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愛す者愛される者

 かちゃん、と金属の音が響くのに、達哉はありもしないはずの恐怖に震える。
 そう、これまでこうした行為に対し、恐怖を持ったことはなかった。相手が兄だということもあるし、例えどんなに酷い状況に陥ってしまったとしても、自分に心底惚れている兄が、然程酷いことはしない――という絶対的な自信があったから。
 なのに今はどうだろう?
 動作一つ一つに怯えている。
 表情のない顔に、温かみのない声に、優しさのかけらも感じない手の動きに――。
「兄さん・・・」
 手錠をかけられベッドに繋がれて――漸く、震えてしまう声で呼ぶ。
「なんだ?」
 問いかけに対する返事は何時もと変わらない。
 変わらないのに、全然違う。
 何時もなら、言葉一つでも視線が達哉を捕らえたのに、今は視線一つ動かさず、ベッドの向こう側で達哉の見えない場所で何かしている兄。
「何を・・・するんだ?」
「何を・・・か。それはこれからするんだから、おのずと判るだろう? それとも、先に聞いて想像でもして楽しむのか?」
 ふ、と口元が歪むのだけは、かろうじて見えた。
 その唇の歪みが、常の兄からは想像も出来ない程に酷薄で。
「想像でって・・・兄さん・・・」
「少しは黙っていられないのか? それとも僕を怒らせて、酷いことをされたいのか?」
 本当に、これは兄だと言うのだろうか?
 到底信じられなくて目を見開く。
 だが、兄は手にグロテスクなものを持ってベッドに乗りあがった。
 未だ衣服をまとう弟の腹にまたがり、楽しそうにその――手に持ったものに舌を這わせる。
「こういうのは初めてだろう?」
「それは・・・」
「パオフゥに怪しげなサイトから取り寄せて貰ったんだ。生意気なはねっ返りには、これが有効だそうだ。勿論、痛くないようにローションも取り寄せてやったぞ?」
 男性器の形をおざなりに再現した、見た目プラスティックのような・・・。
 いわゆる大人のおもちゃというものだ。
「まさか・・・」
 そんなものを兄が、よりにもよって、真面目の塊の兄が、戯れでも持っているのが信じられなくて、達哉は目を見開く。
 更にもう一方の手に握られたものは、化粧瓶のようなもので、赤い毒々しい瓶には、金の文字でLOVE
LOTIONと印字されている。
「お前は節操なしのようだから、大きめのサイズをとりよせてみた。痛くないと良いな」
 言うと、克哉は着衣のままの達哉の、ズボンを下着ごと脱がせる。
 上半身のシャツは胸までまくりあげたままで。
 たがまった布の所為で、達哉の視線から下半身が隠される。それが、尚更恐怖を助長する。
「兄さん・・・」
 縋る声で兄を呼んでも、雰囲気はまるで変わらない。
 何故、どうして兄が突然にこんな風に変わってしまったのか、達哉には判らない。
 判らないから混乱は深まる。
 そして・・・。
 キス一つすら貰えないまま下半身に這う手に、男を刺激される。
 軽く握りこんで上下する手の動きに、体は何時も通りに反応する。
 兄一人に相当慣らされた体だ。反応は早い。
 荒く狂い始めた呼吸と、熱が集中し始める性器。
 じわりと思考が溶けそうになった時、唐突に放り出された。
 それきり高みから達哉を見下ろす克哉の目は、冷え切っている。
 判らない。何時だって、こんな時は、温かくまるで心まで包んでくれるみたいな目で見ていたのに。
 視界が、生理的なことで溢れた涙と、訳の判らない自分を突き放している兄の態度への悲しみで濡れて滲む。
「泣けば良いと思っているのか? 女じゃないんだ、そんな小細工は通用しない・・・」
 兄はひたすら冷ややかに良い放ち、ローションの蓋を達哉に見えるように開けた。
 とろりと流れ出す、粘着質の液体。薄赤いそれに、達哉は震える。
「これは速効性なんだそうだ。塗られた所が熱くなって、欲しくなってたまらないそうだぞ?」
 それを、克哉は達哉の起立した男の先端から、トロトロと溢す。
「兄さんっ!」
 焦って身を捩る達哉の体を、克哉はたかぶったものを握るしめることで止める。
 瞬間に走った痛みと、ローションの冷たさに、達哉は低い声を上げた。
 ローションはあるだけ達哉のそれに降り注ぎ、流れて後ろに届く。
 手を離した克哉は、流れる雫を辿りながら達哉の後ろに指を伸ばすと、周囲の液を救い取り、達哉の中へ指を滑りこませた。
「成る程・・・うたい文句はガセじゃないということか・・・」
 液体の所為か、何時もなら軽い抵抗を覚えるはずの侵入さえ、容易く許した。
 あらかじめ効果を知っていたのか、克哉は喉の奥で絡めた笑いを溢すと、ニ三度指を出し入れする。
「ん・・・ぅ・・・」
 悪くない感触。達哉が堪えた声を上げる。
「良いのか? 僕の指を締め付けている」
 指の行き来は激しくなる。それにつれ達哉の声は感覚を短くして上がるようになり、内部の締め付けが強くなった。
「そろそろだろう、達哉?」
 それが合図だったかのように、液の付着した部分が、一斉に熱を帯びた。
「あ・・・あぁ・・・っ」
 熱い。
 熱をはらんでいたものから、克哉の指が入ったそこまでが、燃えるように熱くなる。
 ジワリと滲むような、痒いような痺れるような感覚が、達哉の意識を滲ませた。
「に、兄さん・・・」
 余裕のない声が克哉を呼び、何時もなら恥じらいばかりが先に立ち、何もかもを隠そうとする達哉の両足が自然と開き、更なる刺激を求めて揺らめく。
 低く笑った克哉は、内部の指を増やし、軽く前後した後、指を引き抜いた。
 何時もなら、この後克哉のものが内部を犯すはずだった。
 だが、克哉は自分の衣服は微塵も崩さず、側に放置したままであった性器の模造品を取り上げた。
「兄・・・さん・・・」
 兄が何をしようとするのか理解した達哉は、熱に狂う体を止めて首を振る。
 溜まった涙が零れて落ちるのも気にせずに、哀願するが、兄の笑みは変わらなかった。
 模造品にもローションを塗りつけ、達哉の入り口に導く。
「いや・・・いやだっ!」
 抵抗しても、片足を担ぎ上げられるように押さえつけられたら、駄目だった。
 ゆっくりと肉襞を割り侵入してくる、熱を持たないもの。
 内部を限界まで広げ押し入ってきたものが、長さ一杯に収められると、兄は伸び上がって達哉に口付けた。
 同時に、スイッチを入れられる。
「う・・・ぐ・・・」
 低い振動が全身に広がる。
 ガクガクと震える体を、克哉は熟知しているのだろうに、唇を蹂躪することをやめようとしない。それどころか、入ってうねるそれの先端を左右に動かして達哉をたまらなくさせる。
 何時もとは余りにも違う行為と兄の態度。
 唇が離れていった後、布を押し込まれて声を殺された。
 兄は達哉の体になど興味を失ったようにベッドを離れ、横にある勉強机の椅子に座って本を読み始める。
 長い責め苦の始まりだった。



