「ズバリ聞きたいんだけど……大佐のストライクゾーンって何歳くらいから?」
唐突に司令部に訪れたエドワードは、唐突にそんなことを聞いてきた。
ロイは不思議そうに首を捻りつつも、素直に自分の好みとする女性の年齢制限を頭に描き――。
「そうだね……やはり最低でも16歳以上だろうね」
と答えてみる。
と――エドワードはにやりと笑って。
「なら、俺、ちゃんと入ってるな」
呟いた。
「君ね。確かに16歳以上だろうが、私は男はね」
「言うと思ったよ。でもね、俺、女!」
「……………………は?」
「だぁかぁらぁ! 正真正名の女!」
エドワードは言うなり黒い上着の前を開き、アンダーウェアを引き上げた。
ぺろり、ともぽろり、とも言える擬音が似合いそうな様子で出てきたのは、多少成長不良とも言えるだろう、胸。別名、乳ともおっぱいとも言われるそれである。
ロイはまさに突然の衝撃に驚き――同時に目の前の子供が酷く哀れに思えた。
「まぁ、ちっちゃい胸だこと……」
言いながら、つん、とその小さい胸の天辺。まぁ、何度もくどいが、いわゆる乳首を指の先で突ついた。
「きゃん!」
可愛いのか奇怪なのか微妙な声を上げて、エドワードがビクリと身を竦ませる。
「いきなり、何するんだよ!」
「いや、あまりに小さいものだから……」
「小さいって言うな!」
ぼかん。
乙女の純情を踏みにじられたエドワードは、涙目でロイの横っ面を殴る。当然、右手。
容赦なしのそれに、ロイは頭を抱え涙目でエドワードを睨み上げる――と。
そこには何故か、とても可愛い女の子が鎮座していた。
なんとまぁ……目から鱗というのは、このことではないだろうか?
先程までは男だと思いこんでいた少年が、実は少女であった。そしてそれを自覚した途端に――……?
「鋼の……」
ロイはいまだに胸むき出しのエドワードの肩に手を置くと、真剣そのものの声を上げる。
状況が状況なら、女の腰を砕いて「頂きます」出来そうな、そんな声だ。
エドワードは真っ赤になってロイを見上げ――。
「合格!」
何がどうしてそんな答えになるのか判らないが、ロイは言って、エドワードの体をきゅ、と抱きしめた。
微妙に軍服の固いところでエドワードの乳首を刺激するのは忘れない辺り――ちょっと変態気味である。
「んっ……嬉しい……」
微妙に胸の辺りからじわじわ広がる快感に揺られながら、エドワードは正直に現在の心境を答える。
互いに告白したわけでもないのに、二人は既に一足飛びに臨戦態勢だった。
「鋼の……隣の仮眠室でどうかね?」
甘い吐息に掠れを滲ませ言うロイに、エドワードは小さく頷く。
既に熱を放っている体は陥落間近。
まさに据え膳「頂きます」状態であった。
三ヶ月後。
ロイ=マスタングは、悩んでいた。
「寂しい……」
のである。下半身が。
これまでは、適当な女性と適当なお付き合いの中、上手い具合に発散出来た欲求と寂しさだったのだが、エドワードを食ったその日から、ロイは悪食になった。
綺麗なお姉さんであろうが、ナイスバディなお姉さんであろうが、その全裸を見たとしても、美味しそうに見えないのだ。反応すらしやがらない。
「何故だ!?」
一時は悩んだ、苦悩した。絶望までした。不能も疑った。
だが、役に立たない能は、無能だけで十分だった。不能なんて、そんな、恐ろしい。
理由は簡単だった。エドワードにしか反応しなくなっていたのである。
初めて頂いたエドワードの体は、非常に美味であった。
これまでいたしていたあれこれが、酷く空しく思える程に美味しいものであったのだ。
味をしめてしまった。
しかしながら、エドワードは毎日頂ける状況にはない。何しろ旅をなさっているからだ。
電話をかけて、帰ってきてくれるように訴えようとしても、どこにいるのか判らない。ロイの情報収集能力をもってしても判らない。
結果、頂けないのである。
「うぉぉぉ!」
