over18

S M L XL

まどろみ

「おい、大丈夫か?」
 自宅ベッドの上、完全に撃沈しているらしいスコールを気遣い、ゼルが声をかける。
 気だるげに顔を上げたスコールは、薄い涙の膜に覆われた瞳を瞬きで隠すと、頷いた。
「大丈夫だ……」
 とても大丈夫そうには見えない。
「悪かった……まさか、初めてとは思わなかったし」
「俺が?」
「いや……噂がな……」
「噂?」
 スコールは身を起こして首を捻る。
 酷く腰が痛むらしい、唸るような声が吐息に混じっている。
「噂って、どんな?」
「気になるのか?」
「自分に関してなら……」
「そっか。そりゃ、そうだよなぁ……」
 ゼルは悩みに悩んだ後、ガーデンの一部で有名だった噂を話し始める。
「この噂が広がったのはさ、結局、お前にある程度人気があるからだと思うぜ?」
「良いから。その内容が聞きたい」
「うーん……」
 実際のところを言えば、個人的なところを直撃した、あまり性質の良くない類の噂なので、話したくはない。それが特に、スコールを中傷する類の噂なので余計に。
 以前、まだスコールのことを良く知らない内ならば、どんな噂をしようが平気だった。だが今は……。
 無愛想で無口だが、笑うと可愛いし、元々綺麗だし。
 冷たいと思われがちな態度が、実はその先の別れが辛いから、と想像がついた時には、もう圧倒的な好意が押し寄せて、放っておけなくなった。
 好意=好き。大好き。
 気持が高じて、好きだと告げて、やっと体まで貰った。
 今は、だから、噂なんて、自分の口からでも言いたくないし、誰にも言ってほしくない。
「サイファーとスコールは出来ている」
「はぁ?」
「って噂があったんだ。前」
「……どうしてそうなるんだ……」
 スコールは頭を抱えてしまう。
 それはそうだろう。
 嫌いまではいかなくても、年中因縁をつけられていた相手と、どうやって出来るというのだ、というのがスコールの心境。
 手に取るように判って、ゼルは安心する。
 ここで、実は……などと言われた日には、枕を濡らして眠れなくなりそうだ。
「ただの噂だ、噂」
「……火のないところに煙はたたないと普通は言うが……随分と勝手な噂だな」
「まぁ……そうだなぁ。でもだから、噂だぜ」
 スコールは溜め息を吐くと、再びベッドに突っ伏した。
「おい、大丈夫か?」
「何度も聞かないでくれ。大丈夫だ……」
 白い肢体を晒して横になるスコールは、正直言って、心臓に悪い。
 普段取り澄ました顔が、している最中にはどうなるか、とくと見せてもらった後で、しかもまだ体にはその余韻が残っている。
 着衣のままだと随分と筋肉質に見えていたのだが、こうしてみると随分と細い体をしていると思う。特に腰から足にかけての細さは、まさかその仕事が傭兵だなんて思えないくらいだ。
 ベッドに沈み込んで目を閉じるスコールの、肩から腰にかけて手を滑らせてみる。
 見た目通りにすべらかな肌をしている。世の女性達からすると、羨望の的だろう。
「な。何か体の手入れとかしてるのか?」
 思わず尋ねると、スコールは薄目を開けて「何の為に?」と答えた。
 確かにそうだ。
 男は女性と違い、容姿を重要視しないから、顔や体の手入れには手間をかけない――というか、全くしない。
 それでこの肌だとするなら、ちょっと凶器かもしれない、とゼルは思う。
 驚く程に整った顔に、多少細すぎるきらいはあるが、ラインの綺麗な体。
 傭兵というよりは、モデルとでも言った方が余程しっくりくるような容姿。
「そういえば……ラグナも結構良い男だったよな」
 ゼルは呟く。
 あのラグナが、スコールの本当の父親だと知った時、他の皆は驚いたが、ゼルは思わず納得してしまった。
 親子なのに似ているところは殆どない。なのに、何時の間にか人の上に立たされてしまうところや、嫌だと言っている割にはついつい面倒を抱え込む面倒見の良いところが、驚く程に良く似ている。
 ついでに、容姿の良さ。
 おしむらくは、性格の柔軟さ。もうちょっとラグナに似れば良かったのに――とは思う。
 スコール本人はあまりラグナに関わりたくないようだ。ラグナの方も、ずっと放っておいた負い目なのかどうか、あまりスコールに関わってこようとしない。
 親子なのに互いに背を背け合うなんて、ナンセンスだとは思うが、本人達の問題なので放っておくことにしたのだったか。
 けれど……。
「やっぱり挨拶の一つもしておいた方が良いよな」
 呟いたゼルに、スコールは目を開ける。
「誰に?」
「いや……ラグナに?」
「何故?」
「ほら、良くあるだろ? 世間で言う、『娘さんをお嫁に下さい』っての?」
 心底真面目に言ったつもりだったのだが、スコールには受けが良くなかったようだ。
 不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ゼルをベッドから突き飛ばした。
「おい!」
 不意打ちだったので、受身を取るのが遅れた為、ゼルは思い切り箪笥に頭をぶつける。
