かわいい嫉妬


(む〜ぅ)

 最近、岡田准一には気に入らないことがあった。

「ねぇ〜見てよ見てよ。かぁわいいでしょぉ〜?」

 それはこれだ。

 毎日のように雑誌を広げ、後輩たちのページを見せながら「可愛い」を連呼している人。

 井ノ原快彦。

 付き合い始めて一年が経とうかとしている今日この頃。

 可愛いもの大好きな井ノ原の性格は把握したつもり、納得したつもりだった。

 特に後輩に対しては、可愛い子、将来有望そうな子にいち早く目を付けていたりする。

 そんなところも了解済みの筈だった。

 ところが、だ。

 その井ノ原の行動が最近エスカレートしているように、岡田には思えてならないのだ。

(…って、小中学生相手に嫉妬か? オレは)

 井ノ原が長野にしつこく見せようとしているページには、それはそれは可愛らしいジュニア最年少ユニットの笑顔が。

 今年の四月からポンキッキーズのレギュラーとなったYa−Ya−yahの笑顔が振りまかれていたのだ。

 去年の今頃も、当時のレギュラーだったジュニアユニット相手に同じような行動を起こしていた井ノ原だったが、今年はさらに低年齢なコ達と一緒で嬉しくて仕方がないらしい。

 子供好きの岡田であるから、確かに可愛いとは思うのだが。

「あ〜はいはい。可愛いね〜。でも井ノ原、くれぐれも持って帰らないようにね〜」

 岡田と同じく、いい加減にして欲しい長野は投げやりに井ノ原に言葉を返す。

「なっ、何言い出すんだよ長野くん。こんな可愛いコたちに手ぇ出すわけないでしょ」

「どーだかねぇ」

「長野く〜ん!」

 可愛いコたちだから手ぇ出すんじゃないの〜?と、本気とも冗談ともつかないセリフを吐き出す長野には、井ノ原の必死の弁明も通用しない。

 何慌ててるんだか…岡田にはその態度がよけい怪しく思える。

 普段なら、見かねて井ノ原に助け船を出してくる坂本も、新たな胃痛の原因が増えたとばかりにこめかみ辺りを押さえて溜息をついている。

 岡田には坂本の気持ちが分かるような気がした。

(手なんか出したら犯罪やで…いのっち…)

 なんと言っても小中学生。

 Ya−Ya−yahには手を出すには法的にマズいお子様も含まれている。

 井ノ原が見せて回っている雑誌の、天使の衣装を身に纏った彼らを見て、岡田は先程までとは別の不安に襲われる。

(や、やりかねん…)

 井ノ原に対する不満が消えたわけではないが、なぜか井ノ原よりYa−Ya−yahが心配になってしまった岡田であった。






(む〜ぅ)

 もう一つ、岡田准一には気に入らないことがあった。

「あ〜おはよう剛ちゃん健ちゃん☆ 今日も可愛いねぇ☆」

 それはこれだ。

 毎日毎日、森田と三宅に会うたびに「可愛い」を連呼している人。

 井ノ原快彦。

 付き合い始めて一年が経とうかとしている今日この頃。

 可愛いもの大好きな井ノ原の性格は把握したつもり、納得したつもりだった。

 特に森田と三宅は、最も身近な「可愛いもの」だと岡田自身も思っている。

 そんなところも了解済みの筈だった。

 ところが、だ。

 その井ノ原の行動が最近エスカレートしているように、岡田には思えてならないのだ。

(…って、剛健コンビ相手に嫉妬か? オレは)

