兄が男に抱かれている。
それを知った時かもしれない。マッシュの理性が焼ききれたのは……。
昔は兄の方がなにかと上に位置していたが、流石に格闘の修行に長くいそしんだだけはあり、今では少なくとも力だけは、エドガーを凌ぐだけのものを手に入れていた。
そう、昔は……。
双子であることは判りきっているのに、マッシュにとってエドガーは、兄というよりはもっと別の何かに近く、己とは違って色々なものを持っているエドガーを、羨望の眼差しで見ていた。
何時だっただろうか? その兄に、邪な感情を抱いていると自覚したのは?
父が病の床に伏せてからかもしれない。
母はずっと幼い頃に亡くなり、兄弟を育ててきたのは父とその側近達。
最も身近にいるべき女性の温もりを知らずに育ったマッシュは、何時からかその温もりをエドガーに求めるようになっていた。
数瞬先に生まれたエドガーは、マッシュよりも少し華奢な体のつくりをしていて。顔立ちも大雑把なマッシュとは違い、どちらかと言えば母に良く似たその相貌は、男というよりは女性的だったから。だからかもしれない。
部屋は二人とも別れていたのに、だからマッシュは良くエドガーの部屋で一緒に眠った。
甘えん坊、と称されても、やめることは出来なかった。
甘えん坊でも良い。兄の匂いを、肌の温もりを感じながら眠りたかったから。
なのにそれは、長い年月をかけて別の欲望に変わっていった。
いわゆる、思春期というものだったのかもしれない。
自分とは違う、どこか柔らかい匂いを持つエドガーの体を、妄想の中で裸にしてその肌をむさぼった。
父との時間が短くなるごとに、その妄想は拍車をかけ、ついには眠るエドガーの体に触れることまでした。
けれど……。
禁忌だと、わかっていた。
その頃からエドガーは女性に礼儀として声をかける、などというフェミニストぶりを発揮し、周囲からは女好きとして知られていたし、それに、己の認識の中では違うと思っていても、実際にエドガーを兄と呼ぶ自分がいる。
兄弟で結ばれる縁は、家族という名を持つものしかありはしない。
ましてや、マッシュが望む肉体関係などというものは……。
そう思って、兄から離れたのに……。
なのに……。
少なくとも、兄は男に抱かれる体を持っている。
この事実が、マッシュの箍を外した。
泊まった宿の一室。夜中に忍んだのは、兄の部屋。
城と臣下に守られ安穏と暮らしているように見えて、エドガーは何度か暗殺の危機に遭っているから人の気配にも敏い。
けれど、それは他人のものであって、同じ血を最も近く分かち合うマッシュのものには、鈍感過ぎる程に鈍感である。
目覚めない兄に、瞬間、殺意にも似た感情を抱きつつ、布団を剥ぎ、また衣類を乱していく。
昼間の装束と違い、夜着は酷く心もとないものだ。
一動作で腰帯を解き、合わせを割れば、そこには均整の取れた肉体が現れる。
白い肌。そして……そこに散らばる紅い印は、先日マッシュが見てしまったロックとの情事の跡なのであろう。
見れば凶悪な欲望が吹き上がる。
「兄貴……」
両足を開かせ腰を掬い、顎を捕らえて深く口付ける。
腰をねじ込んだ両足の狭間に眠るものを、腹の筋肉でこすりあげると、息苦しさもあってか、エドガーがうっすらと目を開けた。
瞬間、目が見開かれる。
眠りの中にけぶった青い瞳。
「んぐ……っ」
上げようとする声を唇で塞ぎ、差し込んだ舌で甘い口中を嘗め回す。
「ふ……んっ……」
吐息に混じる声に、欲望は尚も昂ぶった。
28にして、まだ甘い香りを振りまく、あでやかな花。
唾液に濡れる口内を、好きなだけむさぼると同時に、マッシュはその触手をエドガーの胸の突起に伸ばした。
キスに感じたからか、慣れた体は快楽を甘受しやすいようだ。
つんと立ち上がった乳首が固くマッシュの指先を押し返す。
それを摘んで二本の指でこねると、エドガーの腰が跳ねる。
他人の手を介し、行為に慣れた体。
渦巻く嫉妬はマッシュに更なる熱をともした。
蹂躙し続けた唇を解放し、指でこねていた突起をその唇に含み、固くとがった先端をねっとり舐めこする。
「ん……っはっ…ま、待て……っ」
吸い付き吸い上げ、やわく噛み付いて突付くと、面白い程に高い声が上がる。
