願いを叶えてくれる人


 やっぱり雨か…。

 竜也くんは溜息をつきながら、楽屋の窓から空を見上げました。

「上田、どうかした?」

「ん〜?」

 その様子に気付いたカメちゃんは、竜也くんに声を掛けました。

「元気ないじゃん、どうかした?」

 カメちゃんに便乗して、仁くんも竜也くんを気に掛けます。

「ん…雨だなぁって思って」

「はぁ?まぁ雨だけど…そんなの最近ずっとじゃん。今更じゃね?」

 相変わらず理解不能な竜也くん。仁くんとカメちゃんは首を傾げます。

「うん…そうだけど、今日は…」

「あー!わかった!七夕だ!」

 竜也くんがすべてを言い切る前に、カメちゃんは大声で言いました。

 あまり大きな声が好きではない竜也くんは眉を顰めて「煩い」と訴えます。

 しかしそんなものは仁くんとカメちゃんには通じません。

 二人とも大声で喋り続けます。

「七夕だよ七夕!仁、短冊書こうよ」

「おう!って、どこにあんの?」

「そこらのコンビニにでも売ってるっしょ。今日は七夕なんだし」

「そっか。無かったら自由帳みたいなのを短冊形に切れば良いだけだもんな」

「じゃ、ちょっくら買い物行ってきま〜す」

 二人が出て行くのを見届けた竜也くんは、再び窓の外へと目を向けます。

 騒ぐだけ騒いだ二人が出て行ってしまうと、途端に楽屋が静かになりました。

「…雨…」

 ぽつり、と呟くと今度は、試験勉強に勤しんでいた淳之介くんが口を開きます。

「雨だと都合悪い事でもあるの?」

 竜也くんはちょっと困った顔をして「ある」と答えました。

「だって、雨だと願い事が叶わない…」

 いかにも竜也くんらしい理由に、淳之介くんの頬が緩みます。

 竜也くんはいつも自分の論理で不安になったり落ち込んだりするので、今回も淳之介くんはあまり刺激を与えないよう、安心させてあげたいと思いました。

「どうして?雨だって叶うんじゃないの?」

「うぅん」

 竜也くんは首を横に振りました。

「ずっと前に、雨の七夕の日にした願い事、叶わなかったもん」

 今にも泣くんじゃないか、と言うくらい悲しそうな顔をするので、見ている淳之介くんの心も苦しくなります。

「ずっと一緒にいたいって、お願いしたのに…」

 淳之介くんは、竜也くんが以前大好きだった恋人と別れたときの事を知っていたので、やりきれない思いがこみ上げてきました。

 きゅうっと竜也くんの寂しそうな背中を抱きしめてあげます。

 その時、急にドアが開きました。

「おっはよ〜、って田口、何上田に手出してんの」

 ズカズカと入ってきたのは遅刻魔雄一くん。今日は遅刻ではないようです。

 目の前の光景に驚いて、竜也くんを慌てて淳之介くんの腕の中から救出します。

 竜也くんを取られた淳之介くんはちょっと悔しそうですが、雄一くんも竜也くんも気にしません。

「だめだろ?俺以外のヤツに触らせちゃ」

 雄一くんは竜也くんの頭を撫でながら、優しい声で注意します。

 竜也くんは嫌々をするように首を振って、雄一くんにしがみつきました。

「中丸どこにも行かないで…」

 今日はまだ、竜也くんが不安になる理由が思い当たらない雄一くんは、隣の淳之介くんに救いを求めてみます。

 淳之介くんは、雄一くんが来るまでの事を話してあげました。

 状況を理解した雄一くんは、いつの間にか泣いていた竜也くんの涙を拭って、淳之介くんの前だというのにほっぺたにキスをしました。

 竜也くんは吃驚して、涙が止まってしまいました。

「俺が竜也の願い事を叶えてやる!」

 何を言い出すのかと、竜也くんは更に吃驚。

「俺が竜也の彦星になって、絶対叶えてやる!雨が降ったって関係ねぇ。だって彦星はココにいるんだからな」

「な、中丸ぅ〜」

 雄一くんがとても頼もしく見えた竜也くんの目から、再び涙が溢れ出します。

「ありがとぉ…。お礼にオレも、中丸だけの彦星になる…」

「いや、それはダメ」

「…何でぇ?」

 雄一くんに拒否されたと思った竜也くんはショックで泣き崩れました。

 今流れている涙はさっきまでの嬉し涙ではなく、悲しみの涙です。

 雄一くんは慌てて弁解します。

「違う違う。竜也に願いを叶えて貰いたくないんじゃなくて、お前には俺の織姫になって欲しいの!」

「…織姫?」

「だって織姫と彦星って、恋人同士じゃん。だから俺が彦星なら、竜也は織姫なの。わかった?」

 確かに彦星というより織姫かもしれない、と横で聞いていた淳之介くんは思いましたが、二人の会話に口を挟むような野暮な事はしません。

 コクンと頷く竜也くんは雄一くんの目に、本物のお姫様のように可愛らしく映りました。

 明らかに女の子扱いなのにそれで良いのか、と言う気もしますが、本人が納得しているならもう何も言いません。

 結果、竜也くんを慰めようとした淳之介くんは二人の中を見せつけられただけとなり、もう勝手にしてとばかりに試験勉強に戻りました。






 それから間もなく、仁くんとカメちゃんがコンビニでゲットした短冊を手に戻ってきました。

 学校行事で来られない聖くんを除いた五人は和気藹々と短冊を書いて、スタッフが持ってきた小さな笹に結びつけました。

 欲張りな五人は一人十枚以上も短冊を書いたようで、笹の葉より短冊の方が多くなってしまいました。

 そんなに沢山…皆の願い事は何だったのでしょう。

 あ、でも竜也くんはその中の一枚に、「中丸とずっと一緒にいたい」って、書いたみたいですよ。











END











え〜、七夕もの…なんですけど。語りの所為か全体的にやたら幼い雰囲気になってしまいました。苦手な方ごめんなさい。語りはまるで幼稚園児のお話みたいなんだけど、中身はフツーに平均年齢18歳です。そのギャップを楽しんで頂ければ。それから聖ゴメン…出せなかった…(汗)

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