それ、目茶やばいから。
昼間女子高生が言っていた言葉を思い出す。
街中で大声を上げて、平然と大人なら口に出来ないことを語り合う女子高生に同意するわけではないが、現在の状況としたら、それはもう「目茶やばい」に違いない。
何しろ自分は今、眠る弟の部屋に侵入しているのだ、しかも、かかっていた鍵をこじ開けて。
何時の間につけていたのだろう――鍵は、達哉が自分でつけたらしく、なかなか器用に設置してあったが、力技には弱かった。
達哉に負けず劣らず手先の器用な克哉は、ピッキングも得意だったのである。
「空き巣の気持ちを理解するのには、僕はうってつけだな」
正確に言えば、これから強姦魔になるはずなのであるが・・・。
犯罪者を理解するには、まずその犯罪の詳細を理解すること。
そんな言葉が脳裏を過ぎる。
大学の、犯罪心理学の授業でのことだったかもしれない。
だが今は、そんなことはどうでも良い。
これから、いかに暴れられずに達哉を犯すか、ということを考えなくては。
克哉は持って来た七つ道具の内、まずはタオルと縄を取り出した。
タオルは猿轡用。縄は手首と足首を縛り付けるのに使う。
声を立てられたら、恐らく両親にモロバレ。下手すれば病院送りになることを考えなくてはならない。勿論、その病院とは精神病院のことだ。
となると、やはり先に声を封じるべきか。
克哉は丸くなって眠る達哉の上に乗り上がると、おもむろに口を開かせタオルを突っ込んだ。
「ん・・・?」
達哉の目が覚めかける。
まずいな・・・。
素早く手を取り出し、両手首を縛る。
これでまず、声の心配はなくなった。
目が覚めたらしい達哉は、呆然と手首を見ている。一体何事だろう? そんなことを思っているのかもしれない。
しかし達哉の心情を慮っている余裕はない。
布団を捲り上げると、足を取り、片方をベッドに括りつけ、もう片方は肩に担ぎ上げる。
この辺になると、達哉は辺りを見回し、克哉を見て驚いていた。
普段、克哉が達哉の部屋に押し入ることはそう――ない。と思う。
兄弟間の交流が希薄だといわれればそれまでなのだが、元来から達哉は部屋に家人(勿論他人も)が入ってくるのを好まなかった。
その為の鍵なのだろう。
事態を理解し始めた達哉は、暴れ始めるが、もう遅い。
自由を奪われた体では、抵抗の殆どは無効と化した。
そんな達哉を見下ろし、克哉は唇を舐める。
美味しいデザートを目の前にしたら、誰でもそうだろう。ごくり、と喉が鳴る。
だが、このデザートはまず皮をむかないと食べられない。
克哉は持って来た道具の中から、ナイフを取り出す。
達哉の体が、ビクリと震える。
「大丈夫だ、傷つけるわけじゃない」
というのは、全くの嘘。
だが、傷つけるのはとりあえずそこじゃない。
ナイフは、皮をはぐのに使うのだ。
パジャマの合わせの下を持ち、思い切り左右に広げる。
ぷつんぷつん、と音を立てて、ボタンがはじけ飛ぶ。後で縫ってやらないとならないな。そんなことを思いながら、克哉は首までをはだけると、今度はズボンの方に手をかけた。
上は良い、千切れるから。だが、下は駄目だ。
足を片方ベッドに繋ぐに当たって、最初から脱がせるのは断念していた。
着ていたパジャマが、達哉のお気に入りだったのは不幸なことだが、それも今日着ていた達哉が悪いということにしよう。
見上げてくる目は、どこか怯えを含んでいて、子猫のようで可愛い。
外敵を見分ける猫の目は、怯えれば怯える程に可愛くて、踏んづけてやりたくなる。
ナイフを胴から潜り込ませると、克哉は勢い良く手前に引いた。
ぴ、と音を立ててズボンが切れる。後は下に滑らせて・・・。
露になる達哉の下着。
恐怖かそれに伴う興奮でか、達哉の前は微かに興奮を示していた。
もう一度ナイフを胴に当てる。今度は慎重にしなければならない。大事なところが切れてしまわないように。
ぷつん、とゴムが切れる。下着を左右丁度半分辺りで切り裂いて――。