「んやっ…や……だ、マッ…シュ……」
既に抵抗の影すらも見当たらないエドガーの体は、与えられる快感に陥落しつつあった。
下肢に立ち上がる熱の欲。
先端から雫を滴らせ、浅ましく触手を待っているそれに、マッシュは指を絡ませると、瀬端の雫を救って全体に塗りこめるように上下する。
「ぁ……あぁッ……あ…」
ぐんぐんとかさを増すそれを、今度は口に含み、形をなぞるように舐め上げると、エドガーは嬌声を上げてもだえる。
ついには言葉をなさなくなった声に、マッシュはほくそえむ。
舌を絡ませ砲身をなめこすり、同時に指で裏筋の敏感なところなぞる。
先端を軽く甘噛すれば、ビクビクと痙攣したそこからついに欲望が放たれる。
喉に突きつけられたそれを全て飲み干し、再びキスをしかける。
エドガーは、もう抵抗しなかった。言葉ですら。
だらりと落ちていた腕を挙げ、マッシュの首に回す。
両足は淫らにマッシュの腰を挟み、触れる手を待っている。
兄の媚態に当てられたマッシュは、ごくりと生唾を飲みこむと、焦ったように己の指を口に含んだ。
十分に唾液を絡め、それをエドガーの更に奥に。
片手で腰を支えると、あらわになったその翳りの入り口を、濡れた指で二三度叩く。
「ん……」
ひくりと収縮するそこ。
涙の幕で彩られたエドガーの目が、早く入れて欲しいと告げている。
マッシュは頷くと、その指を戸口に潜らせてた。
「んぁ…あっ……」
きつい。
だが、しっとりと指を締め付けるそれは、思った以上の心地よさをマッシュに与えた。
ここに、己のものが入るのだ。
異物を排除しようと蠢く内部に、指をゆっくりと進める。
ただの指一本だ。
だがそれでも感じるのか、エドガーのそこは何度も収縮を繰り返す。
「マ……ッシュ…さわ…って……」
請われて両足の狭間に手を伸ばした。
後ろで感じているのか、一度放ったエドガーのものは、復活を果たし固く張り詰めていた。
軽い水音を立ててこすり、良いところを過ぎる度に指を締め付ける。
「兄貴……良いか?」
我慢が出来ない。
初めて望むがままに触れた兄の体に、興奮が抑えられなかった。
既にマッシュのものも限界を訴えている。
まだ無理だというのは判っているのに、なのに、もう、耐えられない。
「い……いいっ、からっ……っ」
乱暴に指を引き抜いたそこに、欲望の切っ先を当てる。
質量の違うそれに、エドガーは怯えたようだったが、逃すつもりはなかった。
ぐい、と腰を進め、強張る体を砲身をこすることでなだめる。
「ん……んぅ……」
苦しげなエドガーの声が、残ったマッシュの良心を痛めるが、それも微々たるものだった。
ゆっくりと推し進める欲に、エドガーの肉体の方が慣れてくる。
互いの肌が触れる程の奥への到達。
マッシュのものを、エドガーの肉が包んでいる。その感動。
奥まで入れて留めたそれを、エドガーの方が望んだ。
ひくひくと細かくマッシュを締めると「う、動いて……くれ……」と細い声が望む。
否はない。が、もう少し熱をかんじていたかった。
腰を引く代わりに、更に押し付け、エドガーの顎を掴む。
「兄貴……好きだ……」
ドサクサ紛れに近い告白に、エドガーは深く目を閉じた。
そして……。
「……同意……しても良い……」
控えめな返事。
マッシュは微笑んで、むさぼるようなキスを。
そして、我慢できずに自ら腰を揺らし始めたのに答えるように、大きく腰を引き、再び押し込む。
「ぐ……ぐぅ……」
塞がれた口中から、苦しげな吐息が漏れる。
深く合わさった体。
双子の、血。
己の背にさまようエドガーの温かい手を感じて、マッシュはキスを解くと、エドガーを喜ばせるべく腰を強く掴む。
抽挿のスピードを速めて、良いところを探って。
「ぃやっ……あ、あっ……あ、や…」
亀頭が良いところにあたったか、綺麗に乱れるエドガーを、眩しいようなもので見るように身ながら、マッシュは何度も繰り返す。
「ん……も…もっ……あ、やだ……も、だ…だめっ」
悲鳴に似た声を上げ、エドガーの締め付けがきつくなる。
同時に、吹き上げられた白濁。
マッシュはそれを顔に浴び、己も、エドガーの中に……。
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