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息ピッタシ −秘密の情事編−







「ふっ…、はっ…」
 折り重なるように身を乗せているサンジの息苦しそうな喘ぎ。気付いたゾロは左腕に力を込めた。
 倒れ様、咄嗟に手にしていた刀を落し、庇う様に手を差し延べた左手はしっかりとサンジの腰にある。

 ――大丈夫か?

 そんな言葉はどこにもなく。ただ武骨な腕の力のみ。
 サンジは密かに眉を顰め、身じろぐ。

「何……やってんだ、クソ野郎」
 何をやっている。それが差す言葉の意味はどこにあるのか。
 一緒に倒れた事か。またはこの押しつぶし状態を甘んじている事か。

 ――それか、自分の身体を抱く様な真似か。

 きっとどれもだ。

「何って……何がだ、クソコック?」
 ゾロの手がワザと意図を持って這う。
「んなところで……何やってんだ」
 腰を撫でる様な手の動きにサンジの目つきが鋭くなり、言葉の意味が一つに絞られた。

「仕方ねェだろ。手しか動きようがねェ」

 サンジの下だけでなく、一番下に位置するゾロは身動き取るにも取り様が殆どなかった。
 今、自分達の上には折り重なるように海兵達が乗っている。どんな風に折り重なっているかは辺りが暗く、わからない。
 ただ、山のように乗っ掛かられた事だけはわかった。
 本来ならば気絶していてもおかしく無い状況だが、2人はその一瞬の記憶の空白だけで済んだ。
 周囲にいる海兵の意識が殆どない事を考えると、やはり2人は化物染みていると言えた。


(刀……。ねェ……)

(……どこだ?)

 手に持っていた2本の刀の行方が知れない。腰に差してあった一本はあると感覚だけで確認する。
 抜き身の刀が行方知れずなのは怖い話しだが、自分の身体に痛みは感じず、上にある身体の方も声の調子からして無事そうだと一安心した。

 後はその辺でどこの海兵をぐっさりやっていようが知った事ではない。


「何が仕方ねェ…だ……コラ」
 今も手が動きを止めないのにサンジは困り出す。
 自分の身体はゾロに触れられる事に慣れているから困る。そして、この状況でそれを意識する事は望んで無い。
 困ったが……だが、困る事を素直に口にするのもムカつくとばかり、態度悪く出た。
「……ざけんな、クソ野郎」


「刀がねェから探してンだ」
 刀が手になく、探していた事は嘘ではないが、手が腰を撫でる理由としてはそれは嘘だった。

「てめェの刀はそこにはねェよ……」

 あるわけねェ――そう毒突く。

 だけどそんな事はわかり切っているゾロは手の動きを止めず、それどころか余計ワザと動かし出す。
 さわりと指先を動かす程度から平を使い、手を捩らせながら窮屈な空間縫う様に腰を撫で下ろして行く。

 そして尻の肉を軽く掴むと口元ニヤリと歪ませ、
「だけど、てめェ……俺の刀咥え込むの得意だろう?」

 ――ほざいた。

「――なっ!」
 ゾロの意味を含んだ言葉に、ソコに近い場所に指を伸ばして来て煽る様な仕草にサンジは肩が震えそうに感じる。
 怒りなのか羞恥なのか……はたまた興奮か。

「何……馬鹿言っ…てンだ……てめェは……」

 お互いの表情は暗くてわからない。だが、ゾロにはサンジの顔が紅潮しているだろうと知れた。
 サンジにもゾロがこの状況を楽しみ、いやらしい笑みを浮かべている様が見えなくても見て取れた。何とも悔しい気分にギリッと歯噛みする。

 何よりもサンジが一番悔しかったのは、ゾロの一言にその感覚を思い出し、一瞬の疼きを覚えてしまった自分の身体。


 フ…、くッ…ぅ…。

 悔しさに歯噛みしたサンジの口元から零れる息。
 視覚が殆どないだけにその音がはっきりとゾロの耳に届く。

 間近で吐息が触れ合い、呼吸で上下する互いの胸の感覚さえもわかるほどの密着。その胸から響く鼓動。触れ合っている身体の温もりもわかり過ぎるほどにわかって、それは興奮を覚える状況だった。
 この状況で触れている手が動いてしまうのはしょうがない、当然とばかりにゾロは思った。
 いや――むしろ、好機とばかりに触れまくる。

 身動ぎして抵抗を見せるサンジにの腰元、ズボンの上から、中指で割れ目の間をきゅっと押し突く。他の4指と平を使って尻を揉みしだく。そんな手だけの動きでも、ゾロがしている行為と言うだけでサンジの感覚や気分は高まって行く。

