事の発端なんて何だっていい・・・そんな事は関係ねぇ・・・。 本気でコイツと戦ってみてぇ・・・・・・ それは本能みたいなもんだったのかもしれねぇ。だが・・・。 おそらく初めてコイツを抱いたあの夜から、俺はずっとそう思っていた・・・。 ささいな諍い・・・売り言葉に買い言葉・・・ 「表に出ろ!」 吐き出される捨て台詞。 そこまではいつもの通り、それでもそんな事はどうでもいい。 ただ・・・いろんな事に、いろんな想いにケリをつけるチャンスだってだけの事。 俺は・・・腰から3本、刀を鞘ごと抜いて、 キッチンのテーブルの上に置くと、その背中を追った。 殺し合いがしてぇわけじゃねぇ・・・ ただ、本気のてめぇが見てぇ・・・本気で戦ってみてぇ・・・それだけのことだ。 そうすりゃ・・・ずっと心のどっかに燻ってた想いが・・・。 きっとはっきりすんだろう・・・。 「てめぇ・・・」 手ぶらで出てきた俺を見て、 ほんの少しだけ驚いた顔が・・・すぐに面白そうに歪んだ。 俺の身に纏った殺気を感じたのかも知れねぇ・・・ 奴の身体が微かに強張ったのがはっきりとわかる。 「丸腰かよ・・・クソハラマキ・・・上等だ・・・」 サンジの呟きと同時に、耳の横を風を切る音が通り過ぎる。 身を捩って、飛んで来た蹴りをかわす、そのかわした先を予測していたように、 もう一方の足が繰り出される。 間に合わねぇ・・・とっさにアゴを引いた分だけ入りは浅かったはず。 それでも、脳が縦に揺れる・・・ 喰らったものは・・・未だかつて味わった事がない衝撃だった。 噛み締めた歯の隙間に生暖かさを感じる、 口腔に広がった鉄臭さをその場に吐き捨てた。 飛び散った鮮血・・・そこだけがやけに色鮮やかに目に映る。 「面白れぇ・・・。」 返す脚が俺のみぞおちを直撃する。 ぐらりと傾きかけた身体・・・。 それでも、腹に力を入れて腰を落として踏ん張る・・・。 こんなところで、こんな一発で終われねぇ。 ・・・俺はこれが見たかったんだ・・・。 日常の小競り合い・・・それだってそん時は互いにマジだけど、 それとは違う・・・プライドをせめぎ合わせて・・・ そんな中のてめぇをもっと感じてぇ! 休む間もなく次々と飛んでくる蹴りを辛うじてかわしていく。 破壊力だけじゃねぇ、厄介なのはそのスピードだった。 ギリギリの線で見切ったつもりでも、 そこから伸びてきた足先が右の頬を切り裂く。 刀のねぇ今、この間合いは奴のもんだ。 「どうした、剣豪。よけてばっかりじゃねぇか。」 「うるせぇ、よけるまでもねぇてめぇのケリなんざ当たらねぇよ。」 「そのわりに、だいぶいいツラになってきてるみてぇだぜ。」 アゴから滴り落ちるねばっこい感触・・・。 そんなもん言われねぇでもわかってる。 目の前からふっとサンジが消えた。 視界の端の方から足が飛んでくる。 沈み込んだサンジの身体・・・ 低い体勢で両手を床に着き反動をつけて、凶悪なケリが叩き付けられた。 ・・・強ぇ・・・ 堪えきれずに、マストまで弾き飛ばされる。 初めて奴を見た時を思い出した。 初めて肩を並べて戦った時を思い出した。 初めて奴を抱いた時を・・・思い出した。 ・・・負けられねぇ・・・。 立ち上がって奴を見る。 俺はてめぇには絶対ぇ負けねぇ。 てめぇも同じ事を思ってんだろう? そして・・・そんなてめぇだから、欲しいと思ったんだ。 ビンビンと伝わってくるのは、サンジの呼吸・・・。 音のない世界で、それだけが俺を支配していく瞬間。 無意識に腕の手拭を頭に巻いていた・・・。 サンジの脚をかいくぐり、懐に飛び込みざま思いっきり拳を叩きつける。 何発も奴の蹴りを喰らいながらも、何度でも起き上がって殴りつけた。 脚を取って、力任せに投げ飛ばして引き摺り倒して、蹴って殴って・・・ そして全身に容赦のない蹴りを浴びた・・・。 互いの呼吸を感じて、互いの鼓動が重なっていく・・・。 それをどれくらい繰り返した?もうわからねぇ・・・。 それでもサンジは立っている。 おそらくあばらを何本か持ってかれてんだろう、 喉の奥からせり上がってくる苦い血を吐き捨てて、 それでも・・・俺も立っている。 「いいかげんしつけぇな、てめぇも。」 サンジの息も荒い。 場に走る緊張感・・・伝わってきたのは・・・てめぇの命。 低く飛び上がった身体から伸びた足が、俺の腹をめがけて飛んで来た。 とっさにそれを右足を上げてガードし、肘を落として挟み込むように止めた。 奴は・・・俺の膝を足場にして軽く宙を飛んだ。 何をする余裕もねぇ・・・左の顔面にするどい激痛が走る。 だがその刹那、 俺は目の前に無防備にされされた奴の腹に渾身の一撃を叩き込んだ。 左の視界が朱に染まって、 真っ赤に霞んだ中に、サンジの身体が横たわっていた。 「で・・・気が済んだのか・・・。」 息を荒げて、甲板に寝っ転がる男を月の光が優しく包む。 額に汗が滲み、めずらしくも髪の間から両目が見えていた。 ふらつく身体でその傍らに倒れこむように座りこむ・・・もう身体が動かねぇ・・・。 被さるように顔を覗き込むと、 目尻から滴り落ちた血が、その血の気の失せた唇に紅を指す。 「あぁ・・・付きあわせて悪かった・・・。」 上半身を起こして、そこらへんをさぐってるサンジを ズルズルと膝の上に抱えあげて、 目的のものを渡してやろうとして、不意に気が変わる。 くしゃくしゃになったパッケージから煙草を1本抜き取り、 自分の口に咥えるとひとつ吸い込んで火を点けた。 サンジの口元の血を親指で拭い、 自分の咥えてた煙草をサンジの口に移してやる。 そんな俺を見て、唇の端を上げて・・・ ほんの少しだけサンジが笑ったような気がした。 サンジの手が俺の顔の上を滑る・・・ 指先が紅く染まっていくのをぼんやり眺めた。 この身体を抱いて、その甘さに溺れて・・・貪り尽くしても・・・。 でもそれだけじゃねぇ・・・心のどこかに燻っていた事。 身体を繋ぐ事だけが、熱くなる理由じゃねぇ・・・。 それを俺が一番わかりやすい形で、わからせてくれた。 意味のねぇ戦い・・・ こんなバカなやり方でしかてめぇの価値も自分の価値もわからねぇ。 それでも・・・頭じゃ理解できない俺に付き合ってくれたんだろ? 抱き寄せて口づけて・・・どうしようもねぇ想いだけが込み上げる。 「・・・・・・・・」 ガラじゃねぇのはわかってる、それでも耳元にひと言だけ。 「今更かよ・・・仕方ねぇ野郎だな・・・。」 色気のねぇ返事でも、重なった唇から熱さを受け取れる。 口腔いっぱいに広がった鉄の味も二人で分け合えばこの上なく甘い。 腕の中の命をまるごと感じる瞬間の至福を、俺はもう忘れねぇ・・・。 |
私が描いた流血ゾロのイラストから小説を書いてくれました。
ありがとうございました♪ 私の絵 → ■ |