昔から人形遊びが好きだった。
勿論、髪を切ったり服を着せ替えたり、といった、女の子専用の人形遊びとは違う。
戦車や軍服の人形を配置して、戦わせたりするあれ。
ある日、母が克哉に言った。
「弟が出来たのよ」
見せられたのは、生きた克哉専用のお人形だった。
「ほら、達哉。溢しちゃ駄目だよ」
小さな手が伸ばされる。
スプーンを持つ克哉の手に目掛けた振り下ろされた手は、見事に当たって、衝動でスプーンは床に落ちた。
「あー、あーー」
まだ言語を理解していない達哉は、それでもいけないことをしたのだと判るように、ごめんなさいな意識を持ったような目で克哉を見上げる。
「良いんだよ。ごめんね」
克哉はそう言ってスプーンを拾う。
床にぶちまけられた料理が多少うざったいが、人形のしたことだから仕方がない。
持ち主の責任だ。
ティッシュで床を軽くふいておく。
「さ、食べようね」
「あー」
「本当に克哉は面倒見が良くて助かるわ」
多少異常にも見える構い方に、母はそれでも嬉しそうにそう言った。
「弟だもの、当然だよ」
「そう言ってくれると助かるわ。まさか、こんなに早くから仕事に復帰させられるなんて、思ってもみなかったから」
「大丈夫。達哉は僕がちゃんと面倒を見るから」
「お願いね」
母は戦闘服に身を包み、化粧で表情を塗り固めて玄関から走りでていく。
ミニに近いスカートで自転車をかっ飛ばすのは、母くらいなものだろう。しかもペダルに乗せるのはハイヒールの足だ。
リフォームを主に受ける工務店の営業をしている母は、社員三人のその会社の中では一番のやり手だと言われている。産休で一年の休みを貰ったはずが、どうしても、といわれ半年で復帰することになってしまった。
結局達哉の面倒を見るのは、兄の克哉の仕事になった。
だが、苦痛とは思わない。
これで自由にお人形さん遊びが出来るというものだ。
「な、達哉?」
「あー?」
達哉は首を捻る。
最初は猿みたいな顔だったが、成長するにつれ、母に似た綺麗な面立ちになってきた。
まだ子供のなので、可愛い、と言った方が適当かもしれないが。
「さ、ご飯を食べて……何をして遊ぼうか?」
言うと、達哉は克哉の言っていることが判ったかのようにニコニコと笑い、克哉にだきついてきた。
可愛い可愛い克哉のお人形。
このままずっと、可愛いままで、克哉だけのものであれば良い。
年を経るごとに、克哉のお人形遊びはエスカレートした。
初めて、脱がせた達哉にいたずらしたのは、達哉が小学校一年の頃だった。
この頃、子供の精神というのは吸収の時期であるから、経験したことを忘れなくなる。特に性的ないたずらを受けた子供は、その記憶は忘れるものの、得たこともない快感を体に覚えていて、将来は淫乱になるのだそうだ。
克哉はこれを知った時、躊躇いなく達哉に性的な暴行を働いた。
いや、達哉にとっては暴行ではなかった。
兄の与えるものを、無条件に受け入れるのが達哉だ。
経験といして蓄積されたそれは、達哉を確実に、克哉の望む形へと変化していくことになる。
そして今。
意識もせずに克哉に組み敷かれる弟がいる。
子供の頃の経験から、体を男に征服されることに嫌悪を感じることもなく。
何年経っても、弟という名の達哉は、克哉の人形でい続ける。
克哉がそう意識している間は……。