夏には一緒に遊びに行こうね。
そう言った俺に、達ちゃんは言葉ではなかったけど、頷くことで返してくれた。
実際のところ、海なんて言ったって、今は殆ど泳げない。
世間の人は忘れようとしてるけど、一度世界が崩壊した関係かどうか、海はもの凄い汚染に見舞われ人体に有害な毒素を放出してる。
ニャルラトホテプとの最終戦後、舞耶姉を失って世界の崩壊を見た俺達は、一度は他の ――俺達が出会わなかったことで出来る――もう一つの可能性世界に逃げていた。
だけどさ、そんな逃げなんて、そう続くわけがないんだよ。いくら俺達の精神が可能性世界の自分と同調してたって、こっちの崩壊した世界の俺達の体は消滅してなくなるわけじゃない。
それに、俺達のことを凄く好きで「忘れたくない」と思ってくれた達ちゃんは、可能性世界で覚醒してしまった。その為に特異点と呼ばれ、一人で散々苦しみ、果ては一人で崩壊世界に戻ってくることになってしまった。
気付いた俺達は、願ったよ。
一人でなんて、帰すものか。
思い出した俺は、一人の力じゃどうしようもないから、ギンコと淳の記憶を無理矢理引き出して、一緒にベルベットルームに乗り込んだ。
ベルベットルームは、普遍的無意識の世界に最も近い場所にあって、だからフィレモンと一番コンタクトが取りやすい場所だったんだ。
俺達はフィレモンとの会談を望み、果たし――普遍的無意識の世界から、可能性世界の俺達の体から分離し、戻ってきた。
達ちゃんが一人で帰っていったこの崩壊世界に。
最初に達ちゃんに会いに行った時、達ちゃんは怒っていた。
どうして戻ってきたんだ、って。
だけど、次には達ちゃんは嬉しいと泣いてくれた。
俺も泣いたよ。
会えて、本当に嬉しかったんだ。
俺は本当に、達ちゃんが大好きだったんだって、その時自覚した。
もう忘れない。
二度と・・・。
「栄吉、花火、始まった」
「本当だねぇ・・・」
この夏、世界が崩壊して2度目の夏。
俺達はもう学生なんて身分ではいられなくなってしまったけど、それでも、ゆっくりと復興していく世界の中を楽しんでいる。
今年は人々にも余裕が出てきたのか、市をあげての花火大会が行われるんだ。
昔は海の家だったこの建物の中で、こっそりと二人きりで鑑賞。
外に出れば、ギンコと淳に邪魔されるって判ってるからな。
二人で壁に寄りかかって、上の方の明かり取りの窓から空を眺める。
そうそう、崩壊世界は電力の復旧にかなりかかって、今でも供給量が極端に少ないから、空はとても暗い。 でも、明かりが満ちていた時には見えなかった星とかが、良く見えるようになった。
何時か、またネオンの星もみたいね、ってみんなで言ってるけど、それは結構先の話かもしれないな。
「そう言えば、この間、元アメリカのあった辺りで、海底火山が噴火して、陸が出来たらしい」
「そうなんだ?」
「捜索隊を組むって、港南署で言ってたな」
「達ちゃん今はにわか警察官だもんねぇ・・・」
復興の最先端に立つのが、周防親子三人である。
頭の切れる息子二人の意見で、さくさくと復興が進んでいくのは良いんだけど、おかげで達ちゃんが忙しくなって、余り一緒にいられる時間がないんだ。
「栄吉も頑張ってる」
「そりゃ、頑張ってますよー」
俺は、影人間になってしまった人達の捜索と復帰に力を注いでる。
驚くことに、俺の協力者はギンコと吉栄杏奈だ。
二人でペルソナのあらゆる能力を使い、影人間を戻していくのだが、この作業が遅々として進まない。
ゆきのさんやエリーさんを初めとした、セベクスキャンダル時の人達も、復興に力を注いでくれてるそうだ。
淳は――。
もう一度試してみると言って、シバルバーに行った。
動力部に行けば、もしかしたら、まだ噂が本当になる力を使えるかもしれない。
もう一度自分がジョーカーになって、噂を左右すると、言っていたけど・・・無理だろうな。
そこまで甘い状況を、あのニャルラトホテプが残してくれてるもんか。
明日辺り、探しに行こう。
崩壊世界。
この世界にいないのは、舞耶姉と珠閒瑠市に居た人間以外の全て。
舞耶姉か・・・あ、そういえば・・・。
「達ちゃん」
「ん?」
「あっちの舞耶姉から、伝言があるよ」
「え?」
達ちゃんは物凄く驚いた顔をした。
その後で、物凄く懐かしそうな顔をした。
一緒に戦ってたんだもんな、そりゃ懐かしいだろう。
「舞耶姉は、兄さんと仲良くしてたか?」
「は? 誰と?」
「だから、向こうの俺の兄さんだよ」
「達ちゃんのお兄さん?」
二人は付き合ってたのか? 達ちゃんの前で?