収められていたものが外気に晒されると、達哉は怯えの色を濃くした。
息が荒くなっている。
人間は、極度の興奮状態になると、呼吸が荒くなる、心臓が早鐘を打ち、体内を巡る酸素が欠乏して代わりを求めるからだ。
さらに男の体は――恐怖で立つこともある。
克哉はゆっくりと達哉のものを握り締めた。
なかなか重量がある、良いモノだ。
緩くさすると、達哉は意味不明な声を上げて目を閉じた。
感じているのが判る。担ぎ上げた足が、びくびくと痙攣している。
親指の腹で先端をこすりながら竿を二・三度こすると、面白い程に硬くなる。
若い体だ。この頃の男子は、普通したい年頃だというが、達哉に女の影はない。恐らく、遊び相手もいないだろう。
となると、夜の相手は自分の手ということになるのかもしれない。
克哉は殊更にゆっくりと竿をこすった。
同時に、デザートには必須のシロップを取り出す。といっても、これは本場もののローションという奴だ。
ジェルの方が良いとのアドバイスを受けたが、どうしてもローションの緩い液体に興味がいった。
これが達哉の中から零れ落ちる様を見たかったのだ。
瓶の蓋を開けると、空いている手一本で達哉の腹にローションを落とす。
腹の窪みに溜まったローションは、荒い呼吸を示すように激しく水面を揺らす。
克哉はそのローションの湖に指を浸した。
緩いので、直ぐに雫が落ちる。だが、それで良い。
しっとりと濡らした指を、達哉の肌を統べるように移動させて、高ぶり震えるモノをも通り過ぎ、更に後ろの奥へ。
遠く――達哉が赤ん坊の頃に数度見たことがある小さな穴へ、その入り口に指を押し当てる。
ビクリ、と顕著に反応を示す達哉が哀れで愛しい。
どうしてこんなことをされるのか、想像も出来ないだろう。
だが、それで良いのだ。
「入れるぞ・・・」
ふ、と笑みを作り、克哉は侵入を拒むそこへ指を――押し込んだ。
「う・・うぅ・・・」
苦しげな声が上がる。
本当に哀れだ。
どんなに抵抗しても、そうされる運命にある。
そう教えるのには、絶好のチャンスだっただろう。
そう、達哉、もうお前は僕から逃げられないんだよ。
指はローションの効果を借りて指の根元まで入った。
まだ出し入れするのは無理そうだ。
指を中でくるりと回す。
達哉は硬く目を閉じて耐えている。
痛むのだろうか?
だが関係ない。
一瞬力が抜けた隙に、指を取り出す。
手荒い動作だったので、驚いただろう、達哉は眼を見開いていた。
その内に、前後の刺激が同等の意味をもたらす。
連動する動き。リズム。
克哉は何度もローションを運び、内部は十分に潤んだ。同時に、前も限界を訴える。
だが、先にはいかせない。
克哉は根元を掴むと、最後の道具を取り出す。
リングだ。
世の中には便利なものが売っているものだ。
克哉はリングで根元を止めると、ベッドにつなげた足の縄を外した。
両足を、赤ん坊がおしめを取り替える時にするように、胸に押し付ける。
達哉はこの格好に抵抗があるようだが、逆らいは出来なかった。
この時既に、達哉の体も官能に支配されていた。
克哉の眼前に示された場所は、思ったとおりにタラタラとローションをこぼしている。
魅惑的な姿だった。
先を求めてひくつくそこ。見ているだけではちきれそうだ。
克哉は伸び上がって、己の高ぶったものを取り出すと、そこに押し当てた。
ぴくり、と達哉が反応を返す。
喜んでいるのか、怯えているのか。
表情からは判断出来ない。
克哉は滲んだ先走りを、零れたローションと絡めるように入り口をこすり、先端の位置を確認する。
「行くぞ・・・」
達哉はぎゅっと目を閉じる。
瞬間を見逃さぬように、押し込んだ。
「うー・・・」
色気のない声だ。だが、タオルで口を塞がれていては仕方がないのかもしれない。
達哉の艶声を聞いては見たかったが、それは体が馴染んで自分から誘うようになってからの楽しみとする。
克哉は収まった己を、内部で左右に揺らした。
きつい内部では、それだけでも困難だった。
