マジで恋した5秒後に |
ずっと怖かった。剛が、いつも女の人を切り捨てるように俺のことも捨ててしまうんじゃないかって。見てきたから。「バイバイ」って、感情の消えた顔して、涙でぐちゃぐちゃの女の人の顔見ながら言い放った剛。もし捨てられたら、俺はどうなっちゃうんだろう・・・。
「健!帰るぞ!」 ロケの後、解散してから2人でメシ食いに行こうって言い出したのは剛。こんなこと初めてじゃないのに、俺ばっかりドキドキして嬉しくなってちょっと悔しい。 「待ってよ剛!」 「早くしろよ!ったくトロイんだからよぉ」 「もーそーゆーコト言う?!恋人に対して」 最後はちょっと声を潜めた。その様子がおかしかったらしく、剛がいつもの子供っぽい笑顔を見せる。俺、こんな剛が悔しいけど大好きだったりするんだよなぁ。何気なく繋いでくれた手から剛の温かさが伝わって、寒い夜だけど寒くない。 少し歩くと、いつもの定食屋についた。中に入ると煙草の匂いが鼻につく。若い子があまり来ない店だから今日みたいに7時とか、 8時とかに来ても落ちつける。2人して唐揚げ定食を注文した。これは実は俺が剛と同じ物を注文したってことでもある。 隣に剛がいるこの瞬間が好き。唇を重ねていなくても、肌が触れ合っていなくても、剛の温もりが気配で伝わるこの居場所が好き。こんなこと思ってんの俺だけかなって不安になる時もあるけど、時折照れたように体を摺り寄せてきたり、手を触れ合わせたりしてくれる剛がいるからちゃんと信じられるんだなって思う。 「ねぇ剛!今度の水曜日ってオフでしょ?俺もなんだ。どっか行かない?」 アツアツの唐揚げに夢中で食らいつく剛に俺は言った。 「あー・・・悪い。友達と約束してんだ。」 ふと思い出したように言う剛にちょっとガッカリする。その沈んだ顔に剛が気付いて、頭をくしゃくしゃっと撫でて笑う。 「またこんど、な。」 「うん・・・。」 しょうがない。剛は俺だけのものじゃないし、俺だけにかかりきりになって友達と遊べなくとかしたくないから。ま〜そんなことは剛自身が認めないだろうけど。 ふと剛の性格を考えて俺は問い掛けた。 「まさか女の人じゃないよね?」 「・・・ちげーよ」 あっやばっ、剛怒ったかも・・・。 「ご、ごめん剛!信用してないわけじゃないんだよ。ただなんとなく思っただけでっ!あぁ〜怒んないでー!」 カナリ焦って俺は一気にまくし立てた。剛って一度怒るとホント手が付けらんないんだもん。 「お前のことは本気 (マジ ) だから・・・。」 「はぇ?」 今、剛の言ったことの意図がわからなくて思わず変な声出しちゃった。でも赤くなる剛を見て超嬉しかった。突然こんなこと言うなんて剛らしくないかもだけど、俺は幸せいっぱいだった。
水曜日。 結局俺は休みが合う友達を見つけられなくて、1人で家でボーっとしてた。それでもなんかつまんなくて、スッキリしなくて、ぶっちゃけて言えば剛が居なくて寂しくて、何気なく街に出かけた。もう日はだいぶ傾いていて、街は学校がえりの若者で溢れてた。お気にのアクセの店まわったり、服とか見ながら歩き回ったけど、ドキドキもワクワクもしなくて、やっぱりなんか満たされない思いだった。そんな感じでぶらぶらしてたら突然俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。 剛が女の子と歩いてた。楽しそうに笑いながら、ショートヘアの小柄でカワイイ女の子とまるで普通のカップルみたいに。俺の中でずっと感じてた不安が現実となって壊れ始めたみたい。涙なんか当たり前過ぎて、家に着くまで一滴だって零れなかった。 わかってたんだ。俺だっていつかは切り捨てられること。ただあまりに突然過ぎて、ついこの間の剛があまりに優しすぎて、それ以上に気付きたくなかった俺自身の弱さ。剛に捨てられたときに壊れる俺自身の弱さが痛いほど胸に突き刺さって・・・。 剛が一度教えてくれたっけ。泣く時に目をこすったり拭ったりすると跡が残るって。流れるままにしなきゃだめだって・・・。