残酷だな・・・。
「舞耶姉の側に、男の影はなかったよ。お兄さんも側にはいなかった。それに、俺達は一回だけ会いに行っただけだから・・・」
「そうか・・・」
達ちゃんの懐かしそうな様子は変わらない。
「で、伝言だけど・・・」
「ん?」
「何時でも会える、って」
「・・・え?」
「普遍的無意識を使った、画期的な方法を見つけたって。それを全世界の人が信じることが出来れば、世界は元通りになることが出来るって。その時、また会いましょう。って言ってた」
「どういうことだ・・・?」
「奇跡の力なんだって」
そう、舞耶姉はそう言ってた。
奇跡の力は、実際には奇跡でもなんでもなく、無意識の発する人間の可能性の外の部分が働いて起こる現象なんだって。
人間の脳の、まだ使われていない部分が使われた時、人は限りない可能性を見出すことが出来る。それは、世界をも変える力だ。
そう、舞耶姉は言った。
そして――その能力の一端が、ペルソナ使いとしての能力なのだ、と。
たった四人を犠牲にして作られた新たな世界で、のうのうと生きるのはプライドが許さない。守られるべきは子供であって、子供に守られたままでは大人の沽券に関わるのだそうだ。
「レッツ ポジティブ シンキング!」
俺が叫ぶと、達ちゃんはおかしそうに笑った。
そう、達ちゃんは笑ってる方が良いよ。 遠く上がる花火を見ながら、俺はそう思う。
もう悲しみに歪む達ちゃんの顔も、苦しそうに何かに耐えてる達ちゃんの顔も見たくはない。
何時だって、俺の側で、笑ってくれてた方が良いんだ。
「ありがとう、栄吉・・・」
達ちゃんが呟いた。
小さな呟きだったけど、俺の耳に届くのには十分な声。
俺は達ちゃんを抱きしめた。
こんなに細い体で、一生懸命に頑張った達ちゃんなんだから、もうそろそろ幸せになっても良いんじゃないか、と思う。
その幸せが、どうか、俺の側にありますように。
らしくなく祈っちゃったけど・・・。
「ね、達ちゃん?」
「ん?」
「しても、良い?」
耳元で囁くと、驚いた顔が振り向いた。
「ここで?」
「そう。実は狙ってたから、人気のない場所を選んでたりして」
「・・・あのな・・・・・・」
「勿論、達ちゃんが嫌なら、しなくても良いよ?」
我ながらずるい言い方だと思う。
達ちゃんはあれから誰かを失うことが恐くなってて、だから、俺の無理難題にも反論しなくなってしまっていた。
「嫌じゃない・・・」
ほら。
だけど今は、その弱みに付け込ませてもらうよ。
もう、我慢出来ないし・・・。
達ちゃんの体を地面に押し倒し、シャツをたくし上げる。
あまり運動をしてないんだろうに細い体は、満足に食べてない証拠。
手早く服を脱がせて、両足の間に体を割り入れる。
足を閉じられない羞恥が達ちゃんの頬を赤く染めている。
可愛いね。
また二十歳なのに、それ以上の苦労を背負った達ちゃんを、俺が幸せにするよ。
だから、俺に溺れて欲しい。
さすがに骨は浮いていない胸から腰、そして、達ちゃんの――男に指を這わせる。
根元から先端までを強弱をつけて揉みこむと、固く目を閉じた達ちゃんの口から微かな吐息が零れる。
俺はのし上がって、その吐息を飲み込むように口付けて、同時に達ちゃんの男を激しく攻め立てた。
快感にか、腰が泳ぐ。
うねるような波にさらわれて、達ちゃんの胸は荒く上下し、攻められ続ける男は欲を主張して固く強張る。
先走りの液が滲み、手を濡らすそれごとこすり付けるようにすると、微かな水音がした。
「行く、達ちゃん?」
聞くと、涙に潤んだ目をゆっくりと開けた達ちゃんが、細かく首を振った。
「一緒に・・・栄吉・・・・・・」
「判った」
それまで達ちゃんの男に絡ませていた指を引き寄せ、口に含む。
唾液を絡めるように舐めまわしていると、それまで俺の様子を見ていた達ちゃんがそっぽを向いてしまった。
「どうしたの?」 聞けば。
「栄吉・・・やらしい・・・」
やらしいって・・・してる時点で十分にやらしいでしょーが。
「でも、そんなやらしいこと、好きでしょ? 達ちゃん?」
「・・・っ!」
あれ? 図星だったのかな?