リングをしたまま、竿をこすれば、締め付けが緩む。
緩んだ時を見逃さずに、壁面を刺激する。
達哉の呼吸が更に荒く、早くなる。
びくびくと震える達哉の胸の飾りも気になった。機会があったら、吸ってみよう。
そう思いながら、克哉は腰の動きを早めた。
解放は一瞬だった。
リングを外した瞬間に、達哉の熱い奔流は放たれた。
衝動が克哉に伝わり克哉も。
中に放たれる衝撃はどの程度のものだろう。
克哉には経験がないから判らなかった。
激情が収まり、暫く中に収めたまま達哉を観察すると、目元が濡れているのに気付いた。
達哉でも涙が出るのか。
そんなことを思う。
目元を拭ってやると、達哉は更に涙をこぼした。
何が悲しいのか、理解も出来ない。
克哉は中から己を引き抜くと、変わりに指を入れて中のものを掻き出した。
本当はゴムをつけるべきなのだろうが、余り好きではない。
掻き出したものをティッシュで拭い、無造作にゴミ箱に捨てる。
ベッドから降りると、克哉は部屋を出る。
まずは濡れタオルを用意しなくてはならない。
それから、飲み物と・・・ちょっと甘いものでも。
克哉が再び部屋に戻ると、達哉は自分で戒めを解いていた。
足の間を伝う白い液が扇情的で一瞬見入る。
「なんでだよ・・・」
達哉が言った。
「何がだ?」
「だから、何でこんなこと・・・」
男の泣き顔なんて、と普段は思っているが、達哉のそれは、とても――綺麗だった。
「したかったからだ」
克哉は端的に答えた。
どうしてしたのか、と聞かれれば、本心はしたかったからだったのだから、それしか答えようがなかった。
「したいと思えば、それが強姦でも構わないってのか?」
「強姦? 夜這いのつもりだったが・・・」
「・・・」
言い訳はしてみるが、自覚はあった。
好きでもなんでもない相手からもたらされる行為は、それは強姦に違いない。例え克哉が何年気持ちを温めていようが、だ。
「・・・くせに・・・」
「なんだ?」
聞き取れなかった。達哉は声が小さい。
「俺のこと、好きでもなんでもないくせに!」
むしろ、憎んでいるだろう、と言われ、克哉は驚く。
「僕がお前を、憎んでいる?」
克哉は盛大に驚いた。
何時の間にそういうことになったのだろうか?
そんな風に思う。
克哉が憎んでいるのは、自分の方をこそ、だ。
「僕はお前が好きだ。弟としてでなく」
「嘘つき・・・」
さめざめと泣く弟は、全然全く克哉の言葉を信じていないらしい。
別にそれでも良いか。
克哉は思う。
その時だった。
「克哉ぁ、達哉ぁ、どうしたのぉ・・・」
欠伸交じりの母の声。
トントントン。階段を上がってくる足音がする。
克哉は瞬間的に動いていた。
達哉をベッドに突き飛ばし、上から布団をかける。
「達哉、大丈夫だ、僕がついてる!」
「もごもご・・・」
布団に押しつぶされた達哉は、呼吸まで封じられて苦しそうに悶えている。
「克哉? どうしたの?」
「いや、達哉が苦しいと言うので・・・」
「あらそう? じゃ、克哉、後はお願いね」
「あ、ああ・・・判った」
母は背向け、安堵した兄弟は次の瞬間凍りついた。
「そうそう。克哉、近親相姦には目をつむるから、エッチする時は、もうちょっと動きを抑えないとね」
「え・・・・・・・・・・・・・」
「ここの真下が私達の部屋なんだから、聞こえるわよ。お父さんは寝汚いから気付いてないけど、私ってほら、眠りが浅いから・・・気をつけてね。あと、達哉、避妊具使ってないなら、お風呂入って中洗わないと、明日の朝、凄いことになるわよ」
ふわぁ・・・欠伸をしながら今度こそ母は階下へ。
呆然とした兄弟は、互いを見つめあい・・・。
「か、母さんって・・・」
蒼白になった弟に・・・。
「どうやらバレバレだったみたいだ・・・」
しかし、母公認・・・。
克哉はしばし考え・・・。
「ということで、母さんにはお許しを貰ったんだ。僕の恋人になってみないか?」
クソ真面目に交際申し込みをする兄に、弟は――ためらいながらも頷いた。