ONE YEAR


『残念ながら、お天気はあまり良くないようですねぇ。牽牛と織女は無事、会うことが出来るのでしょうか』



 テレビのニュース番組で、アナウンサーが言った。

 今日は7月7日。俗に言う七夕の日。

 アナウンサーの言うとおり、昼間だというのに空は暗い。

 毎年この時期は梅雨なのだから当たり前と言えば当たり前。

 逆にこの日が晴れていたという記憶がない。

「…今年も雲がかかっちゃってるねぇ…」

 不意に呟いた声と共に、背中にかかる人の重み。

 何年こうして受け止めているだろう。

「一年に一度しか会えないのに、曇りじゃ二人とも可哀相だよ」

 後ろから伸びた腕にギュッと力がこもる。

 健らしいな。

 まるで自分のことのように切なくなるんだろう。

「健はさ、雲がかかるとやっぱり織姫と彦星は会えないと思ってるクチ?」

 頷く気配。

 世間一般で言われてるように、健もそう思っているらしい。

 けど、俺は。

「俺はそうは思わないけどな」

 あっさり呟くと不意に背中の重みが無くなった。

 腕は俺の首に回したまま、健が起きあがったのを感じて俺は体の向きを変えた。

 健と真正面から向き合う形となる。

 何で?とでも言いたげな瞳。

 困ったような、常に泣きそうな瞳が訴えてくる。

「雲がかかってれば、他人に見られなくて済むじゃん?」

 大きな瞳がさらに見開かれる。

 そんなこと思いもしなかったよ、って声が聞こえてきそうだ。

「もし俺だったら一年に一度の大事な時間、他人に邪魔されたくない」

「オレと剛が一年に一度しか会えなくなる…?」

 寂しげな目をして俺の胸に抱きつく柔らかなかたまり。

「そんなの嫌。剛と会えなかったらオレ生きていけない」

 ああ、そうだなお前なら。

 寂しさで死ぬことだって出来そうだから。

「大丈夫だって」

 きつく抱きしめ返す。

 本当は不安にさせるつもりなんか無かったんだよ。

 軽い例え話をしただけの筈が。

「もしそんなことになったら、俺も生きてられないから」

 胸のあたりでクスクス笑う振動が伝わる。

「ふふっ、いっそのこと心中しちゃおっか?」

「いいんじゃね?」

 しばらくお互いで静かに笑い合う。

 そして、どちらからともなく唇を重ねて。

「織姫と彦星は凄いよね。元は自業自得とはいえ、一年に一度で我慢できてんだもん」

「俺たちには絶対無理だからな」

 俺も健も欲深いから。

 今もこうやって抱きしめ合ってる。

 お互いの存在を、お互いの気持ちを確認し合うように。

「…でもね」

「ん?」

「やっぱりオレは、雲があったら会えない気がする」

「…いいよ。お前がそう思うんなら」

「けど、だけどね。今年がダメでもまた来年があるんだよ」

 パッと顔を上げて見上げてくる。

「どんなに辛くても、一年間この日のために頑張ってきたんだよ?会えなかったらショックだよ。」

「そりゃ、誰だってそうだろうな」

「でもあと一年くらい頑張ろうって、楽しみが延びただけだって考えるかもしれないじゃん」

「あの二人なら?」

「そう。こんな関係を千年以上も続けてるあの二人なら思うんじゃないかな?」

 ロマンチストな健。

 会えない寂しさの中に次への期待が募ると考えるのは。

「それも、俺たちには考えられないけどな」

 今年も満天の星空は期待できない。

 やっぱり、俺は雲が二人を守っている気がする。

 神様が二人を大切に思ってるような、そんな気がする。

 けれど健のいうとおり、来年会えるならもう一年ぐらい頑張ろうとするのなら。

 雲で二人が会えなかったとしても、神様は満足かもしれないな。

 毎日健を腕の中に感じている俺にはできないけどね。

 それはきっと、健も同じ。











END











 突発的短編。授業で保育案を考えているときにふと思いつきました。七夕関連の保育内容を色々考えていたら何となく思いついちゃって。誰で書くか悩んだんですけどこういう雰囲気が一番合いそうなこの二人にしてみました。実質2時間程度で書いたのでかなり意味不明…(汗)

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