The Made Mystery
それに気付いたのは偶然だった。 2年も前からタイトルだけは読者に知らされていたにも関わらず、この春やっと出版された推理作家のハードカバーの新刊。 文庫や新書ならいざ知らず、ハードカバーの本では、いくら好きでも手が出しにくい。 ましてや、自由になる金の少ない高校生なら特に。 当然のように、その本はウチの高校の図書室でも順番待ちをしなくては読むことができなかった。 差し出された予約ノートにクラスと名前を書いて、図書室を一回り。 不思議なことに、すごく読みたい本がある時というのは、他に読みたいと思う本が見つからないもので。 仕方がないので、予約を入れたシリーズを再読することにし、3冊ばかり手にして貸し出しカウンターに向かう。 記入お願いしますと差し出された図書カードを見て、驚いた。 再読だから、そのカードに俺の名前があるのは当然。 でも、俺の名の直後にことごとく同じ人物の名前があるのは何故だ? ──同じ作家が好きであるなら起こりうる偶然。 そう結論づけてしまうのは、簡単なことだったけれど、そうは思いたくなかった。 探偵は何故、謎を解くのか。 それは、そこに謎があるから。 ましてや、記されているのが彼の名であるならば。 これはきっと、俺が解くべき謎な筈だから── ‡ ‡ ‡
何となく答えは見えているのに、それを裏付ける為の証拠がない時の探偵はどんな気持ちなのだろう。 そんなもやもやした思いを抱えたまま、気付けばひと月が過ぎていた。 そう、本当に『気付けば』という感じで。 あんなに楽しみにしていた推理小説を予約していたことさえすっかり忘れる程に。 昼休みに呼び出され、その本をやっと手にしたというのに、何の感動もない程に。 「──さんですね。」 俺の名を確認して予約ノートに赤ペンで線を引く図書委員の手元を何の気なしに覗き込むと、やはり俺の真下に彼の名がある。 ──こんなにも状況証拠は揃っているのに・・・ そう思うと、ため息が漏れた。 本当に、こんな時探偵はどうするんだろう。 ‡ ‡ ‡
『証拠がないなら、作るまでさ。』 目から鱗が落ちる──というのはああいった時のことをいうのだろう。 気乗りしないままに、それでも本を読み進めていた俺の目に、この文字が飛び込んできたのは、本を借りてから3日経った昨夜遅くのこと。 あと、30ページ程度で終わるその本を、俺は急いで読み進めた。 その本の結末はこうなっていた。 探偵が謎を仕掛け、犯人がその謎を解く。 そして、その全て解けた時、犯人は自ら探偵の元へ足を運ぶことになる。 動かぬ証拠と共に。 証拠を作る── 少々アンフェア感のあるやり方だけれど、推理小説としてこの作品は決してアンフェアなものではなかった。 その事実が、俺に勇気をくれた。 そう、証拠がないなら作るまで。 図書室のカウンターに読み終えたばかりの本を差し出し、深呼吸をひとつ。 「──返却、お願いします。」 図書カードに記された名が俺の解くべき謎ならば、この本に挟み込まれた定期券は彼に解いてもらわなくてはならない謎だ。 これがきっと── ───この物語の、次章の扉を開く鍵となる─── ─The End.─ 2004. 05. 15
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※どこまでもチャレンジャーだな冴木。
こーゆーことすると実力の差がはっきりと出るというのに(爆)
まっ、桐島さんの素敵な話とは別物だと思って読んで頂ければ、
あまりお怒りにならずに済むかと思います。
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