春眠、暁を覚えずとは、よくいったもの。 その言葉どおりのことを、実践する男がここにもひとり。 すやすやと夢見心地で眠るその男の横には、そんな穏やかな雰囲気とはウラハラな まさに極悪非道を夢見て生きてるような男が立っていた。 幸せの絶頂ともいえる寝顔を、今にも瞬殺しそうな目つきで見ているにもかかわらず、 殺気ともいえるその視線をものともせずに、眠り続けるのは、かの大物剣士ある。 ・・・・・ここで、煙草を吸って一呼吸。 「うりゃぁぁぁ、起きやがれ、このクソハラマキ!!」 犯行予告のない蹴りが冴え渡る。 事件勃発の瞬間であった。 蹴られた被害者ゾロは、当然のごとく・・・・ 「ぐはっ」と息絶える寸前に追い込まれるが、逆境から立上がるのも早かった。 「いきなり、なにしやがる!!」 当然のことながら、蹴られたことのほかに、夢から強制送還させられたこともあり、 機嫌も急降下していく。 しかし、蹴り起こした加害者サンジの方が、負けず劣らずなぜか、最上級に機嫌が悪い。 ここで無闇に反抗的な態度にでるとマズイなと本能で感じとる。 慌てず急がず心にブレーキ。 怒り高ぶる気持ちを押さえ込んで、犯行の動機を聞いてみることを試みた。 ・・・・・事情聴取開始。 「頭でも沸いたか、クソコック」 被害者なりのせいいっぱい譲歩溢れるセリフだったらしい。 「はぁ?そりゃお前のことだろ。春の陽気で頭が沸いてる変質者」 「なんだと」 「うるせぇ。いいか、今のお前に情状酌量の余地はねぇ」 「なんの話だよ」 「心当たりがねぇのか?あぁ?カツ丼食わしてやったのに、なんだその態度は!」 「だからなんだよ、そのカツ丼てのは。ケンカ売ってるのかよ」 「てめぇの売ってるものなんて、ゴミくずひとつ買う気なんかねぇよ」 「てめぇ、黙って聞いてりゃいい気になりやがって。オレが何したって言うんだよ!」 「自覚がねぇとはな、脳みそが筋肉番付ってのにも程があるぜ。 仕方がねぇ、オレの心への被害状況を説明してやる」 つい先ほどまでは、被害者だったはずのゾロが、犯人へと立場が逆転し、 心して聞けと言わんばかりに偉そうな態度で、話を始めるのは、自称被害者のサンジ。 「いいか、今日、みんなで花見の宴会やったよな」 「・・・ああ」 「その準備をするべく、このオレは皆がまだ寝静まってる朝に起き出して、せっせと宴会料理を作った」 「・・・それで?」 「いざ、宴会が始まったでも、あの肉好き船長のニクニク攻撃のおかげで座ることなく動き回り、 やっと一息つけると思ってビールでも飲もうと桜を見上げれば、宴会終了。 今度は、終わったら終わったで後片付けをして」 「・・・おお」 「で・・・その間、てめぇは一体何してた?」 「何って・・・・・」 「酒飲んでただけだろうがぁ!! しかも、疲れてヘトヘトになってるオレの横でぐーすか眠やがって!いい度胸じゃねぇか」 「いや・・・その・・・」 「言い訳無用だ!!大人しく罪を認めろ」 「罪・・・って言ってもよぉ」 「田舎のかあちゃんが、泣いてるぞ」 「だから、なんだよソレは。アホか」 「アホだと。このオレに向かってアホって言いやがったな!」 さっきより怒りのボルテージを全開にさせるコックをみて、心でため息をついてしまう。 (こうなると、手がつけられねぇ・・・・・) しかも、まだいい足りないらしく、恨みつらみともいえる言葉と一緒に、 呪詛のごとくマリモマリモと横で言い続けている。 (だぁぁ・・・うるせぇ・・・どうすりゃいいんだよ) なにか解決策をあみ出そうと、頭を捻っていると、急にコックがピタッと黙って静かになった。 (・・・ん?) 様子を見ようと、寝転がりながら横をみると、いきなり顔に煙草の煙を吹きかけられた。 「だんまりかよ・・・黙秘権使いやがって」 「んな、つもりじゃねぇよ・・・」 「もう、いいぜ。好きなだけ寝てろよ。俺も寝る」 部屋から出て行こうとするその背中を見て、さすがのゾロも慌てて起き上がり、 その場にとどめる為の言い訳を考えるが、慣れないことはできないもので。 なかなか、うまい言葉が頭に浮かばない。 「ちょっと、待てよ」 「待つかよ、クソが」 思考停止になっていた頭より先に、体が動いて腕を掴んだ。 「こっち、見ろよ・・・」 「見る必要なんかねぇよ」 「あっと・・・だから、そのよぉ・・・」 「・・・・・なんだよ・・・」 「・・・卵焼き・・がな」 「卵焼き?」 「・・・うまかった」 無反応な沈黙が、しばしの間流れる。 「おい、なんか言えよ」 沈黙に耐え切れず、返事を求めて言い募ると、捕獲した腕の持ち主が俯き加減で肩をかすかに振るわせ始めた。 「・・・どうしたんだよ」 「・・・・・・」 「おい・・・・」 「・・・・・・」 「っ・・・ぶぁははははははっ、くくく・・・くっ」 「てめぇ・・・」 「くくく・・・いや、お前って・・ほんと馬鹿だな。なんかもっとなかったのかよ」 「うるせぇ」 「あははっ・・くく・・って、腹いてぇ」 自分としては、とっさに出た言葉にしては上出来だと思うのだが、 いつまでも笑い続けるのをやめないサンジを見ていたら、なんとも言えない気分になる。 しかも、先ほど傷害を負わされた時の気持ちもだんだんよみがえってきて、 不貞腐れ気味になってきた。 それに気がついたのか、笑いを抑えるために煙草を銜えたサンジが、振り返りながら顔を上げた。 でも、振り向いたその顔は、長い前髪の間からどこか嬉しげな目を覗かせている。 「ったく、んなことぐらいで、ほだされる俺もどうかしてるぜ」 「何か言ったかよ」 「いや、保釈くらいしてやる。但し、保釈金だせよ」 「なんだよ、そりゃ」 「だから、払うといったら、これだろ?」 口に銜えた煙草を手に持ち返ると、掴んでいた腕を逆に掴み返され、 強引に引き寄せられるままのキスをされた。 唇を離すと、口元を吊り上げて笑ういつものサンジがそこにいた。 その表情からさっきの言葉と、このキスの意味を知ると必然的に顔に熱がこみ上げてくる気がした。 「ほんと、んな図体してこんな時はウブなんだよなぁ」 「お前のせいだろが」 「当たり前だろ。ほら、まだ1/10しか払ってもらってねぇぞ」 からかい混じりの台詞を言いながら、甘い態度も忘れず挑発してくる。 しかも、こんな顔されるとこっちが弱いことも熟知してるときてる。 (・・・・・確信犯だぜ) 全部知ってて騙される自分もどうかしてると思ってはみても、どうにもならない。 だから、悔し紛れに、切り札にしておいた言葉を言ってやる。 「別に、全部払わなくてもいいだろ。どうせお前も俺も、捕まってるのはお互い様なんだからな」 「・・・・・慰謝料も請求してやる」 「それも、お互い様だろ」 和解が成立したらしい。 |
私が描いたイラスト5枚をベースに小説を書いてくれました。
ありがとうございました♪ イラストを抜粋。 ■ ■ ■ ■ ■ |