 痛みに怒りが湧き起こり、怒鳴ったゼルだったが、ベッドの中にごそごそともぐりながらスコールが答えるのを聞いて、青くなる。
「奴に言ったら、もう終わり……」
「え?」
「長く放置していたくせに、あいつ……最近、父親面をするようになったんだ……。言えば、絶対に別れさせられる……」
 布団の中からのくぐもった声。
「別れさせられるって……まさか……」
「今でも、エスタに来いって煩い」
「でもお前……SeeDの統括だろ? 無理なんじゃ……」
「何かあったら、大統領権限使って呼び寄せるって言ってる。それでも挨拶に行くのか?」
「それは……」
 別れさせられるなんて、冗談じゃない。関係は始まったばかりなのだ。
 ただでさえ、長い魔女との戦いで、恋人っぽいことをまだ何もしてないのに……。
 いや、セックスはしたか……。
 でも1度だ。
「そんなのは御免だ!」
 ゼルはベッドに飛び乗ると、布団で丸まったスコールを抱きしめる。
「もう1度させてくれ!」
 言うが早いか、布団をまくり上げて両足を抱えた。
「ゼルっ!?」
 驚いて飛び起きようとするスコールをベッドに押し付けて、反論を受ける前に唇を重ねる。
 深く貪ると、抵抗が弱まり――やがてはゼルの舌技に答えるようになった。
 キスだけで高ぶってくる体。
 半ば立ち上がった己のもので、スコールの後ろの門を擦りながら、互いの口中の味に夢中になる。
「ん……んぅ………」
 荒く乱れる呼吸に、苦しくなって、スコールがゼルの肩を叩く。
 もうキスは良いから……。
 言いそうなことが判って、微笑しながらゼルは唇を離し、淡く朱に染まったスコールの肌を眺めた。
 本当に見事な体だ。
 触れれば手に吸い付くようで、それでいて弾力がある。
 女性のように柔らかく不思議な感動はくれないが、それでも、十分に欲望を募らせる魅力がある。
「初めてなんて、思えない……」
 これまで、こんなお宝が側にあって、それを意識もしていなかったなんて嘘のようだ。
 ゆっくりと顔を落とし、胸の突起に舌を絡めると、時々歯で刺激を与えて吸い上げる。
 細い腰が跳ね、欲望の証がゼルの腹を叩くのに、まだ足りないとその高ぶりに手を添えて軽く扱き上げると、堪え切れなかったのだろう細い声が空間に響いた。
「ぁ……ぁあっ……」
 1度漏れてしまえば声は抑えれない。
 淫らに鳴くスコールを視線の端で捕え、己の欲望をも高めながら、ゼルは先程からずっと入り口をなぞるだけだった己のものを、門にひっかけた。
 まだ余韻の残る体だ。中に放ったものが潤滑剤代わりとなり、進入は容易かった。
 それでも、違和感を拭いきれないのか、スコールは体を固くして、最後まで進入するのを待った。
 互いの肌が触れ合うまで深く繋がって、互いに息を吐く。
 行動一つ取るのに緊張のしっぱなしだったスコールは、緊張の糸が張り詰めすぎて切れてしまったのか、ゼルの顔を見ると泣き出した。
 先程も、肉欲の高ぶりに比例する感情の高ぶりで泣かせはしたが、それは生理的な意味合いが大きく、今のように手放しな涙をこぼしはしなかった。
 乱暴にして、女の子を泣かせてしまったようなバツの悪さ。
「わ、悪い! 痛かったか?」
 痛くないわけがない。普通、こんなところにこんなものを入れはしない。
 生理的に無理な状態は、どこかに弊害を及ぼす。それが、痛みや傷になる。
 だが、スコールは首を振った。
「大丈夫だ……」
 掠れた声は、とても大丈夫には聞こえない。
 だが、今更止めるのには、互いの体は高ぶりすぎていた。
 鎮めるのには、フィニッシュを迎えるしかないのだ。
「ゆっくりやるから、痛かったら言ってくれ」
 切羽詰った声でゼルは言うと、スコールが返事をするのも待たず、腰を揺らし始める。
 はじめはゆっくりと、内を揺らすように円を描きながら。
 涙がとめどなく流れる最中、しゃくりあげながら喘ぐスコールは、呼吸困難になりかかっていた。
「く……くるし……」
 金魚のようにパクパクと酸素を求め、しかしゼルは止まれない。
 緩い動きが、欲求に導かれるように早くなり、メチャクチャに攻め立てる。
 激しい熱に攫われるように眩暈を起こしたスコールは、縋るようにゼルの首に腕を絡ませ、全身を硬直させた。
 同時に、ゼルも――。



「わ、悪かった!」
 ベッド下。ついには起き上がれなくなってしまったスコールに見えるように、深くふかーく土下座して、ゼルは頭を床にこすり付けていた。
「本当に本当に、悪かった!」
 無意識の波間を漂っているようなスコールは、半目を開けてゼルを見ている。
 だが、反応がない。
 大丈夫か? と伸び上がって顔を覗きこむと、不意に微笑みが、その美貌に浮かぶ。
「う……」
 思わず唸ったゼルは、容赦なしの節操なし下半身を隠すように抱え込み。
 その後、一言もなく眠りこんでしまうスコールを見ているしかなかった。

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