午前0時丁度に。
約束はそんなところ。
おおっぴらには会えなくなったから、こうして安っぽいホテルの部屋の隣同士、隠れるように示し合わせてる。
学校で渡された、盗聴の可能性のない携帯電話。
0時丁度にバイブが着信を知らせてきた。
『良いか?』
通話と繋げると同時に響いた声に「うん」と答える。
『今、ベッドの隣の壁に寄りかかっている』
「じゃ、俺もそうするよ」
温もりは側にはないけど、でもそれでも声が届いて、遠く離れても気配があれば良い。
鳴海は思って、きっと隣の部屋の同じ場所に背中を預けている南条の背中に合っているだろう場所に背中を預ける。
温もりは当然――ない。
「なんで、こんなことになったんだろう?」
『方針だろうな』
「南条家って、厳しいんだね」
『それを言うなら、南条コンツェルンにお前とのことを告げてきた鳴海に問題があるんじゃないか?』
「そうかも……」
許されない恋をしているという自覚はなかった。ただ、幼いに似た気持に突き動かされるように、互いを求めて愛してきただけ。
鳴海は携帯電話を耳と肩の間に挟み、床についた足を広げた。
「もう、良い?」
『ああ、準備は出来ている』
「俺はもう少し。今出すから、待ってて」
『ああ……』
言って、両足の中心に高ぶりつつあるものを隠すジッパーを下ろす。
下着をかき分けて至る中心のもの。
声を聞くだけで、高ぶりつつあるそれを、掴んで空に引き出した。
「良いよ……」
『どうすれば良い?』
「俺に何をして欲しいか、言って……」
『なら……後ろに入れてくれ』
「え?」
鳴海は驚いて声を上げる。
「しょっぱなから、それ?」
『お前の中に、入りたい……』
「それは、駄目でしょう……」
目の前にいるならまだしも、隣の部屋からでは、無理に決まっている。
「とりあえず、入れてみるから、待って」
鳴海は右手指を口に含むと、唾液を絡める。
ジッパーを下ろすだけだったズボンを、今度は下着ごと脱ぎ捨て、両足を一杯に広げる。
少しだけ腰を上げて、翳りに指を伸ばすと。
「今、触ってる」
吐息で携帯に告げる。
『ああ……』
「南条も、良いところを触って……」
『舐めてくれ』
「だから……それは、無理」
本当は、壁越しの背中合わせではなくて、側にいて、互いを生で触れたいのに。
叶わない願いはストレスに変わり、こんな行為を二人にさせる。
鳴海は指で揉みきった入り口に指を潜らせると、始めて自分で触れたそこに驚きながら、南条がいつもしていたようにかき回してみる。
「駄目みたい……届かない……何時も、南条が良くしてくれるところ……」
それでも、ギリギリまで奥に押し込めた指を、抜き差ししてみると、成る程、慣れた体は違和感を快感に変え始めた。
『お前に触りたい』
叶わない願いを切々と語る南条に、鳴海は焦れる。
「俺だって本当は……」
自分の指で慰めるのではなくて、南条の舌で、指で、凶暴な下半身で、乱されたいと思う。
でも叶わなくて、だから代替行為としてこんなことをしているのに。
『何故お前に触れられない?』
「南条が悪い……」
『俺のどこが悪い?』
「お前が、南条コンツェルンの次期総帥なのが、悪いんだ……」
互いの声が擦れて来る。
側にいて触れなくても、声が起爆剤になっているのだ。
『お前が悪い……黙っていれば、知られることはなかった……』
「俺は誰にも、このことを言ってなかった……」
抜き差しを繰り返す指。
意識せずに前も同時に擦り、身体は急速に高ぶる。
『鳴海……お前を抱きたい……』
「覚悟があるなら、良いよ……」
全てを捨て去る覚悟。
秘密を守り通す、覚悟。
『今行く……』
通話が切れた。
鳴海は両手の動きを止める。
ゆっくりと振り向いたドアが開かれて。
「本当に来たんだ?」
衣服を乱しそこに立つ南条を迎え入れる。
乱暴にドアを閉めた南条は、鳴海の座り込む場所に一直線に進んできて。
「当たり前だろう?」
鳴海を簡単に抱き上げる。
剣術を習っているのだと聞いた。両手の筋肉は伊達ではなく、鳴海一人を簡単に抱き上げることが出来る。
ベッドに乱暴に下ろされ、のしかかってきた南条を、鳴海は微笑んで見上げた。
「覚悟は良いかな?」
おどけて尋ねる鳴海に、南条も笑う。
「もう離れない覚悟は決めた。後はどうやって自分達の思うままに生きるか、ということを考えるだけで良い」
不敵な笑みに安堵したのもつかの間。
南条は鳴海の両足を抱え上げると、高ぶりきったものをその入り口に押し当てた。
「良いだろう?」
自らの指でならしたそこは、南条に与えられるだろう感覚を予想でひくりと収縮する。
「良いよ……」
鳴海は頷いて、南条の肩を抱き寄せる。
ゆっくりと押し入ってくるもの。
耳の側で、互いの呼吸が短く繰り返される。
感じている。
「鳴海……」
低く囁かれて、鳴海の背がしなった。
「……あっ……」
指とは比べものにならない圧倒的な圧迫感。それでも、南条の慎重な挿入は、緩くじれったい快感を与えてくる。
「もっと奥……っ」
「ああ……」
ただそれだけのことなのに、酷く汗をかいている。
滑った鳴海の手が南条の肩から落ち、何度も求めて彷徨っていた。
何条はそんな鳴海の手をベッドに縫いとめて、角度を変えると、ぐぐ、と押し込んだ。
「いいか?」
互いの肌が触れるのに、限界まで押し開かれた鳴海の後ろがきつく締まる。
「いい……」
霞かかったような目が、南条を見上げて笑みを模る。
久し振りに、互いを感じた。
挿入だけで全力を使い果たしたような疲労感。そして、幸福感。
「ずっとこうしていたい」
キスで触れる寸前の距離。南条は願うように囁く。
鳴海は距離を続けて触れ合わせた唇で。
「ずっとこうしていよう?」
そう、告げていた。