「なぁ、タっちゃん……」
夕暮れの栄吉の部屋。戦闘帰りで他に予定のない日は、大抵達哉は栄吉の部屋にやってくる。
「ん?」
何時ものように栄吉のベッドを占領して、その上で雑誌を読んでいる達哉。
呼ばれて不思議そうに振り向いて、首を傾げる。どこか幼いような仕草。
「なんで俺のベッドの上で雑誌読んでるわけ?」
「なんでって……」
「俺の家に来るなら、他に何かすることとかないわけ?」
不満そうに唇を尖らせる栄吉。やっぱりどこか幼い仕草。
達哉は困ったような複雑そうな表情をして、はぁ、と一つ溜め息。
「他に何か、しないと駄目か?」
「そういうわけじゃないけど……」
栄吉にしたら、何故達哉が自分の部屋に入り浸るのか判らない。
勿論、来てくれるのは嬉しい。これで、淳の家になんて行かれた日には、悲しくて淳宅を銃撃してしまうのに決まっている。
だけど、来ても雑誌を読むだけなら、自宅に戻っても一緒じゃないかと思うのだ。
確かに一緒にいたいし、出来れば会話のようなものを交わしたいと思ってる。
なのに、気付けば喋っているのは栄吉だけで、達哉は何時も雑誌を読んでる。
問いかけにまともな返事が返るのなんて、数える程で。一方的に話しかけるのでは、会話とは到底言えないと思うのだ。
「もっと俺と話とか、したくない?」
じっと子犬のような目で見上げられて、達哉はほとほと困り果てる。
「俺は……あまりしゃべるのは……」
「得意じゃないのは知ってるよ。何時も単語会話が殆どだし。でもさ、俺――これ、俺の勘違いかもしれないけど、俺は、タっちゃんのこと、恋人とか、そういう風に思ってるから」
「っつ!」
思い切り達哉が赤くなる。
雑誌に顔を隠してしまう、その様子を見て、栄吉は「あれ?」と思う。
達哉は無口だし、恥ずかしがりだし、それに、酷く優しい。
その優しさの所為だろうか、思っていることの殆どを口にしないし、自分の意見を押し付けたりなんてことも、絶対にしない。
これも、実はそういうことの延長上なのだろうか?
栄吉は雑誌の隙間から達哉の顔を覗きこむ。
「見るな……」
緊張を含んで固い声が、雑誌の向こうからくぐもって聞こえる。
「見ないと喋れないだろ?」
「見るな……」
押しのけようとした雑誌を、頑なに顔の前に固定されて、今度は栄吉が溜め息。
なんて可愛いんだろう。
そんな風にも思う。
「タっちゃんはどうして、俺の家に来るの?」
雑誌ごし、キスを送りながら栄吉は、確信を持ってそう尋ねる。
「…………から……」
小さく返った応えに。
「なに?」
聞こえなかった栄吉はもう一度尋ねて。
暫くは無言だった達哉が、やっと雑誌を押しのけて真っ赤な顔を晒してくる。
――可愛い。
思ったのは、達哉本人には内緒だ。きっと怒るに決まってる。
「……だから、会話しなくても、一緒にいたいと思ったからだ……」
今度ははっきりとした答え。
栄吉はにっこりと笑って。
「ならさ、もっと一緒にいるんだって実感できることをしようよ」
ねだるように言った栄吉は、お誂え向きにベッドの上にいる達哉の腰を跨いで。
「しよ?」
楽しそうに言ったのだった。