午前六時半。
珍しく目覚ましの鳴る前に目覚めた達哉は、何時もより重い布団に首を捻った。
そろそろ布団も干さないと。
今週頭の日曜に雨が降ってサボってから、そろそろ三日。幾らなんでも冬場の一週間の湿気は半端じゃない。
通気が良いとはいえない鉄筋マンションの二階。忙しさにかまけて掃除もサボったから埃も溜まってるし、もしかすると、どこかにカビなんて生えているかもしれない。
本日は快晴。本当なら一週間の疲れを払拭する為に眠っていたいが、サボリ癖がついていつまでも掃除も洗濯もしないのでは健康にも良くないし、そもそも来週に着る服がなくなってしまう。
布団の中に温もりは何時もより温か――というより暑いくらいで、本当ならもうちょっと寝ていたいと怠けそうになる体に気合を入れる。
よいしょ、と起き上がろうとして、狭いベッドの中、隣に眠る人物の存在を自覚した。
「そっか、泊まったんだ……」
布団が何時もよりも重いのは、その人物の手が自分の肩に乗っているから。
その人物=兄。兄=克哉。
港南署に勤めている刑事の克哉は、最近酷く忙しい。昇進には興味がないようだが、仕事に熱心なのが評価されて、昇級試験を勧められて仕方なく勉強しているのだそうだ。
大学に通う関係で、港南区に近い街に一人暮らしを始めた達哉の部屋に、克哉は必ず週末にやってくる。
意識を背け合った十年を埋めるかのように達哉に構い倒す克哉に押されて、先日ついには兄弟なのに兄弟にあるまじきことをしてしまい、以後関係は兄弟から恋人に変わってしまった。
参った参った。
世間では禁忌だ背徳だと言われる関係だが、そんなの気にしなければ気にならない。そもそもそんなちゃちな道徳観念などペルソナなんていう、常識外れな力を使える達哉にとってはないも同然だ。
そういえば、昨夜はやけに荒れていた克哉に、酷く乱暴に扱われた記憶が……。
ぴりりと下半身に走る痛みに眉を顰めて寝返りを打つ。
首の下にも腕一本。
起きたら痺れて感覚がなくなっているだろう。突っ突いて遊ぼう。
達哉はクスリと笑って腕をどける。
ぺらりと捲れた布団の中、細い癖に筋肉のついた体が見える。
背丈は達哉の方が少しだけ高い。それに伴って体重も達哉の方があるのに、力は克哉の方が強いなんて、反則だ。
といっても相手は警察官。柔道含めて武道はそれなりにこなす、端から見ればインテリで嫌味な刑事。
反して達哉は、運動神経だけは人並み以上なものの、武道といえば戦いで覚えた剣技がせいぜい。喧嘩ならそれなりだが、急所を一突き出来る鍛えられたそれではない。
その辺の差かもしれない。
なんだか悔しい。
動かないことに気付いてしまった腰にイライラしながら、何とか克哉の胸の上に乗りあがる。
かなりの圧迫感があるはずなのに、熟睡中の克哉は目も覚まさない。
「兄さん、メシ。メシ作って。布団干して。洗濯して掃除してくれ。俺は腰が動かない」
達哉は言いながら兄の身体の上を両手だけで這って、布団の中に潜っていく。
「兄さん、メシ。腹が減った」
呪文のように呟きながら、目的地に到達。
男の生理がどうのこうの。まだまだ若い克哉のイチモツは見事に元気に張り詰めている。
「兄さん、してあげるから、飯作って」
言いながら、ぱくん、と銜える。
素直にビクンと反応した克哉のものは、達哉の口の中一杯に背徳の味を広げていく。
「何してるんだ……」
呆れたような声。やっと目覚めたらしい。
「朝のご奉仕」
「ご奉仕って……」
更に呆れた声。
「あのな、達哉」
「処理するから、お礼にメシ作って」
銜えながら言うと、克哉は微妙な吐息を漏らして「仕方ないな……」と答えた。
「なら、僕もしてやろう」
「ん?」
斜めにベッドに下ろしてある下半身を、力任せに持ち上げられる。「ちょっと、腰! っつ!」
無理な行為でつかれきった腰は悲鳴をあげ、痛みを達哉に与える。
思わず声を上げた為に、かみついてしまう。
「こっちの方が痛い!」
怒鳴った克哉は、噛み付かれた復讐なのか、それともただの趣味なのか、昨晩散々イタズラした達哉の後ろにずぼりと予告もなく指を突っ込んできた。
「っつ――!」
とにかく痛い。
無意識に克哉を蹴ろうとするが、位置が悪くて届かない。
そうこうしている内に、良いところをこすられてしまって。
気付いたら組しかれていた。
「仕事、速いね」
上がった息で言えば、克哉は楽しそうに笑う。端正でクールだ、と婦警達に言われる克哉だが、実際のところ達哉よりも余程感情表現はストレートだ。
「ここからはゆっくりとするのが礼儀だろう?」
何がだよ、と言おうと口を開いた時を見計らっていたのか、朝の凶器が達哉の中に入ってきたのだった。
本当は声なんてあげないで堪えるつもりだったのに、口が最初から開いていたので声が出てしまう。
自分の耳に飛び込む、自分の声とは思えない甘い声に、達哉は耳を塞ぎたい位の羞恥を覚え、更には自ら仕掛けたいたずらにはまったしまった自己嫌悪に陥るのだった。
まぁ、直ぐに何も考えられなくなってしまったのではあるが――。
「朝っぱらから……」
潤みきった目で睨む達哉に、目覚めの一発を終えて酷くすっきりしている克哉は苦笑した。
「お前が煽ったんだろう?」
「俺はメシ作って欲しいだけ。洗濯と掃除と風呂。あと、布団干して」
要求だけ告げてしまうと、達哉は布団の中にもぐり始める。
「もうちょっと寝る。疲れた……」
ふわり、と欠伸をして、目を閉じる達哉を見て、克哉は仕方ないな、と溜息をついた。