over18

S M L XL

惹かれて行く

 苦しい毎日の中で、思うのが兄のことだけなんて、おかしいかもしれないと思う。
 だけど、惹かれていく気持だけはどうしても消せなくて……。
 ネロは震える体を支えて、じっと蹲るだけ。



「待て」
 実験室を出る間際に声をかけられた。
 逃げようとすれば、肩を押さえつけられ、腕の中に閉じ込められる。
「離して……兄さん……」
 抗う声は小さく擦れて、どうしようもない気の細さだけが前面に出てしまう。
「今日は逃してやらない。そう心が広いわけではないからな」
 断言する兄の言葉に、やはり体が震える。
 己の浅ましさに笑い出しそうになって、ネロは慌てて口を押さえた。
「最近俺を避けているのか?」
「そんなことは……」
「なら何故、俺の呼び出しに答えない?」
 じっと目を見つめられて、慌てて視線をそらす。
「ほら、そうやって直ぐに俺の視線から逃れようとする」
「そんなことはないよ兄さん。ただ……」
「ただ……なんだ?」
「……」
 言えるわけがな。
 新たに始まった実験の所為で己の汚さがむき出しにされ、浅ましくも卑しい自分の欲望に気付いたなどとは。
「はっきり言ってみろ」
 逞しい腕が狭まり、より体の密着度が高くなる。
 ドキドキと鳴り始めたネロの鼓動が、皮膚越しにヴァイスに伝わってしまいそうで、焦って腕の中から逃れようとするのに、力強い腕はネロを抱いて離さない。
 そんな時だった。
「ネロ?」
 穏やかな声がかかり、兄弟二人して振り返る。
「ああ、ごめん。邪魔だったかな?」
 ディープグランドで唯一の良心と呼ばれる博士の声だった。
「いいえ……何か?」
 さすがに博士の前で抱き合っているわけにもいかず、ヴァイスは仕方なく拘束を解く。
 ネロはその腕から逃れ、博士の下に歩みようると、差し出されたクスリ瓶を受け取った。
「今日の分だよ。食後に一粒。ちゃんと飲んで」
「はい……」
「それから、今日はヴァイスについててもらうと良いよ。ちょっと強めだから……」
 博士は仕方なさそうに笑うと、手を振って離れていった。
「そのクスリは?」
 追求は来ると思っていたが、あまりにも早すぎる。
 誤魔化す為の言葉も持たず、ネロはクスリ瓶を隠す。
「それが新しい実験の副産物か?」
「兄さん。これは……」
 上層――ミッドガルの表層で密売されている、ドラッグだ。
 所謂意識が飛ぶというもので、常用すれば精神の均衡を失いかねない程のものだ。
 元はネロの精液から抽出されたもので、その抽出液を薄めて飲む。
 実験の副産物。
 確かにそうだ。
 これは、初めてネロがヴァイス以外の男に抱かれた時、その精液を飲み込んだ男がトリップした原因を探った際に見つかったものなのだ。
 その抽出液原液を再び体に取り込むことで、ネロはより強い幻覚効果を持つ精液を作り出すことが出来る。
 はじめに作られた抽出液は二倍に薄めて。
 次は三倍。
 現在では十倍に薄めて最初の抽出液と同じ効果が得られる。
「そのクスリはなんだ?」
 肝心なところで必ず黙り込んでしまうネロに、ヴァイスは焦れる。
 以前はこんなことはなかった。
 弟は素直でヴァイスの言うことに逆らったことはなかった。なのに最近ででは、抱こうとすれば拒まれ、呼び出しには無視され、呼びかければ逃げようとする。
「なんでもないよ、兄さん。大丈夫だから……」
「だが、博士は今夜一緒にいろと言ったな?」
「大丈夫だから、兄さん、今日は一人でも大丈夫……」
 頑なに拒まれてるような気がしてならない。
「お前がどう思っても、俺は今夜、お前の部屋に泊まる」
 ヴァイスは言い切り、ネロの腕を掴み、ネロの私室へと向かった。



