秩序の神コスモスと、混沌の神カオスとの戦いは、彼らが異世界から召喚した戦士達が代理として、争われた。
長く激しい戦いの末、秩序の戦士達は敗れ、世界は闇に覆われんとしていた。
だが、秩序の戦士達はまだ知らない。その闇が、彼らが想定していたような闇などではないことを……。
混沌の神との戦いに破れたコスモスは、歪みそうになる口元を何とか引き締めながら、残された秩序の戦士達に告げた。
「クリスタルを探してください。その力は、私に残された最後の……えっと――力。そこに希望が見出せる……かも、しれないでしょう」
戦士達は首を捻る。
何だろう、このコスモスの、どこか矛盾したような口調は……と。
だが戦士達は、コスモスの言葉に従うようにと、それぞれクリスタルを求めるべく、旅立っていった。
闇は、ぱっくりと口をあけて、戦士達が落ちてくるのを待っていた……。
「クリスタルか……」
一人、旅立ちの始まりを迎えた光の戦士――ウォーリアオブライトは呟く。
記憶障害か、それとも色々忘れっぽい年齢に近付いたからか、己の名前すら思い出せない彼は、親切な彼の仲間達から、特徴にちなんだ呼び名を与えられていた。やたら長い名前なので、最初は嫌味か、と思っていたが、別段そうでもなかったようだ。何しろ呼ばれる時は常に「なぁ」とか「おい」なので、長さに困ったことはなかった。
因みに何故ウォーリアオブライトとなったのかと言えば、彼を最初に見た時、何時もならば貝のように口をつぐんで凝視と無言で何事かを訴えるのが常のスコールが「眩しい奴」と呟いたからだ。
ピンポイントコメントはスコールの性格を実に良く示してはいるけれど、こういう時は非常に迷惑だと思う。
ウォーリアオブライトは、そう思ったが、口にはしなかった。もしもスコールに一人前の心があるならば、傷付いてしまう、と余計なことを考えたからである。
まぁ、実際のところ思い切りそんな気遣いは無用だったのであるが……。
さても、コスモスに言われ、探しに旅立ったクリスタルではあるが、彼女は明確にどこにそれがある、とは言わなかった。ただ、非常に言い難そうにではあるが、困難の末に手に入る、とは言っていた。
どのような困難が待ち構えているのかは予想もつかないが、それが戦いであるのならば、勝機はあると信じている。
己達には光の加護がある。その加護ある限り、いかに闇の力が強大であろうと、チャンスはあるはずだから。
「光は、我が元に……」
この時のウォーリアオブライトは、想像もしえなかった。光闇と一言で言っても、その意味は一言では表現出来かねる程に存在し、また彼らが落ちるかもしれない闇が、そのどれに属するのか、を。
そしてその闇の形が、光の加護などものともしない、それこそ闇の中の闇であることを……。
いや、知らなくて良かったのかもしれない。
あらかじめ彼にその知識があったのであれば、間違いなく彼は、コスモスの方をこそその手にかけ、欠片と成り果てた世界の全てを粉砕し、エクスデスではないが、無をこの場に呼び寄せようとしたであろうから。
後に彼が当たり前のように口から吐き出すであろう言葉は「汚らわしいっ！」に特化されるであろう、旅の始まりは、今はまだ、誰にとっても平穏であった。
コスモスは己のベーススペースである秩序の聖域に、一台のテレビを持ち込んで、それに今、スイッチを入れた。
「多少画像が荒いようですが、仕方ありません。それもこれも、我が戦士達の行く末を見定める為に……」
しかしながら……。
コスモスは思う。
実は戦士達の選出に対して、何ら基準の設定を、コスモスは定めなかった。所謂、各世界から、誰でも良いから一人ずつ……と呼び寄せたのである。所謂行き当たりばったり。
であるのだが、面白いくらいに粒が揃ったのは、闇の力のなせる業か、それともコスモスの表には出さない願いが実を結んだか。
戦いであるのだから、容姿共外的要因は何も関係がなかった戦士の召喚。だが、出来るなら美形が良いなぁ、と思っていたコスモスは、集った戦士達を見て「ナイス！」と心の中で叫んだ。
当然のこと、美形でも性格がおかしい戦士は山程存在したが、そんなことはコスモスには関係がない。代わりに戦ってもらいはするが、だからといって個人的な付き合いをするわけではないし、そもそもこの代理戦争の行く末は、決まってある方向に流れて、勝っても負けても、美味しい思いが出来るのには変りない。それでも、そこに性格が関係するのか、と問われれば、全然関係がないのである。
「さて、今度の戦士達は、どのような結末を、私に見せてくれるでしょう」
前回はちょっと辛い状況に陥ってしまった戦士達も、今度はクリスタルを見つけられれば、それ程辛いことにはならないだろう。なにしろあのクリスタルは……。
「楽しみにしていますよ、戦士達……」
ふふふ、とコスモスは笑う。
そして……闇の力の元、混沌の戦士達も、笑っていた。