手を背後に縛られて、足をぱかーんと開かれている。
下半身は何故か裸に剥かれ、当然のごとく開かれたそこには性器が露出している状態であった。
「に、兄さん?」
おそるおそる声を上げる達哉。何時もなら、クール一徹で冷たい声をかけるのが常なのだが、達哉の足を開いている当の兄――克哉の目が、何故か剣呑な光を浮かべているのに、何故か何時も通りではいけないなにかが、達哉をそのような態度にさせている。
「何だ?」
楽しそうに唇を舐めながら克哉が尋ねてくる。
「いや、何をするのかな、と思って……」
何を、と言われても、縛られて何も着けてない足を開かれて、股間を凝視されているのだから、まさか、とは思うが、そういうことなのかもしれない、とは思う。
思うが、普通兄弟でこれはありなのか?
考えると、思考が止まる。
そういうのを、普通は近親相姦とかなんとか呼ぶ。
「セックスだよ」 ニヤリ、笑った克哉は、何故か普通じゃない気がした。
「セックスって、普通兄弟ではしない……」
「そうだね。でもね、僕はしたい。達哉を抱きしめて、ここを舐めて」
つるり、と性器を撫でられる。
「ん……」
思わず声を上げてしまった達哉を笑いつつ、克哉はそのまま指を滑らせ、開かれたそこでも、奥まった場所まで引き下ろす。
「ここに、僕のものを入れたいんだ」
要するに、最後までしたい、ということで。
「あの……兄さん?」
「ん?」
「冗談、だよな?」
「冗談……? 良い響きだけど、違うね。覚悟は良い? 達哉。これから僕は、どんなに抵抗されてもやるよ」
じー、と音を上げて克哉のズボンのジッパーが下げられる。
下着をかきわけ取り出したのは、既に高ぶりかけているそれ。背丈は達哉の方が高いものの、さすがに年齢の差か、克哉のそれは太くて長くて……。
思わず凝視してしまった達哉の視線の中で、克哉は自分のものを扱き始める。
「良く見てて、これが達哉の中に入るんだよ。ちゃんと、もっと大きく固くしてあげるから」
先走りの透明な液を滲ませ始めたそこを、その液を塗りこむように音を立てながら扱く克哉。
見ているだけなのに、達哉のそこも反応を始めていた。
先端の窪みに、液が溢れ、砲身を伝い落ちる。
「握って欲しい?」
無邪気とも言える声で聞かれ、操られるように達哉は頷く。
自身を愛撫しているのとは違う手で握られ、こすられる。
たまらない。
兄にされたいと思ったことはないが、他人の手は初めてだった。
性に関しては、まだ子供と一緒だ。直ぐに張り詰めた達哉は、いきたいと願うが、克哉は許してくれないようだ。
根元を握ると荒れ狂う快感と共に達哉を閉じ込め、自身を握っていた手が達哉の後ろに伸びた。
「に、兄さん……」
吐息と共に吐き出されたのは、兄を呼ぶ声。
「大丈夫。痛くしないから」
兄の滑りで濡れた指が、奥まった場所を書き分け中に入ってくる。
痛い――というよりも、違和感が襲う。
「兄さんっ!」
「大丈夫大丈夫」
指の根元まで埋められ、中をくるりとかき回される。
骨ばった関節が、妙なところに当たり、何故か腰が跳ねた。
「んっ!」
驚いて目を見開く達哉に「大丈夫。男でも良い思いが出来るよ」と告げる克哉。
経験があっての言葉なのか、と聞きたいが、直ぐに指が増やされ、思いも寄らない強さでかき混ぜられて、意識が溶ける。
変だ。
達哉は思う。
そんなところが感じるなんて、とても、変だ。
だが、感じる。
抜き差しを始めた克哉の動きに合わせて腰が揺れる。
意識しない内に指を締め上げ、慣れた快感が不満に思えるようになる。
もっと強くして欲しい。
願いが体の反応に出たか、克哉が笑った。
「達哉は才能があるのかもしれないね」
「何が……っ!」
「同性に愛される才能」
ニヤリと笑った克哉が、指をギリギリまで抜き、第一関節まででそこを一杯に開く。
「あっ……」
そんなちょっとしたことで感じて声を上げる達哉を、嬉しそうに見下ろしながら、克哉は開かれたそこに、先端を押し当てた。
そのまま指を外し、一気に貫く。
「やっ……!」
衝動が体を駆け上がる。
痛み――と激しい熱に浮かされ、達哉は首を激しく振る。
「大丈夫大丈夫。ほら、もっと良く僕の形を感じて」
克哉は根元まで納めると、留まり達哉の放置された性器を握ってこする。
後ろの不可解な痛みと熱に、前の確実な快感が混ざり、自分が何を感じているのか判らなくなった。
何時しか滲んだ涙。けぶった視界の中で克哉が笑っている。
何かに縋りたい気持ちになるのに、縛られた手では何も出来ない。
そんな達哉を見下ろして、克哉は腰を前後に動かし始めた。
ずるずると中をこすられるような感覚。
じわじわと甘い痺れが全身を犯し始め、ついには体が陥落する。
兄なのに、なのに兄のものに感じている。
犯されているのだ、実の兄に。
体に与えられる快感と、心に与えられる不可解な気持ちと。
相まって溶けて、ついには体が先に克哉を求め始める。
出入する砲身を締め上げ、全身で求めて腰を揺らす。
兄の端正な顔から、目を隠す色を持つ眼鏡が滑り落ち達哉の胸に当たった。
現れた端正な顔は、汗で濡れ、ただひたすらに達哉の媚態を見つめ続ける。
「に、さん……」
何度も兄を呼び、その都度激しくなる動きを受け入れて。
「達哉っ!」
極まった兄の声と同時に、中に叩きつけられる衝撃。
そして、放出。
がくりと崩れ落ちる兄の体を支え、達哉は呆然と中空を見やる。
「これで達哉は僕のものだね」
耳もとに注ぎ込まれる声に頷き。
「でも僕は達哉のものにはならない。それで良いね?」
崖から突き落とされたような衝撃。
達哉は落ちた罠を間近に感じ、それでも。
「ああ……」
頷くしかなかった。