054.奇跡 |
*ストーリーの都合上、中聖アリ。要注意。*
聖が悪いんじゃないよ。 だから、そんな顔しないで。 オレは、中丸がスキ。 誰になんと言われようと、中丸がスキ。 中丸には言わなかったけど、付き合ってる間は本当に幸せだった。 オレが中丸をいつまでも好きなように、中丸にいつまでも好きでいて貰いたくて努力した。 でも、中丸はみんなに優しいし、いつまでもオレが独占し続けるなんて無理だし。 …とりあえず今、中丸がオレを好きでいてくれる間くらいは、幸せに浸っていたい。 予想以上に早く、幸せな時間は壊れてしまった。 ずっと、ずっと見ていたんだ。 中丸、オレといるときそんなにはしゃいだりしないよね? あんまり楽しそうじゃないよね? オレといるときより、聖といる方が楽しそう。 聖といる方が、充実するんだよね。 でも、オレ、自分の気持ちを押しつぶして別れを告げるくらい強くないから。 中丸が別れたいって言ってくんなきゃ、別れられないよ。 「あの…さ、聖と付き合うことになったんだ…ごめん」 「…いいよ」 ちゃんと笑えてたかな? 声、震えてなかったかな? ダメだよ。中丸が幸せなんだから、お祝いしなきゃ。 「聖と、幸せになってね」 中丸の幸せが、オレの幸せ。 「上田くん、目、腫れてない?ちゃんと寝てる?」 メイクさんに言われた。 中丸と別れてから、なぜだかよく分からないけど眠れなくなった。 眠れない、というより、眠たくならないから眠らないだけなんだけど。 別に眠たくなるわけじゃないからいいや、と思っていたけど、寝てないと顔に出るモノなんだ。 どうすればいいんだろう。 今日、ダンスのレッスンでふらついた。 視界が歪んで、ヤバイかもって思った。 ちょっと寝てないくらいでこんな風になるなんて思わなかった。 このままじゃ仕事に支障が出てしまう。 それだけは避けたい。 これ以上、中丸といられる大義名分を失いたくない。 中丸と一緒に仕事がしたい。 中丸の側にいたい。 中丸を見ていたい。 病院に行ったら「不眠症ですね」って言われて、薬を処方された。 いわゆる、睡眠薬。 無理矢理にでも眠らないと、仕事をこなすこともできない。 この薬だけが、頼り。 いつかもう一度中丸に愛される日が来るのかなぁ、なんて、ありえない希望を持ったりしてみる。 中丸と聖とオレで撮影があった日。 聖に辛くないのかって聞かれた。 オレこそ、聖が嫌がってるんじゃないかって思って心配だった。 だから、「そんなことないよ」って言ってくれて嬉しかった。 中丸が聖といて幸せなら、オレは辛くなんか無いよ。 聖が悪いんじゃないよ。 だから、そんな顔しないで。 …なんだか最近、また眠れなくなった。 薬は飲んでるのに、効かなくなってきたみたい。 ずっと薬に頼ってきたからかな? 眠れないのはマズいな。 一回分で効かないなら、数回分飲めば効くかも知れない。 そう思って即、実行した。 というより、眠るためにはこれしか選択肢がない。 思った通り、沢山飲んだらちゃんと効果があったみたい。 すぐ眠くなった。 次に目が覚めたときは病院のベッドで寝ていて、中丸に手を握りしめられてた。 飲み過ぎちゃったんだ。 中丸ってば自分が死にそうな顔してた。 そんな心配しなくても、別に死のうとしたわけじゃないのに。 だって、死んだら中丸に会えないから。 聖。 ごめんね。 みっともないよね、女々しいよね。 中丸を奪い返そうとか、そんなんでこんな騒ぎを起こしたわけじゃないから。 そりゃ、もう一度愛されたいなぁ、とは思ってるけど。 そんなの奇跡みたいだし。 聖が悪いんじゃないよ。 だから、そんな顔しないで。 赤西達が帰って、中丸も聖に呼ばれて病室を出て行った。 何話してるんだろ。 ま、いっか。 中丸が心配して来てくれただけでも、満足だから。 「上田」 「ん…?もういいの?」 「ああ」 皆が出て行ってからボーっと窓の外を見ていたオレに、中丸の声がかかる。 あれ、聖は?帰ったのかな。 「なぁ上田、俺達、もう一度やり直さないか?」 「え?」 「俺、ずっとお前が忘れられなかった」 中丸は目を擦っていたオレの左手をとって、両手で包むように握りしめた。 「上田さえよければ、また付き合って下さい」 どうやら、奇跡は起こったみたいです…。
このお題には悩みました。既にこのタイトルで書いちゃってたので…。「062.タイムリミット」の上田バージョンです。事の重大さを分かっていないようですね、上田さん。 |