共犯者


上田が泣いている。

良くあることだと言えば確かにそうだ。

恋人の筈の、中丸の冷たい態度に泣いている。

最近のアイツの態度を見ていれば、分からないでもない。

けれど、上田が今泣いている。

俺の前で、俺だけに涙を見せて泣いている。

どんなに辛いか悲しいか…時折こぼしながら。

それだけで、俺の心を乱すには十分な条件だ。

何で上田だけが、こんなに泣かなくちゃいけない訳?

何で上田だけが、こんなに苦しまなくちゃいけない訳?

どんなに苦しいかを訴えても、決して中丸を悪く言ったりしない。

どうしてそこまでして、中丸を守ろうとするんだよ。

どうしてそこまでして、中丸を好きでいられるんだよ。

どうして。

どうして……。

「…あか…にし?」

急に抱きしめたから上田が驚いて、涙で濡れた目をぱちくりさせた。

「…もう、考えるなよ」

ひっく、としゃくり上げながらも、俺の言葉の意味を探ろうと潤んだ瞳を向けてくる。

…この涙は、全部中丸のためのモノ…。

これ以上流して欲しくなくて、その瞳に唇を寄せて舐め取った。

しょっぱいはずのそれも、上田のものだと思うとどことなく甘く感じる。

「や…!赤西…っ」

当然嫌がり身を引こうとする上田を更に強く抱き締めて、唇を奪った。

驚きからか、上田はぴたりと抵抗を止めた。

柔らかい…想像以上に柔らかい唇の心地良さに名残惜しさを感じながらも唇を離した。

「赤西…どうして…」

「上田が欲しい」

「え…?」

「好きなんだ。上田が。中丸のことで苦しむ上田を見てるとすっげー辛い」

自然な流れだった。

俺の告白も、無理なくベッドに倒した身体も。

何もかも、不自然なくらいスムーズに進んだ。

「赤西、ゴメンね…」

「謝るなよ。分かってたことなんだから」

俺の下で複雑な表情をしているだろうその顔を敢えて見ないようにして、上着のボタンに手をかける。

上田の腕はベッドに投げ出されたまま、俺を拒むことも、引き寄せることもしない。

ただゴメン、と繰り返すばかり。

「オレ、中丸が好きなんだ」

「うん」

「中丸はオレのこと、もう好きじゃないかもしれないけれど、それでも好きなんだ」

「うん」

投げやり、という感じはしない。

ただ淡々と事実を紡いでいくだけの上田に相槌を打つ。

俺は今ままでずっと欲しかったものが手に入るというのに、妙に冷静になっていた。

「でも…」

するり、と何の前触れもなく、俺の背中に回された腕。

「今だけは、忘れてもいいのかな…?」

揺れていた。上田の瞳が。

カラコンを外した上田の本当の瞳が。

「…忘れろよ」

中丸への悲痛とも言える想いも、背徳感も罪悪感も。

全て忘れて、今は俺だけのモノになってよ。

「赤西」

「名前…『仁』って呼んでよ。今だけでいいから…」

「仁…オレを愛して…中丸のこと、忘れさせてよぉ…」

流れ出した新たな涙は、俺のモノだと信じてもいいだろ?

「上田…愛してるよ…」

綺麗な、キレイな上田。

その全てを手に入れることは、きっと一生無理だろうけど。






不意に零れた俺の涙を拭ってくれた指先の温もりに、胸が締め付けられる思いがした。






俺達の秘密。

一度きりの共犯関係。











END











 オチが…オチがいまいち。初の赤上なのに。これ実は最初亀上で書いていたんですけど…亀梨だとどうにも上手くいかなくて、赤西にしちゃいました。途中で「これって赤西っぽくないか?」と思いまして。どちらも書きたかったからいいんだけどね。竜也さん、プチ浮気ですよ〜。

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