良く、夢の中で夢と自覚する夢があるが……。
とエドワードは思った。
これも、確かに夢なのだろう。きっと。いや、絶対。
でないと、こんな風になってる状況が理解出来ない。
こんな……こんな…………。
「も……だめ……」
甘えるように言って、エドワードはロイの肩にかじりつく。
何度も行き来する男の熱が、内側をこれでもか、という程にかき混ぜて、なんだか下半身が自分のものでない程にだるく、また熱かった。
「だが、君は感じてる……」
耳に注ぎ込まれる声が、エドワードを更に惑わせ、甘い快感の中に突き落とす。
まるで天使の居る地獄だ。
支配されてるのは、下半身だけではない。あるかないかで自分ですら意識していなかった胸も、ロイの手の中で形を変え、そこからもじわじわとにじみ出るような快感が押し寄せている。
「あ、あ……ほ、とに……も…………」
息も絶え絶えになりながらエドワードは訴え、しかし聞き入れては貰えずに、頭上から笑う吐息を聞いた。
止めてくれる気は到底ないらしく、内の熱は更に熱量と圧迫感を増して、エドワードを狂わせるのだ。
「だ……め、や……」
「もう少し……もう少しだけ狂ってごらん、鋼の……」
「や……だ、やっ……」
何時の間に解けたのか、髪が肩や背中を叩くのもエドワードの感覚に訴えかけ、もう限界すれすれの正気の中で、エドワードはやっぱり考えた。
――これは、夢だ……。
だって、でないと、こんなこと……。
小さな体を象徴されるかのようにロイに軽々と抱き上げられ、挿入の角度が変わる。
ズドン、と心理的にそんな音が聞こえてくるかのような衝撃に、エドワードは「あっ」と声を上げロイの首に縋りついた。
ぐ、ぐ、といわゆるイイところを散々嬲られ、ついに正気の端っこを放り出したエドワードは、あられもない声を上げてロイをぐいぐいと締め付ける。
互いの吐息が、これでもか、という程に荒くなり、ロイもエドワードを労わる最後の正気を手放した瞬間。
ずずず、と深く深く押し込まれたそれから、熱が放たれた。
まさに叩きつけられるという表現が正しいかのような熱の奔流に、エドワードは身を強張らせ、自らも絶頂感の中で硬直した。
「ふはははははは……」
計らずも……絶頂を感じた瞬間に目覚めたエドワード。
やっぱり夢だった……と思いながら、濡れている下半身に気付き、赤面する。
そっと手を伸ばして触れてみると、もうそれは見事な程に濡れていて。まるで本当にロイの熱を中で受け入れたかのような――そんな……。
でも、有り得ない。
頬を染めたまま、エドワード。
「俺、もしかして、欲求不満なのかな?」
と小首を傾げた。
こちらはロイ。
バクバクと早い心臓の鼓動を感じながら、飛び込んだ自宅のドアに寄りかかる。
「やばい……」
本当にやばい。
相手は一回り以上も下の、男か女かも判らないような少女なのだ。
それはもう、見事な程に酒は入っていた。確かに入っていた。
だからといって、直情的にやってしまった事へのいい訳にはなるまい。
まさか……手を出してしまうなんて……。
かねてから可愛いと思っていた彼女に、何時の間にか恋心を抱いていたのはロイの勝手。
その彼女が、たまたまロイの誘いを受けてくれて、一緒に食事をしたのは、彼女の厚意である。
あまりに珍しく誘いを受けてくれたものだから、ロイは嬉しくて、調子に乗って酒をしこたま飲んだ。なのに彼女を送りたかったからホテルまで、回る酒を自覚しながら送った。
それがまずかった。
司令部から誰かを寄越し、そいつに送らせるべきであった。
危険を避ける為に送ったのに、その自分が狼に成ってしまうなんて……。
「ああっ、どうすれば良い、エドワード!」
本人に尋ねてれば世話はない。
いっそ、忘れていてくれないだろうか?
いやだが、うかつにも……本当にうかつにも、エドワードの中で気持ち良く放ってしまったあれはどうすれば良い?
