祈 い
『近所で事件が起きたから今日は遅くなる』
と、アイツからメールが入ったのは、その日の22時。
こんな報告メールを入れる時間としては既に充分遅い。
だが、俺はそっと安堵のため息をついた。
便りがないのは元気な証拠とよく言うが、アイツの場合はそうじゃない。
便りがないのは瀕死の証拠。
思い起こせば2年前。
急にアイツとの連絡が取れなくなった。
普段から必要以上に律儀な奴で、時間がないなら時間がないと連絡を入れてくるようなアイツが、俺が携帯の留守電に入れたメッセージを10日間も無視した。
その間、いつ掛けたって携帯の電源は切れたままで。
俺がその理由を知ったのは、担当していた強盗事件の犯人に腹部を刺されて昏睡状態だったアイツの意識が戻ってから。
ほんのちょっと前までいわゆるお巡りさんをやっていたアイツが、刑事──しかも強盗犯担当──になって、わずかふた月。
漠然と感じていた不安が、現実になった。
しかも、こんなに早く。
自分でも、大人になってからあんなに怒ったのは初めてだと思う。
「ばかやろうっ! 自分の命も守れないなら刑事なんかやめちまえっ!」と叫んで、アイツを殴る代わりにTVが上に乗っかっている冷蔵庫を思いっきり殴って、看護士にえらく叱られた。
でも、「ごめん」と小さく呟くアイツは、俺が怒っている理由を充分に解ってくれていて。
だから、二度とこんなことがないように俺がお前を見張っていると、同居を申し出た時に素直に朝・夕飯付きの寮を出てくれたのだろう。
男同士の二人暮らし。今までよりも格段に食生活がわびしくなることを知った上で。
気が向いた時に、デパ地下で総菜くらいは買ってくるが、毎日晩飯の用意をしている訳じゃない俺が言った、遅くなる時は絶対に連絡を入れること、という約束も律儀に守ってくれて。
同じ公務員でも、殆ど毎日定時に上がれる俺と違って、アイツの定時なんてあってないようなものだ。
それでも、きちんと連絡を入れてくれるのは、約束したから。
父親も警察官だったというアイツは自分の仕事に誇りを持っている。
いくら親友のお前の頼みでも、警察は辞められないけど、約束する──俺は死なない。
そう、アイツは言った。
そんなアイツに俺がしてやれることなんて、たかが知れている。
待っていること──ただ、それだけ。
それでも──
もし仮に再び何かがあった時、アイツが俺との約束を──待っている俺のことを思いだして、それがこの世に踏みとどまろうと頑張る理由のひとつになるならば──
それだけで、アイツを待ち続ける意味はある。
だから、待ち続けよう。
俺が、アイツを待ち続けることに、意味がないことを願いながら──
─ FIN ─
※コレ、そもそもは日記に上げてあったSSなのです。
それに紗香さんがコメントくれたので、調子にのってリクした次第。
日記に掲載した時は、『ひとネタ』というタイトル(爆)だったのですが、
そのままじゃあんまりなので、改めてタイトルつけました。
無理矢理『ねがい』と読んで下さい♪
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