ついには叫んでしまい、隣室に控えていたホークアイに「とうとう……」と言われる始末である。実際半ば以上イっちゃっている状態なので、否定は出来ない言葉であったが……。
雄たけびは数日続き、その雄たけびについに怒り心頭に発したホークアイが銃を構えた時であった。
「よーっす」
元気そのものの声を上げて、待ち人がいらっしゃった。
いや、待ち料理。
「鋼の!」
ロイは脱兎に近しき勢いで飛びつくと「食わせてくれ」と一言。
唖然とする部下一同の前。エドワードといえば「うん」と一言。
二人はそのままロイの執務室――その向こうの仮眠室に消え。
一体何事か? と思った部下達が執務室に入ると、仮眠室の方からなにやら怪しげな音が。 やがてその音は声に変わり――。
悩ましげな声と息遣いの応酬に、部下一同は耳を押さえて早々に執務室を退出したのであった。
「そっか、女だったんだなぁ……」
一戦終わって執務室を出ていたエドワードは、非常に……まぁ、なんと言うか……。直視の難しい状態であった。
情交の跡が残る肌。情欲の名残著しい涙に潤んだ瞳。何時も横柄かつ尊大な態度はナリを顰め、どことなくだるそうな様子と時折吐かれる溜息は、妖しい色を孕んでいる。
「うん。そうだよ。で、大佐のストライクゾーンに入ってたから」
「恋人になった……か」
悔しげに呟くハボックは、実は男であってもエドワードを狙う、恋する男だった。
そしてその隣に座るブレダは、恋こそしていなかったが、エドワードの持つ容姿に目を見張り鑑賞物として楽しんでいる男だった。
ファルマンは恋人が出来たばかりで春まっさかりであったし、フュリーもどちらかといえば、彼女よりも日常の相棒=ペットが欲しい状態であったので、さしたるダメージは受けていなかったが……。
しかしながら、エドワードはその呟きを否定した。
「俺、別に大佐の彼女じゃないよ?」
「は? でもだって……」
「だって、好きとか嫌いとか、そういうのなかったし。ただ、してるだけ?」
エドワードにしたら、食われてるだけ。ロイにしたら、食ってるだけ。
「それって、せ、せ、せ……」
意外なところで純情なハボックはどもり、その他部下一同も似たりよったり。
「別に愛や恋の感情なくても、出来ることでしょ、こういうことは。そうだね、セックスフレンド?」
いやに冷めた十六歳である。
「なら、大佐と恋人になりたいとか、思ってないのか?」
無駄な抵抗とは知りながら、ラストチャンスとばかりに尋ねたハボックに、エドワードはこっくりと頷いた。
「だってあいつ、浮気するだろ? 恋人だったら、すっごくショックじゃん」
「どういう十六歳じゃー!」
部下一同は叫び、それまで黙って会話を聞いていたホークアイは、銃の安全装置をはずした。
頭すれすれに弾丸を浴びたロイは、後にエドワードを呼び出してこう告げた。
「私は君を、愛しているよ」
「へぇ。でも俺、大佐とだけは恋人関係にはなりたくない。いいじゃん、セフレで」
これにより、誰よりもショックを受けたのは、ロイなのであった。
フォロー
その後三ヶ月間。ロイはアルフォンスを猫と本で懐柔して、姉弟二人を己の傍に置き続けた。
生活費が十倍に跳ね上がろうが、月給の殆どがエドワードとアルフォンスの書籍代+猫の世話代に消えようが、そんなこと、どうでも良かった。
ロイはその三ヶ月間をかけて、エドワードを口説き続けた。
そして、三ヶ月目にしてやっと……。
もう数えるのも空しい程告げた「結婚を前提に付き合って欲しい」のロイの言葉に、非常に不本意そうに、更に渋々というのがありありの状態で、エドワードは頷いたのだった。
が……。
ロイの傍を離れたエドワード。
「全く、鬱陶しいよな、大佐って……」
呆れたように一言。
散々人の金で生活し、人の金で本を漁り捲くったという事実は、エドワードの中ではなかったことにされているらしい。
「姉さんって……」
「ん?」
「素直じゃないよね」
「はい?」
首を捻ったエドワードのその首には、ロイからプレゼントされたペンダントが、鈍い光を放っているのだった。