Romantic Flower
やはり、アレには意味があったのだ、と確信が持てたのは、今年の誕生日に火村から贈られたものを見た瞬間だった。 綺麗にクリーニングされてはいるものの、決して新品ではないその指輪を、私は今までに幾度か目にしている。 小さな石を5つ並べてデザインしてある意味ありげな指輪が、意味ありげに火村の胸元にぶら下がっているところを。 本来、指にはめるべきものに鎖を通して首からぶらさげている──つまり、隠して身に付けている──時点で、その指輪に何らかの思い入れがあるのは決定だ。 仮にどの指にも合わないという物理的な事情や、人に見とがめられると面倒だといった心理的な事情があったとしても。 なぜなら、それが──そこまでして身に付けたいものだからだ。 * * * まあ、自惚れていると言われてしまえばそれまでだが、この指輪にはめ込まれている石が何を意味しているかは解る。いや、この指輪が私に贈られた時点で答えはそれしかあり得ない。意図した訳ではないのだろうが、青系で涼しくまとまったデザインの5つの宝石は私の名前を表しているのだ。 右から順にアメジスト・ラピスラズリ・これは不明・多分水晶・おそらくエメラルド。この宝石の名を英訳し、頭文字を取ってゆくと──Amethyst・Lapis lazuli・I*****・Cuartz・EmeraldでALICEになる。 時折、思いがけないロマンティックさを見せることもある火村ではあるが、道を歩いている途中、唐突にこんなことを思いつけるとは思えないから、どこかでリガード・リングに関する知識を仕入れたのだろう。 リガード・リングとは19世紀英国ヴィクトリア王朝時代に流行ったもので、宝石を並べて名前やメッセージを表す指輪のことだ。 因みに、『Regard』とは『尊敬』『敬意』『敬愛』を表す言葉である。 しかし火村──先輩にあこがれる高校生の小娘じゃあるまいし、いい歳をした男がそれをするか? 一応……いや本格的に君の恋人という立場である私でも、嬉しいというより退くぞ、コレは。 いやいや、退いてばかりいては火村が気の毒だから、ちょっと戻ろう。 火村と私がそういう関係になったのが、今から約5年前、指輪はともかくもう一つの贈り物が始まったのが8年前──その切ない片思いの期間と手間に免じてな。 * * * 「でいご……英名……検索っと」私はパソコンのブラウザを立ち上げ、目的の情報を手に入れた。 去年も、かなり時期はずれな物を無理して用意したように思われるこの贈り物に隠された意味があるのかと思い、まずは基本の花言葉を調べあげてはみたものの、途中で考えるのが嫌になって放り出した。 根性なしと言うなかれ。わがままな美人、夢・童心、恋の訪れ、美・愛情・内気な恥ずかしさ、謙遜・休息、祈り、果報者、と褒められてるんだかけなされてるんだか猛烈なアピールを受けているんだか解らない言葉の羅列を見せつけられては、大抵の人間は考えるのが嫌になる。 いや、あの火村が花言葉なんかでメッセージを送ってくると思った私が間抜けといえば間抜けなのだが。 花言葉なんてものは、参考にする本や、同じ花でも色によっても解釈が変わる。 そんな──推理小説では度々目にするが、現実的には捜査一課の刑事でさえも見たことのある者が極々少数だろうと思われる──ダイイングメッセージみたいに、曖昧な謎解きは火村の好むところではないのだから。 例え、火村が本物のダイイングメッセージを目にしたことのある極々少数の人間であったとしても。 小説だろうが現実だろうが好きは好き、嫌いは嫌い、どうでもいいはどうでもいい。 人の好みなんてそんなものだ。 その火村の好みと、今年贈られたリガード・リングから察するに、キーワードは頭文字。 仮にも推理作家のくせに、ここまでしなけりゃこんな単純な暗号も読みとれないのかと顔をしかめながら、今年のプレゼントを贈って寄こした火村の表情が、今更ながらに目に浮かぶ。 だが、私にも言い分はある。 それならそうと、もっと解りやすい花を贈って寄こせ。 植物学者じゃあるまいし、どこの世界に咄嗟にでいごの花の学名が解る推理作家がいるというのだ。 せめて英名にしておけ、英名に! いや、学名だろうが英名だろうが調べなければ解らなかったのは同じなのだが、DCAで始まる存在しない単語に踊らされ、解答に辿り着くのが遅れたのは確かだ。 もっと早くこの答えに辿りつけていたなら、もっと早く君を抱きしめたくなっただろうに。 もっと早く君にありがとうと言えただろうに。 もっと早く君の想いにむくいることができただろうに。 だって、ほら。 今の私は、数日後に火村と会う予定があるにも関わらず、それまで我慢できなくて、車のキーを掴んで玄関を飛び出してしまっているのだから。 * * * 1年目は、デンドロビューム(Dendrobium)2年目は、でいこ(Erythrina crista-galli《英名はCoral tree》) 3年目は、アガパンサス(Agapanthus praecox) 4年目は、薔薇(Rosa) 5年目は、エリカ (Erica canaliculata) 6年目は、サンダーソニア(Sandersonia aurantiaca) 7年目は、チトニア(Tithonia rotundifolia) 難しく考える必要は全くない。 リガード・リングならぬリガード・フラワー。 ただ順に花の名前の頭文字を取って並べれば、火村から贈られた言葉が浮き上がる。 DEAREST──最愛の人 2005.05.09
大層、タイトルに偽りあり感が漂う仕上がりの話ですね、こりゃ(爆) |