時々、遠い日々のことを思い出す。
そう、遠い日々。
まだ、ソルジャーという存在になる以前。
遠い、遠い記憶。
「兄さん?」
黙りこんだヴァイスを不審に思ってか、ネロが声を上げる。
疲れたようにヴァイスの膝を枕にして――眠っていたとばかり思っていたのだが。
「目が覚めたのか?」
「寝てないよ。目を閉じていただけで……」
「眠れば良いのにな」
「眠れないから」
強化措置を受けた体は、どんな疲労にも耐えられるようになっている。
一体どんな目的があって実験が続くのかは判らない。
一部研究者の間では、上層で既に出来あがったソルジャー。それ以上の戦士を作ること――とあるが、実際にプレジデント神羅の狙いは、強化された肉体のその向こうにある、不老不死が目的なのでは、と思われる節がある。
永遠に生きられる命に何のありがたみがあるものか。
しかもそれは、死より苦痛を伴う実験という犠牲の上に成り立っているのだ。
「兄さん……何を考えてるんですか?」
「さぁな」
「難しい顔をして、眉間に皺が寄ってますよ」
クスクスと笑いながら、ネロが手を伸ばし、ヴァイスの眉間を揉む。
「考え過ぎても良いことはない。どうせ俺達の毎日は、どんなに願おうとも変わらない」
ヴァイスは呟いて、ネロを見下ろした。
「良い格好だな」
「普通ですよ」
「知ってるか?」
「なにをですか?」
「見上げる行為は、誘いと同じだ」
「え?」
ヴァイスは言葉を飲みこむようにネロに口付け、言葉を半ばで止められたネロはヴァイスのキスに答える。
長い口付け。
「兄弟で禁忌だな」
笑うヴァイスに、ネロは頷く。
「でも、僕達の存在自体が禁忌ですからね」
「そうだな」
ヴァイスはもう一度ネロの唇を塞ぐ。
「空が、見たいな」
「そうですね」
「青空の下で、何時か、お前を抱きたいな」
臆面なく告げるヴァイスに、ネロは苦笑しながら。
「空の下に出れた折には、何時でもお相手しますよ」
そう、答えた。