018.ストレートパーマ


(…可愛いじゃねーか)

正直にそう思った。






 好きかも知れない、とは薄々感じていた。

 顔は良い方だし、スタイルも良い。

 本人自慢の手だって、本当に細くて綺麗だ。

 周りの空気が読めて、騒ぐときには騒ぎ、静かなときには黙っていられる。

 そういうところはさすが年上。

 子どもみたいな時もあれば、大人びた顔を見せるときもあって、その両方が良いなぁ、好きなんじゃないかなぁ、とは思っていた。

 そこに、髪型を変えてご登場ときた。

 しかもそれが可愛いのなんの。

 ストパー万歳って感じだよ。

「中丸、可愛くなったじゃん」

 そんな意見があちらこちらから飛んできて苦笑している。

 そりゃ、あんまり可愛いって言われてもね…男としてはどうかと思うよ。

「中丸、良いじゃんそれ。可愛いよ。サラッサラしてていいなぁ」

「…上田にだけは、言われたくなかったんだけど…」

「?なんで?」

「わかんないならいいですぅ〜」

 可愛いたっちゃん、と、まだクエスチョンマークを飛ばしている上田を小突いている。

 長年連れ添ってるだけあってあの二人には俺達が入り込めない何かがある。

 かといって、俺はアイツ…中丸が好きなんだろうけど、上田がムカツクとか、そーゆー風には思わねーんだよな。

 まぁ、俺も仲間として、友達として、上田が好きだからかも知れないけど。

「ねー、赤西。中丸可愛いよねぇ」

「うぁ?」

 急に話を振るなよ。上田らしいっちゃらしいけど…。

「あ、あぁまぁ…。可愛いんじゃねーの?」

 渋々興味なさげに答えてみると、中丸の顔が一瞬悲しそうに歪んだような気がした。

「…つかさ、あんま可愛いとかゆーなよ。男として微妙なんだけどー」

 すぐに何もなかったかのようにいつものノリで笑ったけど、…何か無理してる?

 俺…何かしたか?

「鈍感」

「…あ?」

 そのまま「なんか飲み物買ってくる」と楽屋を出て行ってしまった中丸を名残惜しむかのようにドアを見つめていると、聞き捨てならない声が。

「赤西のばーか。ばーか。ど・ん・か・ん〜っ」

「ちょっ、ちょっと待てよ」

 さっきの中丸じゃねーけど、上田にだけは言われたくなかったことを言われてるんだけど、俺って何!?

「自分で好きだって言ったクセにっ!」

「はぁ?俺がいつ中丸を好きだっつったよ!」

 一瞬にして楽屋が静かになった。

 上田まで目をぱちくりさせてるし。

 はて、俺は何か変なことを言っただろうか?

「…赤西って、中丸のこと好きだったんだ…」

 はっ!?

「だから、そんなこと言ってねぇって!」

 焦る。図星であるがために焦る。

「だってオレ、『好きだって言った』とは言ったけど、『中丸を好きだって言った』とは言ってないよ」

「!!」

 上田の勝ち誇ったような、見下したような笑顔がムカツク。

「オレが聞いたのは、赤西が『さらさらストレートが好き』って言ってたのをだよ」

「あ…」

 そういえば、そんなこと言った気も…しないことはないような。

「あの時、中丸もいたんだ。だから…」

「だから、ストパーかけてきたって?」

「そうだよ。なのに…」

 恨めしそうに俺を睨んでくる上田。全然怖くないんですけど。

「嘘、マジで?信じらんね…」

「信じる信じないは赤西の勝手だけど、中丸に哀しい思いさせたら許さないから」

 そういう上田の目は潤んでて、何でお前が泣くんだよって思う。

 けど、マジ?マジなのか?

 今の上田の口調からするとマジっぽいんだけど、信じていいんだよな?

「赤西、顔やばいんだけど」

 やだなーこんなヤツに中丸渡すの、なんてぼやいてる上田の声も耳に入らない。

 だってそうじゃん?

 自分の想いにだって気が付いたばかりなのに、それが両思いだなんて嬉しすぎるって。

 今までこんなペースで思いを遂げたことなんてねーもん。

「…俺、中丸のトコ行ってくる」

「え?ちょっ…」

 我慢できなくて楽屋を飛び出す。

 上田がなんか言ってたみたいだけど気にしない。しちゃいられない。

 飲み物を買いに行くと言っていた中丸の言葉を信じて自販機コーナーに向かうと、椅子に座っている中丸を発見。

 缶コーヒー片手にもう片方の手で長めの髪先をいじっている。

「あーあ…ちょっとは期待してたのにな…」

 憂いの表情で溜息ついてる中丸は、楽屋で皆といるときには決してみられないもので。

 俺のためにストパーかけたっていう上田の言葉が確信に変わる。

「中丸」

 声をかけると肩がビクッとはね上がったのがわかった。

「なんだよ」

 慌てて笑顔を作ってるけど、取り繕ったものなのが分かる。

「さっきは悪かったな、あんなことしか言えなくて」

「別に。気にしてないし」

 嘘。気にしてた。気にして今すっごくたそがれてたじゃん。

「俺さ、いっつもそうなんだ。なんつーか…」

「だから、もういいって」

「いいや、言わせろよ」

「…」

 その話題に触れるなとばかりに話を終わらせようとする中丸を遮って有無を言わせぬ口調で言うと、雰囲気の違いを察したらしく素直に黙った。

 …こういうところ大人だよな。

 あんまり黙りこくられても困るんだけど、さっきのこと何か誤解してるっぽいし、これは今言わずしていつ言うんだ。

 頑張れ、俺!

「…前から好きじゃないかなーとは思ってたけど、今日あまりにもお前が可愛くなってたからさ。緊張してあんな言い方しかできなかったんだ」

「…え?」

 あっけにとられてる中丸の、コーヒーを持ってない方の手を両手でそっと包む。

「…好きです、中丸。俺と、付き合って下さい」

 勢いのあまり告白してしまったけれど、中丸は俯いて目を合わせようとしない。

 しばらくして。

「………はい…」

 蚊の鳴くような小さな声だったけど、確かに聞こえた。OKの返事。

「…っ!」

 感激のあまり中丸を抱き締めると、頬に触れるサラサラの髪の感触。

「…っやっぱ、ストパー最高…」











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