Smile for me, please. |
俺の愛しい健。 まるで女の子のように可愛い健。 周りにいる人が放っておけない程甘えたがりな健。 いつもどこか寂しそうな健。
最近の健は少し変だ。 目が合えば慌てて視線を外して、でも後からすごく苦しそうな表情をして。 心なしか、俺を避けているような気がする。
「ん・・・っふ」 ベッドに横たえた健と深いキスを交わす。 肩に回されてた腕の力が抜けたのを感じて唇を解放すると、潤んだ瞳に見つめられる。 「健、お前最近なんかあった?」 まだ肩で息をしている愛しい人に優しく話しかける。 「別に・・・何にもないよ」
いつも。 いつも健は全てを自分の中に押し込めてしまって。 一人で悩んで、一人で落ち込んで。
そんな健を見るたび、俺はやり場のない想いに苦しめられる。
「別にとか言うなよ」 何にもないわけないだろ? 「俺たちって、付き合ってんだよな?恋人なんだよな?」 どうして話してくれないの?
じっと見つめる視線から逃げるように抱き締める。 「何かあるんだったら言えよ」 「・・・剛」 促されて体を離す。
「剛、俺、不安なんだ」 「・・・」 「剛といつまでもこうしていられるなんて思ってない。思えない」 「んでだよ」 「剛はみんなの憧れだから」
健の目は俺を通り越してどこか遠いところを見ている。
「みんなが剛を好きだから。俺とばっかりいちゃいけないんだ」 「・・・んで・・・」 「え?」 「何でそんなこと言うんだよ。俺はお前といたいからいるのに」 「それは今の剛が俺しか見えてないからだよ」 「それのどこが悪い!?」 「剛。だから今日で終わりにしよう」 「・・・!!」
何を言っているのかわからなかった。 健はそんなことを言うために今日俺の家に来たのか?
「他に好きなヤツでも出来たのか?」 「ちがうよ。そんなんじゃない」 「誰だよっ!言えよ!井ノ原くんか?それとも坂本くん?」 「そんなんじゃないってば!」 「じゃあ何で終わりにするとか言うんだよ。自分一人で勝手に自己完結しやがって」 「剛」 「なぁ・・・何で?俺バカだからわかんねえよ」
もう一人で抱え込まないで。 俺が側にいるから。
「剛は俺といて楽しい?」 「楽しくなかったら一緒にいねえ」 「・・・剛はいつも遠回りにしか言わないね」 「健・・・」 「いつも一緒にいても、はっきり聞きたいコトってあるんだよ」
俺の気持ちがわからなくなったと健は言う。 こんなに愛してるのに。 もうこれ以上ないくらいに愛してるのに。
「剛は俺なんかより、他の人といた方がいいんじゃないかって思うんだ」
だから? だからお前は俺から離れていくの?
「健は俺と別れたいわけ?」 「・・・別れたいわけないじゃん。俺は剛が誰より好きなんだから」 「じゃあ別れるなんて言うなよっ!」
健を力の限り抱き締める。 逃がさないように。逃げていかないように。
「健、どうしてそんなに苦しそうなんだ?」
我慢しないで。苦しまないで。
「俺はお前しかいらないんだ。お前が苦しんでること全て受け止めてやりたい」 「剛・・・」 「お前が一人で無理してるのを見ると、俺って何なんだ?っていつも思うよ」 「・・・」 「俺の前でだけは本当のお前を出せよ。全部受け止めてやっから」
健の頬を一筋の涙が伝う。 同時に嗚咽が漏れ出す。
「・・・っく、ごぉ、ごぉ・・・っ」 「健」 「俺・・・俺、怖かったんだ。いつか剛に捨てられるんじゃないかって」 「そんなことできるわけねーだろ」 「どうせ剛に飽きられて捨てられるならこれ以上剛のこと好きになる前に別れた方が」 「だから飽きたりしねーって」 「でも剛は格好良いから周りにいる人たちはみんな剛を見てるし・・・」 「はぁ?何言ってんだ」 「だって剛と二人でいるときいつもみんなの剛への視線を感じるよ?」 「それは・・・俺じゃなくてお前を見てんだよ」 「ほぇ?」
バッカみてえ。 皆が健を見てるから俺は健が他のヤツにとられやしないか無茶苦茶心配だったんだぞ。それなのに健は俺が見られていると勘違いした挙げ句「別れる」だってぇ? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。 ってそれはお互い様か。
「じゃあ剛は俺とずっと一緒にいてくれる?」
一人でいることを何よりも恐れる健らしい言葉。 俺が最初に告白したときも同じように言った。
『俺はお前が好きだ、健。頼む、俺と付き合ってくれ!』 『嬉しい・・・ありがとう剛。俺も大好き。だからずぅっと一緒にいて?』 『健・・・約束する。絶対はなさねえ。ずっと、ずっと一緒にいよう』
・・・天下の森田剛ともあろうものが、間抜けな告白の仕方をしたもんだ。 でもまあ仕方がないか。 取り繕うとか、今までの経験で培ってきた完璧な計算とか。 そういうものが健の前では全て吹き飛んでしまったのだから。
「お前こそ俺からはなれんなよ。俺とずっと一緒にいろよっ」
健が抱きついてくる。 心の底から嬉しそうに、満面の笑みで。
そのまま、先程中断してしまった行為に没頭する。 お互いの言葉を再確認するかのように。 俺も無意識のうちにいつもより激しくしてしまったし。 健のヤツもいつもの数倍感じていたようだった。
快感に意識をとばしてしまった健の躰をバスルームに運んで後始末をする。 目覚める気配のない健をシーツを替えたベッドに運んで、俺はたばこに火を付けた。
明日は久しぶりに二人そろってのオフ。 まだ何の予定もないけれど、計画どおりに過ごす休日なんて俺たちには似合わない。 ただ少し、明日がオフで良かったな、とは思ったけど。 だって疲れて無邪気に眠っている健を見てると、ねぇ?
「ん・・・ごぉ・・・」 可愛らしい寝息が日常の喧噪の中で疲れた俺の心を癒していく。 汗で張り付いた髪をそっと剥がしてやると、幸せそうに微笑む。
ちくしょー、この俺が完全にやられるとは。 悔しいから絶対放してやんねえ。
だから、俺には強いトコロも弱いトコロも全部見せて。 受け止めて、包み込んであげるから。
・・・俺のために微笑んで。
END
甘々な剛健を目指したつもりなんですが、森田さんがメロメロなだけになってしまいました(笑)。でもこの人三宅さんが「別れる」と言ったとき、自分に落ち度があるとは欠片も思っていません。自信過剰。俺様無敵。ちなみに二人が感じたという周りの視線は三宅さん一人に向けられたものでも、森田さん一人に向けられたものでもありません。可愛らしく危なっかしいカップルから目を離せない方々の、二人に向けた視線です(理想)。そしてこの話は当初『彼とのカンケイ』という話の後半部分でした(森田さんちに行った後の部分)。辻褄合わなくなったので悩んだ末別物にしちゃいました。 |