 徐々に身動ぎが微かなものとなり……

 ハァ……。

 汗臭く男臭くこもった中で小さく、潜めるように熱っぽい吐息がサンジの唇から溢れた。

「い…ぃ…加減に……しろ……てめェ」
 それでも興奮に抑止を効かせようと堪えるサンジの声。

 今、どんな表情をしてそう言ったのか。
 見たいと言う気持ちと共、ゾロの欲望が高まって鼓動が早くなる。

 ついでに周囲で2人を押しつぶしている海軍兵の中、かろうじて意識を失わずにすんだ僅かな人数にもその様子は伝わり、ヤバイ所に居合わせたドキドキ気分を味あわせている。

 ごくり。

 タイミング悪く、ゾロがサンジの唇を襲おうとした所で一人の海兵が息を呑む音を響かせた。
 その音が聞こえた――とっても五感の優れた――ゾロがギロリと目つきを悪くする。その視線は暗さで届かないが、湧き立った殺気を気取ったか、不幸な海兵はビクリと身を竦めた。

「見んじゃねェ」

 鋭い声を言い放つ。
 それはかなり無茶苦茶だ。
 見たくても暗いからはっきりとは見えてはいないし、気配で伝わってしまう事には目を逸らしたところで無意味だ。

 何より別に見たくて見ているわけでも、知りたくて知っているわけでもないだろう。

 この状況でそんなことをしている方がどうかしているとは全く思わないゾロだった。


「…ぅうっ……ッ……ゾロ……」

 我慢を重ね、苦しさに呻き、ゾロの名を呼んで身じろぐ。そのサンジの声、仕草はゾロにとって「待ち切れない」と言っている様にしか聞こえず、映らず。ゾロの股間を直撃、一気に元気にさせた。

 この状況で。


 そして、ゾロの下半身の興奮、熱を感じてサンジの我慢の限界が切れ……


「だぁああああああああ、クソあちぃいいっ!」


 切れたサンジが大きく薙ぐ様に右足を振るい、周囲一帯の海軍兵を蹴飛ばした。
 そのついでにがつんとゾロの左足の脛も蹴飛ばした。

「――がっ!」

 岩をも砕くサンジ蹴り。至近距離で十分な間合いではなかったから足の骨は無事だったが、痛いは痛い。
 痛みに微かに呻き、その場に這い出るゾロにその行為が事故だったのか故意だったのかは明かされる事はなかった。





「てめェ、コレを見ろ」

 ゴーイング・メリー号を追いかけて来たしつこ〜い海軍船を蹴散らした後、ゾロはサンジの前で左足のズボンの裾を捲り上げ、脛を指差した。
 言われて、サンジは立ったまま脛を見下ろし、一瞥。

「きたねェな。そのきたねェてめェの足がどうした?」
 いくらゾロのでも、野郎の生足には興味、反応のないサンジ。
「よ〜く見やがれっ!」
「アァ?」
 腰を幾分か屈め、良く見る。するとそこには青い痣が痛々しそうにあった。

「てめェ……」
「おう」
 わかったか。そう言いたげにゾロがふんぞり返る。
「脛に蒙古斑があんのか?」
「あるわけねーだろうっ!」

「こりゃてめェが蹴っ飛ばした後だ。どうオトシマエ付けるのかって聞いてるんだ、俺は」

「あ? ――ああ……オトシマエが欲しかったのか」
 蹴飛ばした事には心当たりがある。
 サンジはわかったと軽く頷き、「ほらよ」とゾロの左足を引っかけ、掬った。

「ぐあっ!?」
 突然片足掬われ、バランスを崩したゾロは反っくり返っる。何とかバランスを取った所、掬われた足をサンジに取られ、持ち上げられて保ったバランスを失い転倒。

 がつん。ゾロは後頭部を甲板に勢い良く打ちつけた。


「がっ、……何しやがっ――!」

 後頭部の痛みに顔顰め、左足を上げて転倒した逆さ姿勢のまま、サンジに抗議にしようと声を荒げ、最後まで言い切る前に思わず言葉を失った。

 サンジの唇が自分の左足の脛に――青痣になっている箇所に触れている。

 そんな所にキスをしている。


「何って……オトシマエ」
 ニンマリ。人悪の悪い笑みを浮かべ、サンジは言い放つ。

「痛いの痛いの飛んで行け〜……ってな」
 ククっと喉の奥を鳴らすように笑い、持っていたゾロの左足を解放。くるりと背を向けると何事もなかったようにサンジは去って行った。



 置き去りにされ、甲板に寝転がる形になったゾロは一人ぽつねんと空を見る。


「…………野郎」

 あれはオトシマエどころか仕返し。
 もしかしなくても仕返しされたのだろう。

 あの時、遮られた行為の欲望はゾロの中にはまだ残っている。

 それはきっちりオトシマエの形でつけて貰わねば――後で覚えていろと言わんばかり、ゾロは青く澄んだ空をサンジの変りに睨みつけた。



 ゾロがきっちりオトシマエを払って貰えたかどうかは……それはまた、別のお話。





※『息ピッタシ』のパラレルみたいなパロディみたいなゾロサンネタっす。だから辻褄合わせも適当っす(ヲイ) ごめんなさ〜〜〜〜い(><)ノ





前サイト「Color Separation」一周年記念にいただいた小説ですvvv
ありがとうございました♪
再アップに辺りコメントは省かせていただきました。





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