない。私、感心しちゃった」
心底感心している様子のナミにゾロは更に額の青筋の数を増やす。
「てめェ、本当にさっきから失礼だな」
ゾロはヒクヒクと引き攣る口元を手で抑え何とか怒りを押さえ込む。




「ゾロ!サンジくんの誕生日。思いっきりお祝いしましょ!」

ナミが笑う。
本当に嬉しそうに笑う。


彼女はサンジの誕生日を祝いたいのだ。
ナミは自分の誕生日を率先して祝ってくれたサンジに対し、自分も同じぐらいの想いを返したいと思っている。
とても嬉しかったのだ。
自分の誕生日を祝ってくれたことが。



「そうだな」
ゾロも心なしか嬉しそうな顔をしている。



「あんたに祝ってもらったときのサンジくんの顔が見ものだわ。ふふっ、楽しみ」
想像したのだろう。
ナミは今度は可笑しそうに笑う。
とても楽しいパーティーになるだろうと予感して。
彼女は微笑む。
そして、ゾロも笑う。



おわり




11月に書いたゾロの誕生日のお話しの続きのような感じになってしまいました。
いや、続きです。
サンジのお誕生日だというのにサンジがいません。
どういうこっちゃ。
最初、ゾロとサンジでお話しを書き出したのですが、サンジが軽いパニック状態になってしまいお話が進まなくなってしまいました。
視点を変えたら書けました。
しかし、サンジがいなくなりました。
あううっ・・・(汗)
そして、最初はおまけでゾロとサンジのお話しがあったのですが、ちと甘くなりそうだったので止めました。
一応、ゾロのお誕生日のお話しと同じ人たちなので甘いのは違うだろうと思って止めてしまいました。

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