 井ノ原に纏わりつかれている剛健コンビも、満更では無さそうなのがその表情より窺い知れるため、いっそう岡田の不安を煽る。

 そしてまた、大切な仲間である彼らに嫉妬してしまう自分に罪悪感を感じたりもするのだ。

「おはよぉ〜♪ 井ノ原くん朝から元気だねぇ」

「はよ。相変わらず目細ぇな〜」

「ちょっと、毎朝毎朝ヒドいよ剛ちゃんてば〜」

 よよよ、と鳴き真似をする井ノ原。

 やめろよ気色悪い、と独特の笑い声をあげながら三宅を引っ張ってソファーに腰掛ける森田。

 そんな様子をにこにこしながら見ている、森田にされるがままの三宅。

 どこをとっても、いつもの楽屋風景に過ぎない。

(過ぎない筈なんやけど…)

 やっぱり気に入らないのだ。

 恋人のはずの自分より、まず先に森田と三宅を構う井ノ原が気に入らない。

「剛、剛、明日のオフ買い物付き合ってよ」

「あーいいぜ。お前この間のロケん時言ってた店行くつもりだろ。俺も見に行きたかったしな」

「うん、じゃーねー9時でいい? いつものトコで待ち合わせしよ」

「あ〜何々健ちゃんと剛ちゃん一緒にお出かけするの? い〜な〜」

 このように、すぐに何でも二人と関わりたがる井ノ原も気に入らない。

「あ? ふざけんなよてめーは入ってくんな」

「なんでよ〜いいじゃねーかよ〜」

 このように、簡単には引き下がらない井ノ原も気に入らない。

 不満が顔に出ていたのか、それともただ単に鋭いだけなのか、何かに気づきこちらを見ていた三宅と目があった岡田は、バツが悪くて思わず視線をそらした。

「井ノ原くん、剛とは前から二人で行こうって約束してたんだ。岡田と行けばいいんじゃない?」

「う〜んじゃあそうしよっかな〜。准ちゃ〜ん♪」

 このように、三宅の一言で簡単に意見を変える井ノ原も気に入らない。

 そして…井ノ原の一挙一動に一々心乱されている自分。

 井ノ原を信じ切れていない自分もまた、気に入らなかった。






「いのっちは、ホンマに可愛えコが好きなんやねぇ」

 しばらくたったある日、岡田は井ノ原の家に遊びに来ていた。

 もちろん井ノ原からのお誘い。

 森田や三宅ではなく、自分を真っ先に誘ってくれたことは嬉しかったのだが、岡田は複雑な感情を抱えたまま井ノ原のマンションまでやってきたのである。

 やはりそこでも井ノ原は、

「ほら〜この藪とあゆ超可愛いだろ〜♪ いや、翔央も捨てがたいか〜♪」

 などと、やけに大きく見えるビーチボールを抱えた藪宏太(中1)やら、テディベアを抱えた女の子のようなあゆこと鮎川太陽(小6)やら、別嬪さんメイクを施された山下翔央(中2)やらの雑誌グラビアを広げては岡田に同意を求めていた。