 自由の殆ど保障されていないディープグランドの中でも、戦闘訓練と食事だけは自由に認められていた。
 その食事は、各部屋で自動で作成される。
 勿論、素材を取り寄せて自分で自由に作っても構わない。
 ヴァイスは時々ネロの為に手料理を作ってやっていたが、最近ではそれも歓迎されない。
「一体どうしたんだ?」
 部屋に戻っても、ヴァイスとは一言も口をきこうとはしないネロに、いい加減切れそうになる。
「俺が何かしたか?」
「違うよ……そうじゃなくて……」
「なら……」
「もうそろそろクスリを飲む時間だから、出て行ってくれないかな?」
 言われて、愕然とした。
「……俺を厭うか?」
「そうじゃない、兄さん」
「ならなんだ!」
 元々穏やかな性格をしているわけじゃない。
 ヴァイスは切れた。
 クスリの瓶を掴むと、中身を取り出してネロに迫る。
「このクスリはなんだ? 飲むとどんな効果が現れる!!」
「それは……」
 ネロは必死に首を振る。
 飲めば効果は判ってる。それを、ヴァイスには見せたくない。
「兄さん、お願いだから」
 必死に言い募っても、ヴァイスはきっと引かない。
 判っていても、見られたくはなかった。
「お願いだから、兄さん」
 必死にクスリを取り替えそうとしたネロの手を、ヴァイスは逆に掴む。
 力任せに引っ張って、壁に押し付けた体を、ヴァイスは全身を使って押さえつけた。
「兄さん!」
 叫んだところをクスリを放り込まれる。
「!?」
 飲み込むまいと吐き出そうとするのを、唇を塞がれる。
 兄の口にだけは入れてはならない、と、そんな気持があだになった。
 飲み込んだクスリが、溶けていくのが判る。
 全身に染み渡っていく効果。
 そして――。
 ガクリ、とネロの膝が崩れた。
「ネロ?」
 不思議そうに声を上げるヴァイスの腕の中で、体が熱くなる。
 体温は驚く程のスピードで上昇し、鼓動も早くなる。
 咄嗟に縋りついたヴァイスの胸に顔を埋め、荒い呼吸を始めた時には、ヴァイスは気付いていた。
「このクスリは……」
 ネロにとっては幻覚効果などはない。元々自分の体液なのであるから。
 ただ、興奮状態に放出された精液から作られているもので、それは、ネロにとっては興奮剤となるのだ。
「……っつ……」
 ガクガク震える体に、口から零れる吐息。
「帰って……に……さん…………」
 それでもネロは、拒んでヴァイスを出て行かせようとする。
「出来るわけがないだろう?」
 ヴァイスは首を振り、ネロを抱き上げた。
「どうして俺に縋らない? こんな状態で一人で耐えるのか?」
「だい……じょうぶ…………だから……あぁっ!」
 一際高い声を上げ、ネロはぶるりと震える。
「なんだって?」
 ヴァイスはネロをベッドに下ろし、下肢を露にする。
 べっどりと濡れた股間。
 何もしていないのに、ネロはいったのだ。
「……ネロ……お前…………」
 外気に晒されたネロのものは、再び勢いを増す。
 高ぶる体は妖しく蠢き、ついには陥落した。
「に……さん…………きて……」
 誘うように手を伸ばし、その手に引き寄せられるように体を重ねる。
 灼熱を含んだように高い体温のネロが、もどかしげにヴァイスの下肢をあらわそうとするが、震える手では無理だった。
「一つに……なりたい……に、さん……」
 切なく囁かれたら、抵抗することなどヴァイスには不可能だった。
 妖艶な娼婦にも似たネロは、誰よりもヴァイスの欲望をかきたてる存在。
 そしてヴァイスは、暫く味わえなかったネロの体に飢えていた。
 荒々しく下だけ脱ぎ捨てると、ネロの両足を抱える。
 膝を折り、胸につく程に折りまげると、眼前に現にされた後門に舌を這わせ、濡れたところを差し込んだ。
 既に使い込まれ柔らかい感触でヴァイスの舌を飲み込んでいくそこは、ひくひくと収縮を繰り返し、ネロの言葉どおり一つになりたいと誘う。
「に、さん…………ぁあ、あっ……あぁっ」
 せわしないネロの呼吸を聞き取り、2度目の絶頂を見届ける。
 弛緩する間もなく三度目の高ぶりに晒されたネロに、ヴァイスはその姿に酷く興奮しながら、後門に欲望を差し込んだ。
 動く必要などなかった。
 ネロは男を喜ばせる術を知っている。
 強く収縮を繰り返す中は、熱くヴァイスを愛撫する。
「ぁ……ぁあ……に、さん…………」
 拒まれていたのが嘘のように、ヴァイスを食んで離さない。
 ヴァイスは暫くネロの奉仕を楽しんだ後、激しく腰を降り始めた。



 精根尽き果てた状態でベッドに突っ伏し、どれくらいが経ったのだろう?
 ヴァイスは薄暗がりでネロの寝顔を見下ろした。
 目を覚ます様子はない。
 余程疲れているのだろう。
「当然だな。いきっぱなしだったからな」
 そう、いきっぱなし。
 ヴァイスもあれから、ネロの中に数度放っていた。
 抜こうにも抜けず、抜かずに何度いっただろう。
 数えるのも馬鹿ばかしい。
 ただ、最中にネロが呟いた言葉だけが印象的で。そして、酷く嬉しかった。
 ネロは、喘ぎ混じりにずっと――ヴァイスと一つになりたいと言い続けていた。
 肉体同士の擬似的な繋がりではなく、心も体も存在も、一つのものになりたいと懇願し、泣いた。
 叶えてやりたかった。
 だが、それを叶えるということは、ヴァイスがネロを失うということでもある。
 死にも等しい実験体にされて、そこから逃してやりたいのは山々だったが、しかし、ヴァイスはネロという存在を失いたくはなかった。
 どんな形でも側にいて、愛されて欲しいと願う。
 常識すら希薄なこの狭く暗い世界で、ネロだけがヴァイスの真実。
「すまないな、ネロ……」
 ヴァイスは言い、ネロの体を抱いて目を閉じる。
 クスリの件に関しては、もう誰にも止めれない。
 だから、クスリの熱に負けそうになる時は常に側にいようと決めて――。

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