平日の昼下がり── 足かけ5日に及ぶ大阪でのフィールドワークを終え、リビングのソファでくつろぐ火村の姿が愛おしくて、私は背後から助教授の頬を両手で掴むと、若白髪の目立つその髪の毛に顔を埋めた。 君がここに帰ってきて穏やかな午後を過ごしているそのことを、私は神ではなく君自身に感謝しよう。 「んっ? どうした。」 と、くわえ煙草で下から火村に見上げられ、本当のこというのも照れくさくて、私は告げる。 「君、すっかりうちの匂いになっとるで」 「何だよそれ」 「シャンプーも、洗濯したてのそのシャツも、君が頑固な寝癖直すのに使うたワックスも全部俺と同じ匂いがする。せやからうちの匂い」 「そういうお前だって……」 ここで一端言葉を切って、火村は煙草の煙を私の前髪へと吹きかけた。 「すっかり煙草の匂いがしみ付いてるぜ」 ニヤリと笑って言うと、火村は私の首に左手を掛け、身体をねじって唇をあわせてきた。 1度目は軽く唇が触れるだけの。 次はもうちょっとだけ深く、入り込んできた火村の舌が私の歯列をひと撫でだけしてすぐに離れる。 「残念、飯食った後じゃ、歯磨き粉の味までは判らねぇか。折角同じ味なのにな」 おどけた表情で言う火村に、私はソファをぐるりと回って彼の隣に腰掛けると、その右手から煙草を取り上げた。 「歯磨き粉やなくても、こうすれば同じ味やろ」 既に半分位の長さになっている煙草をふた口ばかり吸ってから、今度は自分から火村に口付け舌を絡める。 「確かに」 言って火村は、人差し指で私の唇の輪郭をなぞった。 そして、私の手からすっかり短くなってしまった煙草を取り上げると灰皿に押しつけた。 その煙草の匂いが残る指で私の髪を絡め取ると、火村はゆっくりとした動作で、私をソファへと押し倒す。 きっと── もっと多くの匂いを共有するために── FIN 2003. 06. 06
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※……もしかしなくても、私って匂いフェチ? ガーン!
最近こんなのばっかり書いている気がします。
※織田さん、こんなんで良かったでしょうか? 怒ってませんか?
この素敵なイラストを描いてくれた織田ゆうこ様のサイトは コチラ→GO!
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