PURE |
その日 俺は 天使を見た
「井ノ原くん。ねぇ〜井ノ原くんってばぁ〜。」 「ん・・・?健・・・?」 不機嫌な声にうっすら目を開けると、ふくれっつらの健が、まず視界に飛び込んできた。 「も〜やっと起きたぁ〜。折角のオフなのに寝てばっかりいないでよぉ〜。」 「っつーか健、寒くねーのか?」 昨夜は行為の後、二人ともすぐに眠りについたので服は着ていない。今の健は下着のみだ。三月だからといってもさすがに朝は寒い。 「井ノ原くんが服貸してくんなきゃ無いよ〜。昨日汚しちゃったんだし・・・。」 あぁ、そっか。と納得しながらモソモソと起きあがる。何で汚れたかはわかってる。昨夜は、少し酒も入っていたせいで夢中だった。服だって脱がせるのがじれったくて乱れさせただけで行為に及んだから汚れたんだ。 「そこの棚。上から二段目。」 単語だけを並べてタンスを指差し、俺はまた布団に潜り込んだ。服を着ながら、健はまた口を尖らせる。 「ねぇ〜。外行こうよぉ〜。買い物!俺いいアクセの店見つけたんだ!ねぇ〜行こ〜。」 こうなると健は手がつけられない。俺もこんな健には甘い。 「はいはい。んじゃ、まずメシ食ってからな。」 俺は諦めて布団から這い出し、トレーナーを被りながら財布をズボンのポケットに押し込んだ。 「やった♪」 俺ってホント、健には甘いよなぁ〜。 街に出ると、さすがに東京とはいえ平日の真昼間は人が少ない。 「あ・ここだよ。ここ!」 健はするりと俺の手を解いて、待ちきれないとばかりに駆け出した。 「け・・・」 ったくもぉ、子供みたいだ。 外に出してある商品のかごの中から二つのネイティブアメリカンの指輪を取りだし、見比べながら頭をひねり出した健を見て、俺は思った。でも、こんな健だからこそ俺は健が好きなんだからしょうがねーよな。 それから俺達は、アクセの店でペアの指輪買ったり、メシ食ったり、CDSHOPで試聴しまくったり、時に旅行にきていた地方の人らしき女の子にサインを頼まれたりして、まぁ〜それなりに楽しい時間を過ごした。健の隣で、これ以上無いくらい落ちつける場所で、健の温もりを感じて、健の笑顔を見て、俺はこれ以上無いくらい幸せだった。
夕方の公園。砂場に残された忘れ物のスコップ。ブランコの揺れる音。親子連れはもうほとんど帰路に着いたらしく、誰も居なくなったもの寂しい公園に二人は着いた。「もう帰るか?」と井ノ原が訊いたところ、健は「公園に行きたい。」とだけ答えたのだった。 「井ノ原くん、大好きだよ。ずっと、俺は井ノ原君のこと大好きだから・・・。」 突如、真面目な顔でつぶやいた健。夕日を背にした健の顔には、付き合いだした頃からずっと消えない不安と寂しさの影があった。 「俺も・・・。健が大好きだよ。」 そう言って、井ノ原は健を抱き締めた。何時になったらこの影を消すことができるんだろう。ずっと井ノ原は自分に問いかけ続けてきた。健のどこか怯えたような顔を見るたびに、井ノ原の胸は締め付けられるように痛くなるのだった。 「あ・・・。」 ふと、健が空を仰いだ。小さな白い華がチラチラと舞い降りてきた。 「雪だ・・・。」 「わぁ〜・・・。」 先程の影を消して、健は笑顔を零れさせながら走り回った。その姿に白い雪は降り積もって・・・。そう・・・。まるで健は天使だった・・・。
「明日の朝は早いんだからな!健、早く起きろよ!」 そう言って俺は電気を消しながら、健と唇を重ねる。深く長いキス。健の息が上がってきた頃、俺は不意に唇を離した。 「どうしたの?」 俺はベットにゴロンと横たわって健を手招きした。 「んー、今日はキスだけにしとく。」 「なんで?」 「たまには、なんもしねー夜があってもいいんじゃねー?」 俺はいたずらっぽく健に笑いかけていった。 「ん。そうだね。」 健も微笑み返した。 抱きしめ合って、俺達は深い眠りに落ちていった。 今夜は天使を汚したくなかった・・・。
THE-END
☆あとがき☆
天使な健くん!いいんですよ、健くんは幼くて天使のままで。おそらく、それが許される人なのではないかと。いや、私も健くんは天使っぽく、子供っぽく書きたいというか、書く傾向があるので、同じような傾向の話は大好きなんです。岡田くんは無理して絡めなくてもいいよ〜。苦手な、嫌なものは書く必要ないからね〜。 |