 何度放っただろう。
 何度助けを求めただろう。
 何度・・・。
 絶頂を迎える度に溢した愛液は辺りに飛び散っている。
 充満する匂いは行為の激しさを如実に物語っている。
 無反応で読書を続ける兄の横で、達哉は放心していた。
 なのに体はまだ感じることをやめない。
 側に放り出されたローションは、殆ど空になっている。
 内部のおもちゃも止まらない。
 声を塞ぐ布は唾液で濡れそぼり呼吸すらふさいでいる。

 不意に、ぴぴぴ、と小さな電子音が響いた。
 克哉はやっと本から顔を上げると、側にあった時計のアラームを止めた。
「どうだった?」
 やっと達哉を振り向いた克哉に、達哉は色を失った瞳を向ける。
「随分と良かったようだな。僕の服にも飛んでいる」
 克哉は達哉の放ったものを、汚らわしいものを振り払うように払った。
 ズキリと、達哉の心に痛みが走る。
 何故こんなことをされるのか判らない。
 不意に落ちた涙に、克哉は表情を歪めた。
「泣くな・・・僕の心の一部が、お前が可哀想だといっているだろう?」
 何を言われているのか判らない。
 達哉はだらしなく零れ落ちる涙を止める術も知らず、兄の目を見つめ続けた。
 暫くは沈黙が続く。
 先に沈黙を破ったのは、克哉の舌打ちだった。
「そうやって、お前は僕を駄目にさせるんだ・・・」
 ベッドに乗りあがると、達哉の内部を埋めているものを憎々しげに取り去った克哉は、下腹の衣類を緩めると、既に高ぶっているものを取り出した。
 達哉の、寸前まで違うものに満たされていたそこに、己を押し込み――。
「ふ・・・」
 性懲りもなく感じて身を捩る達哉のそこを、激しく突き、犯していく。
 機械とは違う、感覚に動き。
 達哉は塞がれた口から、細く声を上げ――。
 同時に、果てた。



「なんで・・・こんなこと・・・」
 戒めという戒めを全て解かれた後、掠れた声で達哉は問う。
 全てをゴミ袋に入れている克哉は答えない。
「兄さん・・・」
 ベッドの上で方々痛む体を横たえていた達哉は、答えない克哉にもう一度――その名を呼ぶことで問うた。
 しかし・・・。
「済まなかった・・・」
 克哉はやはり答えず、掃除まで終えた後、一言そう告げて部屋を出て行った。
 達哉の全てを拒絶しているようにも見える克哉の背に、それ以上言葉は出ない。
 愛されてると思い、それに胡坐をかいていた。
 兄が与えてくれるものばかりを求め、自分からは何も与えることはしなかった。
 その報いなのだろうか?
 達哉は思う。
 だが、今更拒絶されてもどうして良いか判らない。
 ただ――もう離れられないのだ、ということだけは判っている。
 ベッドから痛む体を起こすと、服を着ることすら考えずに部屋を這い出る。
 誰かに見咎められることなど、考えもしなかった。
 正面に見える兄の部屋のドアを、ノックする。
 返事はない。
 ノブを捻ると、鍵は掛かってないようですんなりと開いた。
 ドアの向こうには、誰もいない部屋。
 妙に整頓された部屋に、どこか違和感を抱きつつも、ベッドに近寄って中に潜り込む。
 出かけているのだとしても、いずれ帰って来る。
 そう思いながら、克哉のベッドに残る匂いに包まれつつ、達哉は目を閉じた。

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