051.汚れ



 気が付いたら風呂場にいた。

 あれ?おかしいな。

 何でオレ、こんな所にいるんだろう。

 ボーっとしたまま周りに目をやると、瞳が鏡に映る自分の姿を捉えた。

「え…」

 何これ。

 体中にキスマークとおぼしき跡。

 それだけなら、また赤西くんてば、って呆れるだけなんだけど。

 キスマークに混じって斑に残った青アザ。

 手首には縛られた跡。

 頬が腫れているのは殴られたのかな?

 それに泣き腫らして真っ赤になった目。

 一応アイドルとして、これはやばいんじゃないの?って顔。

 そもそも、身体が重くて動くのも怠い。

 何これ。

 こんな風になった理由が分からない。

 赤西くんはこんなコトしない。

 結構乱暴だったり自分勝手だったりするけど…こんなコトする人じゃない。

 なんで、どうして。






『へへっ、可愛いじゃねーの』






 頭の中で、声が響いた。






『こいつ、慣れてやがるぜ』

『いい顔いい声いい躰…くっ、たまんねー』

『清純そうな顔して、とんだ淫乱だな』

『今まで何人の男を喰ってきたんだか』






 オレ、は…。






『嫌がってる癖してどんどん呑み込んでいくしよ』

『ホントはこいつも嬉しいんじゃねーの』

『ははっ、違いねえ』

『ほら、もっと腰振れよ』






 知らない、男達に。






『やっ、だ…。いや…嫌だあぁっ!』






 犯、され…。






「うわあぁぁっ!」






 赤西くん以外の男に。

 赤西くん以外の男に!






 感じて、声を上げて、果てた。






「…っく、うっ…」

 とうに枯れたと思っていたのに、まだ溢れてくる、涙。

 いつの間にか自分で自分を抱き締めていた。






 この、汚い、カラダを。






 そうだ、汚いんだ。

 だから風呂場にいるんだ。

 落とさなきゃ。

 汚れを。

 消さなきゃ。

 こんな跡を。






 コックを捻ってシャワーを勢いよく頭から浴びる。

 シャワーを出したまま、スポンジを泡立てて、無茶苦茶にカラダを擦った。

 擦りすぎて、肌が真っ赤になってくる。

 でも、ダメ…。

 まだ汚い。気持ち悪い。

 汚い。

 汚い。






「どうして…?綺麗になんないよぉ…」






 ボロボロ溢れてくる涙がシャワーの粒と混じって、もうどっちが涙だか分からない。

 擦りすぎて、痛いのに。

 それでも綺麗にならない。

 もっと強く、擦らないと…。






「田口!」

 急に扉が開いて誰かが入ってきたかと思うと、スポンジを取り上げられた。

「田口、もうやめろ、な?」

 そのままその人物に抱き締められる。

「赤西、くん…」

 シャワーは出したままだったから、赤西くんの髪もシャツも濡れていく。

「だめ、だよ…」

「田口?」

 赤西くんは触っちゃダメ。

「だってオレ、汚いんだ…」

 赤西くんに抱き締められる資格なんて無い。

「汚い…汚い…どうしても落ちないんだ…」

 赤西くんまで汚れちゃうよ…。

「だから、離し…」

「お前は、綺麗だよ」

 オレの言葉を赤西くんの優しい声が遮る。

「綺麗だよ」

 少し身体を離して微笑む。

 綺麗なのは赤西くんだよ…。

「愛してる、田口」

 腫れた頬をそっと撫でられる。

「あのとき俺が遅刻さえしなかったら…」

 そう言って赤西くんは唇を噛んだ。

「守ってやれなくて、ごめん」

 再び抱き締められる。

 ちょっと、苦しい。

 赤西くんの声は、涙で掠れてた。






 ああ、やっぱり綺麗なのは赤西くんだよ。

 やっぱりオレは汚いよ。

 でも…。

 綺麗な赤西くんの側にいたら。

 オレもいつか、綺麗になれるのかな…?











じゅんの可哀想…(自分で書いたんだが)レイプ犯の言葉は自分で書いてて嫌になりました。このじゅんのは、きっと赤西さんが救ってくれます!

裏Story

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