始めてなのにロイの体に素直に答えたエドワードは、かなり感じていた。
女性はその感覚が鋭くなる程に愛液を放出し、妊娠しやすくなるのだ。そして行為後、確実に受精させる為に眠りにつく。
エドワードは……。
「ああ、出来てしまったら、どうしよう! 彼女はまだ若い。若すぎる。なのに子持ち。子供が出来たら、旅は出来ないだろう。いや、それは私が面倒見るから良いとして、私と彼女の子なら、それはもう可愛いのに違いない。誰かが嫁にくれなど言ってきたら、どうすれば良いんだっ!」
ロイは――酔っていた。まだ。
出来てもいない子供。しかもそれを女児とちゃっかり決め付けて、その娘に虫がついたらどうしょう? と言っているのだ。
「いや、その前に結婚が必要だ。出来てしまってからでは、遅い! 彼女の輝ける経歴に、出来ちゃった結婚など許せるものではない。よし!」
ロイは自宅を走り回ると、一人立ちする際に母から受け継いだ「マスタングの将来のお嫁さん用の指輪」を探しだした。
少し前までは、絶対に使うことはないだろう、と思っていたそれだった。
大切に大切にそれを軍服のポケットにしまうと、家を飛び出し役所へ。
婚姻届を受け取ると、宿に一直線。仕方ないとは思えない程の狂喜乱舞ぶりで向かったのである。
その時エドワードは……風呂に入ろうとしていた。
とにかく、下半身の違和感が凄いので、風呂に入って流したかったのだ。
しかしそんなところにロイがやってきた。しかも、普段からは想像も出来ない程のにやけぶりである。
一体何があったんだろう? とは思ったものの、エドワードは早く風呂に入りたかったし、見た夢が夢だったので、あまりロイを直視出来なかった。
なので、早々に用件を済ませて帰って頂こうと考えた。
「で、何か用?」
そっけなく尋ねると、ロイは何故かビロードのケースを渡してきた。
「何、これ?」
「指輪だ」
「……はい?」
「それから、この――ここに、サインをして欲しい」
「サイン、すれば良いのか?」
「ああ」
重ね重ね、エドワードは早くロイに帰って頂きたかった。だから、その書類が何かも確認せず、さらさらと言われるがままにサインしてしまったのだ。
「これで、私達は離れられない仲になった」
「え? はい?」
「今日から君は、エドワード=マスタングだ!」
「!?」
一体何事!? とエドワード。そこで漸く、自分がサインした紙をちらりと眺めた。
そして……。
「なし! それなし!」
「ええっ! 何故なのだね?」
「何故って……」
って言うか、何で自分がロイの妻にならなくてはならないのか、むしろそっちがエドワードには判らなかった。
誰にも内緒だが、エドワードはロイに好意を持ってはいた。それはもう、ありもしないエッチ行為を夢に見てしまうくらいには。
だが、気持ちをまだ相手には告げていないし、第一エドワードには、まだやらなくてはならないことがあるのだ。
それをせずに、自分だけ幸福を手に入れるなどということは……。
「今後は私も君達の旅に協力する。アルフォンスは私の弟でもあるからね。早く元の体に戻って、家族三人――いや、四人か? 幸福に暮らそう!」
しかし、半暴走気味のロイには、エドワードの戸惑いは伝わらなかったようだ。
しかも、何故四人? アルフォンスを数に入れたとしても、三人で十分では?
それとも、ロイの家族と同居生活でもするのだろうか? それにしては、今度は足りないような?
「えっと……大佐?」
「なんだね?」
「四人って、……四人目は、誰?」
「それは勿論、君と私の娘だろう?」
「は? 娘?????」
エドワードはキョトンとして、ロイを見上げ。
「大佐、何時俺との子を産んだの?」
尋ねた。
夢が夢でなかったと知った時、エドワードはどうして良いのか判らなくなった。
自分が欲求不満ではなかったと確認できたのは、それはめでたい。しかし、一気に更なる問題が持ち上がってしまったのだ。
――妊娠。
もしも本当に出来てしまったら、いやもう、狂喜乱舞の最中のロイに、書類を提出されてしまったので、出来ても問題はないのかもしれないが、まさか子供をおぶったままで旅は出来ない。
それに……アルフォンスが問題だった。
相談もしないで結婚しました……なんて、言えるはずがない。しかも、子供も出来ているかもしれないなんて……。
だけど……。
エドワードは嬉しいとも思っている。
多少フライング気味の結婚――しかもお付き合い期間なしの――ではあったが好意を持っている相手と添うことが許されたのだ。
アルフォンスへの報告は気が重いが……。
エドワードは多分出来てはいないだろうお腹を撫でてみる。
何時かきっと――本当にロイの子供を宿せることを祈って。