随分と間抜けな格好で貫かれていると思う。
色気のないことはこの上もないはずなのに、感じるのはただ空虚感だけだ。
どうしてこうなったんだっけ?
首を捻って考えるだけの冷静さが残ってる。
ってことは、あまりこの行為がイイと感じてないってことかな?
そんなものかもしれない。
誰もが夢見ているようなセックスなんて、幻想だよ。実際に今体験している自分が言うのだから、絶対に間違いない。
けれど、状況と相手が妙な感覚を運んできているのは確かだ。
普段は冷静すぎる男が抑えたように呻く声は、違う意味で興奮したし、実際に触れられた男ははちきれんばかりに固く張り詰めている。
後ろの感覚も、思ったよりは酷くはなかった。
最初から才能がある人間っているらしいけど、まさか自分がそうなのかな?
妙にすんなりいった挿入に、思わずそう思った程だった。
だけど、どんなに繊細に動かれても、それ以上ははまらない。
相性が悪いのか? それとも全感覚が鈍くなったのか。
ペルソナが具現出来るくらいだから、感覚の一つが切り離されて、それに快感とか快楽とか、そういうものも付随していってしまったのかもしれない。
ここらで一発ペルソナを召喚してみようか? そうしたら、もう少しまともに感じるかもしれない。
そう思ったけれど、兄はペルソナの存在を知らない。
ゆきのが言うのには、幼い頃にペルソナ様という遊びをした子供が、将来的にペルソナ使いといとして目覚めると言っていたような気がする。
兄は・・・しただろうか?
聞いてないし、一緒にした覚えはない。
あの頃は、仮面党ごっこが楽しくて、とても――楽しくて、だから、兄との交流は家での短い時間だけだった。
「中に出して、良いか?」
律儀にもそう聞かれ、達哉は頷く。
「悪いな・・・」
別に良いのに。
思いながら、達哉はくるであろう奔流を待ち受けた。
絶頂が近いのか、克哉の動きが激しくなる。
叩きつけられるかのようなそれに、思わず体がしなり、一瞬これが快感か? と思っても、やっぱり思考は醒めている。
結局、そういうことなのかもしれない。
待ち受けた奔流は直ぐにやってきた。
内臓に逆流するような奔流。
奇妙な感じだ。腸内洗浄を受けると、こんな感じなのかもしれない。
今度やってみよう。
達哉は冷静に思う。
「・・・辛かったろう? 悪かったな・・・」
兄が困惑の表情でそう言うのを聞きながら――。
全くダメージもその他の何も感じなかったというのは出来ない相談だった。
「良かったよ・・・」
嘘を吐く。
克哉は苦く笑って――それは、一種の溜息かもしれなかったが――言った。
「良かったわけないだろう? ずっと無表情だった」
「・・・そうか・・・」
では、兄では駄目なのかもしれない。
考えて――こうなったいきさつを思い出した。
最近、世間から切り離されているような自分を感じていた。
そう、感覚が、酷く遠いのだ。
そこに現実は確かにあるはずなのに、生きているという実感がなかった。
戦って、ペルソナを具現して、初めて全ての感覚が戻ってくる。そんな感じ。
もしかして自分はこの世界とは別の場所に生きているのに、体だけがこちらにあるから、意識が無理矢理他人に入っている感じがして、とても不思議だった。
戦っている時にはあらゆる感覚があるのだから、ではその他のことではどうだ?
そう思って――手近にいる兄に、誘いをかけた。
今考えると、最悪な選択だったと思う。
もっと他の人間で試せば良かった。
自分が感じていない――立ちはしたが――ことを兄は感じ取り、恐らく傷つき悔やんでいるだろう。
真面目な人だけに、遊びということは出来ない。
このまま忘れてくれると良いのだが・・・。
「ごめん・・・」
一応謝っておく。
克哉は――首を振った。
「謝るつもりはない。僕は、とても・・・興奮したからな」
「そうなんだ?」
「ああ・・・これまで一度としてこんなことはなかったが、一人で暴走して恥ずかしいくらいには良かったんだ」
こんな体でも良かった? 信じられない。
ということは、兄とは相性は良いことにならないか?
なのに、自分は感じていない。
何故?
・・・答えなんて、そう簡単に見つかるものじゃない。
明日は――淳でためしてみよう。
思って、達哉は目を閉じた。