困ったような、泣きそうな顔で、俺を見上げた達ちゃんは、そのまま深く目を閉じてしまう。
泣きそうな顔、とてもそそられるんだけど・・・別に泣かせたいわけじゃないんだよなぁ。
クールな達ちゃんはどこに行ったんだか。
濡れた指を背後に這わせると、何をされるのか判ってるはずの達ちゃんは一瞬硬直した。
「大丈夫。優しくするから」
そんな保障はどこにもないが、そんなの達ちゃんにだって判ってる。
小さく頷いた達ちゃんの、後ろの蕾に指を当て、ゆっくりと入り口を解す。
慣れて――はいるはずなのに、何故かまだ初心者みたいな反応を返す達ちゃんが可愛くて、思わず愛撫の手にも力が入ろうってものだろう?
ゆっくりとゆっくりと指を侵入さえる。
段々荒く激しくなっていく呼吸が、達ちゃんが感じはじめてることを教えてくれる。
体って便利だ。
拡張作業は繊細に。何しろ傷つけたら辛いのは達ちゃんだ。
あ、でもゴム忘れた。
何度か唾液で濡らした指を入れてる家に、侵入に拒絶を感じなくなった。
そろそろだな。
俺は自分のを出すと、ニ三度軽くしごいて、達ちゃんの後ろへ。
一瞬目を見開いた達ちゃんの目を、それまで達ちゃんの中に入っていた方の手で押さえ、一気に貫く。
「う・・あぁ・・・」
達ちゃんは低く唸り、それでも抵抗はしない。
奥まで入れると、そこで休憩。
落ち着くまで待って。
「もう・・・大丈夫・・・」
達ちゃんの言葉で、抽挿を開始する。
ゆっくりゆっくり。達ちゃんの良いところを探りながら。
壁をひっかくように突き上げると、ジャストポイントだったみたいで達ちゃんの体が跳ねた。
何度も何度もそこをこすり上げ、根を上げて泣き出すくらいに。
荒い呼吸が、断続的になってきたころ、達ちゃんの男が限界を訴えた。
「行くよ・・・」
俺も限界。
達ちゃんは嬌声を上げながら頷いて。
俺は調整しながら達ちゃんの男を刺激して・・一緒に・・・。
案外と長くしてたらしい。花火は終ってた。
隣でぐったりとしてる達ちゃんには悪いけど、なかなか楽しい一時だったと俺は思う。
「無理させてごめんね?」
「いや・・・」
達ちゃんの声は擦れている。
そりゃそうだろう。あれだけ喘いでたんだから。
「それに、中に出しちゃったし」
「・・・構わない。栄吉がしたいようにすれば良い」
「は?」
それはどういうことだろう? なんだか凄いなげやりな言葉に聞こえませんでした?
「ちょっと、達ちゃん!」
「ん?」
不思議そうに首を捻る達ちゃん。
「セックスは二人で楽しまないと駄目なの! 一方的なのは駄目なの。だから、達ちゃんが良くないなら、今後は絶対に中に出さないよ!」
「え?」
達ちゃんは心底不思議そうな顔をした。
あれ?
「俺は楽しんでる。栄吉と出来るなら・・・本当に・・・なんでも・・・・・・」
どんどん真っ赤になっていく達ちゃん。それって・・・。
「俺のしたことなら、なんでも許容出来ちゃうくらい、俺のこと、好きってこと?」
思わず勢いで出てしまった。
まさかそんなことはないだろうと思いつつも。
でも・・・。
達ちゃんは真っ赤になった。 それって、肯定してるってことじゃ・・・。
「嬉しいよ、達ちゃん!」
「ぅ・・」
あ、ヤバ・・・した後って、達ちゃんメチャクチャ腰だるいし痛いんだっけ・・・。
瞬時に反省する俺に。
「またしような・・・今度は、もっと普通のところで」
達ちゃんは、にっこりと笑ってくれたのだった。