「はよーっす!」 カミセン3人だけの仕事。今日はまだ剛に会いたくない。だからこんなふうに楽屋に入ってきた剛を正面から見ることができなかった。こんな醜い心のままの俺を見られたくない。 剛の笑顔を見たら、必至に堪えてるものが溢れてしまいそうで。不様に「俺を捨てないで」って縋りついてしまいそうで。岡田が居れば少しは空気が和むのに、岡田はさっきスタッフの人に呼ばれて行っちゃったから、俺が口をきかないとしんとした空気が広がってしまう。剛が気付きませんようにって願ったけど、そんなのムリだった。 「健。お前昨日泣いた?」 実に剛らしい、率直な質問。 「そ・・・んなことな・・・」 普通にしなきゃ・・・。剛を失いたくないから。普通にしなきゃ、剛を失う時間が早まってしまうから。 あ、やば・・・泣きそう・・・。俺の瞳からはずっと必死でホントに必死で堪えてた涙が落ちた。あ−・・・剛がビックリしてる。そんなふうに思わず客観的に考えてしまった直後、俺は抱き締められていた。 「なぁ、俺バカだからわかんねぇんだけど。何かした?俺、お前のこと傷つけた?」 溢れ出した涙が止まらない。言葉が上手く繋げなくてもどかしい。 「ごお・・・俺の・・ことッ・・・捨っ・・てない・・で・・・」 「俺がお前捨てるわけ無いじゃん。」 「うそ・・・だっ・・て・・昨日・・・女の・・子とっ・・歩いて・・・」 剛の顔が紅くなるのが哀しい。 「あ・・れは!前まで付き合ってた奴!別れようっていったら1日だけデートしろって言うから昨日だけ付き合ったの!すっぱり別れたかったから!」 「な・・んで・・?」 「お前とちゃんと付き合いたいからに決まってんだろ!」 ・・・え・・・? 「お前なぁ〜俺がどんだけお前の事マジか知らねーだろ。」 突然の話の切り替えに頭がついていかない。ただ、涙が嬉しさに少しずつ満たされていくのはわかる。 「俺、マジでお前の事好きだから、いい加減な付き合い方はヤだったんだよ。だから女とも別れた。お前1人だから。」 「ほ、ほんとに・・・?」 「マジ!ホント!だから俺の事で泣いたりすんなよ・・・頼むよ。」 はぁーっと大きくため息をつく剛が、ホントに俺のこと想ってくれてる事が伝わってきて嬉しい。すごくすごく嬉しい。 「俺がお前捨てるなんてぜってー無いから。お前も俺の事捨てんなよ。」 「俺も、剛の事捨てるなんて絶対無いよ。」 自然と唇が近づいて触れるだけのキスだけど、俺にはそれで十分だった。再び愛を確認し合えて結果的には良かったかな♪
俺達は何度も軽いキスをして、何度も微笑みあっていた。廊下で、岡田が一部始終を聞き赤面しているとも知らずに・・・。
君の言葉が信じられなくなる時が、いつかまた訪れるかもしれない。 だからその時はもう一度言ってね。 そしたらきっとまた君を信じられると思うから。 何より大切なものがきっとまた信じられると思うから。 弱い自分と向き合って強くなれると思うから。
THE-END
☆あとがき☆
私好みの切ない系剛健☆健くんに限らず、受をむやみに泣かせたがる私としてはドキドキもんでした。健くんもそうだけど、剛くんが本当に健くんを好きなんだな〜って思いますね。あと岡田さん…(笑)大変ね、あの二人と付き合わなければならないなんて(笑) |