over18

S M L XL

誰にもいえない、こんなことは。そう、あなたにも

 言えるわけがない。
 それでなくても負担をかけているのに――。
 体が疼いて眠れないなんて……そんなこと……。

 空のないこの地にも、風だけは吹く。
 どこかで気温差が生まれているのだろうか?
 天候さえもどこかで操られている偽物の世界。
「兄さん……」
 呟きながら、ネロは屋根の上から見える、偽者の空を見つめた。

 メタルの輝きに包まれた部屋の中、ネロは疼きに負けて自慰に没頭していた。
 最近与えられる、新たな肉体を作る為のクスリ――というものを飲みだしてからだ。
 体が熱くて、夜に必ず疼く。
 どこもかしこも性感帯になったように、風が体に触れるだけで、下肢が固く突っ張るのだ。
 以前なら、素直にヴァイスに抱かれに行っただろう。
 このディープグランド内ではモラルの壁が異常に低い。なので男女の差なく、恥ずかしがることもなく抱き合うことが出来た。
 だが……。
 この殺伐とした世界でも、恋愛のようなものが存在する。
 ネロはヴァイスに、甘く切ない気持ちを持ってはいるが、ヴァイスは違う。
 飽くまでネロの足りない要素を補う為だけに、抱かれ癒され、愛されている。
 それはネロの望む気持ちとは異なっていた。
 いっそこの身が女であったなら――思ったことは一度や二度ではない。
 例え、普通一般と呼ばれる幸福がこないのであっても、それでも、どんな形であれ愛される幸福に酔うことが出来ただろう。
 歪な自分の体を、ヴァイスは認めてくれる。
 それを、実験やクスリの為だけだと思っている。
 けれど……。
 違った。
 遠くある日、ネロの体が他のソルジャー達よりも柔いことが判った後、実験の方向性を変えられたときから。
 ずっと――ヴァイスを愛してる。
 心と体全てで……。
 だが、ヴァイスは……。
 なぞるように滑る指に、ネロはそれが自分のものであろうが、淫らに身を捩る。
 とんでもない鋭い刺激に、呼吸が乱れ、ともすればまともに息も出来なくなりそうな快感。
「に……さん……」
 呼ぶのはヴァイスで、他の誰でもありようがない。
 そう――他の誰かに抱かれても、呼んだのはヴァイスだけ。
 自分を包む、馴染みのありすぎる闇の中、ネロは下肢だけを露にして、ベッドの上で大きく開く。
 左手で砲身を、右手でその奥――秘所に伸ばし、滑って鈍く光を放つそれを、肉の圧迫の強い中へ。
 滑り込ませた指を、淫らに締め付けて、それでも更に奥を目指す。
 ――足りない。届かない。
 絶望的に思った時だった。
「ネロ?」
 闇の中に声が――待ちわびて……しかし会いたくない姿が。
「ネロ……」
 驚いた声が、視線が、ネロの全身を撫で回す。
 存在一つだけで、ここまでネロに絶頂感を促す人間は他にいない。
 いや、人間ではないのかもしれないが……。
「こ……ないで……」
 一度火の灯った体は、頂上を見なければ止まれない。
 ネロは激しく中をかき混ぜ、砲身を擦った。
「お前……」
「あ……ああぁ……」
 自身が自身に与える感覚に、思考が淀み始める。
 愛する人の前で、自らを慰める絶望感と高揚感が、ネロを一気に頂上へ押しやった。
「あ、あっ」
 余裕のない声が上がり、びくびくと全身が痙攣する。
「待て!」
 しかし、絶頂を迎える寸前に止められた。
「に……さん?」
「一人でイク気なのか?」
 苦笑を浮かべたヴァイスは、下肢をくつろげる。
「兄さん?」
 動きを止めたネロの、秘所に納まっている手を抜き、砲身を握る手も離させる。
 両手を一纏めにネロの頭上に縫いとめたヴァイスは、開いた片手で起用にネロの腰を支えて、浅い角度で突き上げた。
「はっ、あぁっ!」
 衝撃がネロを貫く。
 奥まで一気に進めて。
「一人でするな。俺がいるだろう?」
 諭すように言うヴァイスに、首を振る。
「だ、駄目……」
「何が?」
「だって……に、さんはっ……」
 言葉の継ぎ目に、ヴァイスは腰を緩く動かす。
 最初は宥めるように、次第に激しく。
「あっ……あぁっ……に、にいさっ……」
 面白いくらいに乱れるネロを、熱の篭った目で見つめて。
「愛してる……ネロ……」
 体にしみこませるように、告げる。
「やっ……や…だ…………」
 たった一つの言葉を、口にする度に、ネロは強くヴァイスを締め上げた。
 鋭く抉るような突き上げに、それに馴染んだ体は従順に男を喜ばせようと答える。
「愛してる……ネロ……」
 ネロは激しく首を振りながら、言葉を否定するが、体は喜んでいた。
 言葉に、温もりに、声に、存在に――。
 立ち上がったネロの砲身が、先端から切ない涙をこぼし、それが自らの体を濡らすのに、ネロはそれすらを快感に変え。
「一緒にいこう……」
 呼吸を乱しながらも、媚態を見て微笑むヴァイスは言いながら、突き上げるスピードを上げた。



「何故俺を避けた?」
 ぐったりとベッドに沈み込んだネロに、ヴァイスは問いかける。
 弟――と思ったことは一度もなかったが、この弟は、ともすれば直ぐに自分の気持ちを疑って殻に閉じこもりたがる。
 様子がおかしいと思い、避けられていることも感じていたから、暫く考える時間を与えていれば、勝手に自分を慰めている。
「兄さんには……種を残す役目が……」
 ディープグランドでは優秀種であるヴァイスの、その種を残そうという研究者が出てきた。
 そういう話を、ネロは一度や二度ではなく聞いたことがある。
 逆に、ネロの持つ優秀とは良い難いが――特殊な種も残そうという話が上がった。
 だが、ネロは男としては――役立たずだったのだ。
 女性は抱けない。
 種を残す為に、交接を望まれたネロは、それでも出来なく――。
「兄さんはもしかしたら、優秀種として外に出る機会があるかもしれない、その時僕は……」
「その時お前は?」
「……忘れられてしまうかもしれない……そう思ったら……」
 はぁ、とヴァイスは溜め息を吐く。
「どうして忘れられると思う?」
「だってそれは……」
 こういうところが、ヴァイスは判らない。
 何度「好きだ」と囁こうが「愛している」と言おうが、ネロは絶対にその言葉を信用しようとしない。
「一人で外には出ない。出る時はお前も一緒だ。それに……もしも離れることがあったとしても、絶対に忘れない……」
 むき出しの肌を撫でながら、ヴァイスは言う。
 ディープグランドに突っ込まれてから、愛だ恋だの感情とは疎遠になった。そのヴァイスが、ネロにだけは心が反応する。
 その事実を、まるで理解しようとしないのはどういうことだろうか?
 ヴァイスはネロを見つめ、その体に教え込むようにのしかかる。
「ならば、理解するまで教えようか」
「え?」
「その体に……」
 既に男以外には反応しなくなってしまった体――それでも、ヴァイスにだけ淫らに乱れる体。
「に……さ…ん…………」
 反論はキスに封じ込められる。
 直ぐに甘い吐息を上げ始めたネロを笑って、慣れた体を攻略し始める。
 それでも、恐らくネロは納得しないのだろう。
 そう思うと、いっそ自分と一緒に呼吸を止めてしまおうか。
 そう思うネロだった。
 勿論、ネロ本人のはこんなことは言えないけれど……。

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