隣ニ在ルベキモノ |
隣に在るべきモノ。 君の声。君の笑顔。君の体温。 それは確かにずっと傍らにあったモノ。 気付かないほど、近くに。 原因は、明らかに自分にあると思う。 「上田ぁ、今日ウチ来る日だったよな?」 「うん。何?もしかして駄目になった?」 「いんやぁ?今日はカメが斗真と帰りに買い物行くっつってたから、あ〜なら俺は上田と一緒に帰ればいいじゃんって思って」 「なるほどね。いいよ。もう支度できたし、いこっか」 「あぁ」 …上田と赤西の姿が見えなくなって、溜息が出た。 二人して最近始めたギターを練習するだけなのは分かってる。 赤西には亀梨っていう、これでもかというくらい溺愛している恋人がいるから、浮気だとか、そーゆー心配はしていない。 けど…。 いつからだろう。上田から一緒に帰ろう、と誘われなくなった。 それだけじゃない。 楽屋にいる時も一人で鏡を見ている事が多く、会話も何もあったもんじゃないし、一時期あれほど行き合っていたお互いの家にも、全く行っていない。 俺たちって、付き合ってる…はず…なんだけど。 「中丸、溜息つきすぎ。苛ついてるんでしょ」 田口か…何でよりによってコイツと二人っきりになるかな。 「…うっせぇよ」 「…上田の気持ち、少しは分かった?」 冷たい声。いつもの田口とは違う。 俯いていた顔を上げると、声音とは対照的に、まるで何事もなかったかのように普段通りに帰り支度をしている田口が目に入った。 「中丸が聖や亀梨くんとばかりつるんで、ほったらかしにされてた上田の気持ち」 声音と行動のギャップに戸惑っていると、今度は向こうが顔を上げて、こっちを見てきた。 「自分は放っておいたのに、向こうから離れようとすると急に惜しくなったんでしょ?それって都合よすぎない?」 自分でも分かっていたこと…なのに人に言われると無性に腹が立つのは勝手だろうか。 俺だって、今まで上田のことそっちのけで他のヤツと遊びに行ったりだとか、あまり構ってやらなかったりしたから、今更だけど悪かったと思ってる。 今更だけど…元の関係に戻りたいって思ってる。 「っつーか、お前にそんなこと関係ないし」 言ってしまってから、ハッとする。 言い過ぎた。田口だってメンバーなんだから、関係ない訳がない。 でも、田口はそのことに怒りを露わにすることもなく。 「…そうだね。これは中丸と上田の問題だから。俺はこれ以上口出さないけど」 気味悪いくらいにあっさり楽屋を出て行った。 「じゃぁね、また明日。自業自得の中丸くん」 何もかも見透かしたような顔して。 一人きりの部屋で考える。 いつの間にか、口数の少なくなった上田。 誰からもミステリアスと言われるようになった上田。 鏡ばかり見ているせいか、凄く綺麗になった上田。 …俺の側から離れていった上田。 こんなにも上田は俺の心を占めているのに、俺は何もしてやらなかった。 楽屋で聖やカメと騒いだりしていると、目で「構って欲しい」と訴えていたのに。 いつからかそんな目をすることもなくなって、気付いた時にはこの腕からすり抜けようとしていた。 だけど、これ以上君が遠ざかっていくのは耐えられないから。 君がいないとココロが寂しい。 君がいないと同じ空気が寒く感じる。 上田もずっと、こんな気持ちだったのかな…。 そう思ったらいてもたってもいられなくなって、君へと短いメールを打つ。 『明日は一緒に帰ろう』 送信。 直後にふと思い立って、もう一度メール作成画面に戻る。 こんな文字だけですべてが伝わるとは思わないけど、せめてこの思いの一欠片だけでも、君に届きますように。祈りを込めて。 『今までごめんな。好きだよ。愛してる』 『いいよ。一緒に帰るの久しぶりだね』 数分後に届いたメールには、確かな希望があった。 何故ならこの一文の後に。 『オレも、好きだよ』 十行くらいスクロールしないと読めないようにしてくるのが、上田らしいな。 隣に在るべきモノ。 君の声。君の笑顔。君の体温。 全て、隣になくてはならないモノ。 少し離れて気がついたんだ。 君の愛情、存在のあたたかさに。 俺はもう、君から離れられないことに。 END
切ない系を書きたいんです。けど全く切ない話になっていなくて(泣)我ながら心情の描写が下手だなぁと思うので精進せねば。こんなのをキリリクにしてしまって良いのだろうか…。 |