 自分は一体何のために招待されたのか、岡田は分からなくなった。

 そんな状況の中で、ついに耐えきれなくなった岡田が発した一言がこれである。

「は? え? どしたの准ちゃん」

 訳が分からない井ノ原は、意味深な言葉を呟くなりソファーに体操座りで俯いてしまった岡田の顔を覗き込む。

「准ちゃ〜ん…」

「いのっちは!」

 途端にガバッと顔を上げて、涙の溜まった大きな目を井ノ原に向ける岡田。

「いのっちは可愛えコが好きなんやろ!? ならその可愛えコと付き合ったらええやん!」

 泣いたら負けだと思った岡田は必死で涙を堪えた。

 井ノ原としては、そんなこと言われるなんて思いもしなかったから驚きである。

「何言ってんの? だって俺もう可愛いコと付き合っちゃってるし」

「……っ!」

 ショックで大粒の涙が零れる。

 井ノ原は自分ではない、誰か可愛いコと付き合っていた…。

 唯でさえ不安でいっぱいだった岡田の心は、全て悪い方向へ考えを持っていってしまう。

 一方、目の前でいきなり泣き出された井ノ原もパニックである。

「え? ちょっとちょっと准ちゃん、どうしちゃったんだよ〜」

「…っく、いのっちは、…他に付き合ってるコ、おったん…?」

「だから何言って……あ」

 ようやく岡田の涙に訳に気づいた井ノ原。

 思わず顔がニヤけてしまうのを止められない。嬉しい。

「准ちゃんもしかして妬いてくれてるの〜?」

「……っ、う…っ」

 岡田の涙は止めどなく溢れてくる。

 井ノ原の言葉に頷くでもなく、否定するでもなく、岡田は溢れる涙をひたすら拭っていた。

「おいおい、あんま擦ると明日目ぇ腫れちまうぞ」

「ええやんか…っ、はよその可愛えコのトコ、…っ、行ったりや…?」

 慌てて井ノ原は止めさせようと腕を伸ばすが、岡田はそれすら振り払ってしまう。

 井ノ原は溜息をついた。

「あのさぁ、いつ俺が准ちゃん以外のコと付き合ってるって言った?」

「……?」

 ぐいっと引き寄せられ、岡田は井ノ原の胸に顔を埋めるような体勢になってしまった。

 小さな子供をあやすように背中をなでられ、次第に落ち着きを取り戻す岡田に井ノ原は言う。

「俺が付き合ってる可愛いコって、お前のことに決まってんじゃねーか」

「? でもいのっち、最近岡田は昔みたいな可愛さが無くなったって」

「確かに言ったけど、それは子供としての可愛さっつーの? その話であって、今の准ちゃんだって剛や健に負けないくらい可愛いんだよ?」

 身体を通しているため、微かな震動を伴って聞こえる井ノ原の声。

 落ち着ける、安心できる井ノ原の声。

 岡田は自分の勘違いに気づき、照れ隠しに井ノ原のシャツを掴んだ。

「…何や、あんまり可愛い可愛い言うなや。男が男に可愛い言われて喜べるかい」

 鳴き声に嬉しそうな笑いが混ざっていて、井ノ原は苦笑する。

 岡田の性格は把握したつもりだった。

 素直になれないのも、人前で甘えられないのも、その分二人きりの時は心底嬉しそうな表情を見せてくれることも。

 剛や健があんな風だから、つい比べられて「岡田くんは大人になったね」と言われることも多い。

 それが本人に負担をかけて、更に大人にならざるをえない状況に追い込んでいるのは、周りにいる自分たちであることにも気づいていた。

 いや、気づいていたと思いこんでいただけなのか。

 今こうして泣かせてしまったのだから、自分も岡田のことを本当に分かっていたとは言えない。

 こんな不安にさせて、挙げ句泣かせたなんて知られたら、剛と健に何言われるか。

「岡田、今の俺にはね、お前以上に可愛くて大切な人はいないんだから」






 翌日、井ノ原は今までと同じように後輩の雑誌を見せて回り、剛や健にちょっかいを出しまくっていた。

 そこに昨日までと違うところが一つ。

 剛たちと戯れる自分をボンヤリ見つめている視線に気づいた井ノ原が、視線の主、岡田も輪の中に巻き込んだのだ。

 驚きつつも嬉しそうに剛健とじゃれ合い始める岡田。

 すぐに「なんやね〜ん!」とか何とか、騒々しい遊びが再開される。

 そんな風景をニコニコと微笑みながら見守る長野の横には、岡田まで騒ぎ始めたことで胃痛の原因が増えた坂本が腹部を押さえながら苦笑していた。

 V6は今日も平和です。











END











 やっと完成〜。いのっちメインでの二回目のリクだったんですが、『井准にしよう』とまでは決めていたもののなかなか取りかかれず、プロット出来てから実際に話進めたのはかなり後でした。やはり私にはいのっちが格好良く書けないです。最後の方は格好良くしたかったんですけど、あまり格好良くない…。ふざけた口調とかは書きやすいんですけどね(苦笑)しかも剛健&ヤヤヤを可愛い可愛い言ってるいのっちは、私が乗り移ったとしか思えないですな。お粗末様でした。 

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