001.貯金箱


ちゃりん…。

また一つ、愛が貯金されていく。

例えば待ち合わせに珍しく遅刻しなかったりとか。

聖に誘われてもオレと一緒に帰ってくれたりとか。

買ってきてくれた飲み物が丁度飲みたいものだったりとか。

そんな、他愛もないこと。

些細なこと。

だけど、貯金があるから安心して生きていける。

そうでしょ?

あ、嬉しいなって思った時。

大事にされてるなって思った時。

中丸の愛がオレの中にどんどん溜まっていくのを感じる。






「上田!待った?」

待ち合わせ時刻を30分過ぎてやってきた中丸。

よほど慌ててきたらしく、肩で息をしている。

オレのために急いでくれたことに、また一つ貯金が出来た。

「待った」

ふて腐れたように言うと焦ったようにゴメン、と言ってくる。

謝るなら遅れなきゃいいのに。

それでも中丸を待つ間、中丸のことだけを考える時間が好きだから、遅刻してくるのも嫌いじゃない。

「今日は久しぶりのデートだろ?」

「うん」

最近忙しくて、二人一緒にオフっていうのはなかった。

貴重なオフの日をオレと一緒に過ごしてくれることに、また一つ貯金。

「それで俺昨日からずっと、今日は何しようって考えてたんだ。…それで寝坊しちゃったんだけど」

…ヤバイ。

このままじゃすぐにいっぱいになっちゃいそう。

やだなぁ。もっとずっと中丸のことを感じていたいのに。

「上田さ〜ん、怒ってますかぁ?」

オレが何も言わないのを怒っているととったのか、中丸が心配そうに顔を覗き込んでくる。

首を左右に振ることで答えて、中丸の手を取った。

「?珍しくない?」

「ふへへっ」

思わず出てしまった笑いに、「その笑いやめろよ」って笑いながら言ってくる。

中丸の綺麗な手に頬を寄せて目を閉じた。






「オレは中丸の『愛の貯金箱』だから」

「はぁ?」






だからオレを、中丸の愛でいっぱいにして。











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