over18

S M L XL B

なでなで

 参ったな……。
 国軍大佐――ロイ=マスタングは、思いも寄らない事態に直面して、困惑しきっていた。
 目の前には、生意気と元気だけがとりえ――実際には違うが――だとばかりいた少年が、酷く悩ましげな格好でロイを見上げている。
 既に全裸に近い状態で、全身を開ききってロイを待っている少年は、胸を激しく上下させ、涙に潤んだ目でロイを見上げていた。
「駄目……か?」
 不安げに問われると、明らかに理性は否を発しているのに、本能が別の命令を体に伝えようとする。
「だ……め…………」
 無理矢理引き出した言葉を口に乗せると、子供は困ったように首を振り、己の下肢に手を這わせ始めた。
 体が既に限界なのだろう。わからないでもない。
「なら……出てって…………」
 緩く上下する手が、先走りに濡れたそれにからみ、動く度に耳に妖しい音を送る。
「出てって…………」
 懇願する少年の希望は、かなえてやれそうにない。
 凝視する視線の先で、まだ子供っぽさを残した欲望を白い指が追い上げている。
 開いた足がロイの理性を奪おうと、刺激を受けるごとにびくびくと動いているのが、どうしようもなく艶っぽかった。
 鋼に象徴された右手が、白い肌を上に向かって這う。
 胸の尖りにいきついた手は、それが偽物の手だとは思えないように繊細に尖りをつまみ、指二本でつまみ上げる。
「……ふ……ん…………」
 鼻にかかった少年の声が、見つめるロイを獣に変えていく。
 ――駄目だ……。
 どうしようもない劣情を感じる。
 少年の、白い指で包まれた部分を、鋼の手でつままれたものを、己の口で思う様に味わいたい。
 それに……。
 ロイはごくりと喉を鳴らす。
 先程からパンパンに膨らんだ、自身の手によって高められたそこ――その更に奥に存在する小さな蕾。
 刺激を体に送られる度に、足と同様にひくひくと収縮するそこ。そこに、己のはりつめつつある狂気に似たそれを、収めたい。
 収めて、揺さぶって、泣かせたい。
 そう、思ってしまった。
 ロイの見つめる中、少年は一人で勝手に快感の頂きを目指そうとしている。
 そんなのは許せない。
 ロイの理性は崩壊した。
 少年の両手を片手で戒め、怪しげにロイを見上げる少年の唇を、己の唇で覆い尽くした。

 かつて、これ程他人の体にのめったことは――きっと、ない。
 すっぽりと口に収まってしまう少年のものを、根元から先端に向けてねっとりと舐めならが、ロイは思っていた。
 最初から抵抗など、思ってもいない両手は、自身の左右に下ろされ、ロイが送る刺激を感受している。
 唾液と先走りが砲身を伝って後ろに零れるのに、その滑りを借りて、ロイはまだ、恐らく誰にも触れられたことのないだろう菊門を叩いた。
 ぴくり、と少年の体が震える。
 深いクスリで全身を性感帯に変えられた少年は、どんな類の刺激に対しても、快感を得ることが出来るようだった。だから、菊門に触れたロイの手に、その先の快感を想像して更に高まる。
 びくびくと口の中で震える幼いものを愛しいと思う。
 漏れ出でる愛液を舌で抉り、微かに歯を当て引くと、少年の体はしなって落ちた。
 荒い呼吸。微かに響く水音。
「――後悔はしないのかな?」
 指の先を菊門にくぐらせながら、ロイは尋ねた。
 狭い入り口の周囲を、なぞるように指を回して、少年を鳴かせる。
「っし、しないっ!」
 答えを得た瞬間、ロイはぐい、と指を根元まで侵入させた。
 いささか乱暴な仕草に、痛がるかと思いきや、少年は高い声を上げはしたが、痛がる素振りは見せなかった。
 ――最悪なクスリだな。
 ロイは胸中で思う。
 きゅう、と指をきつく締め上げる肉壁は熱くその指1本から全身へと震えをもたらす。
 固く張り詰めた己がびくびくとその存在を主張するのに、ロイは耐え切れなくなった。
 まだ、開ききっていない。傷つけてしまうかもしれない。
 理性の声が遠ざかる。
「なら、貰うよ、全部……」
 年の割りに細い腰を掴み、尻を高くあげさせる。
 足を大きく開かせ、片方を肩に担いだロイは、高ぶったものを、まだ指1本でしか鳴らしていない菊門へ押し当てた。
 ぶるり、少年がその熱に恐怖を覚えたように体を震わせ、見開いた目でロイを凝視した。
「良いね?」
 もう一度。
 少年は頷き、目を閉じた。
 横に垂らした両手の拳を握り、くるだろう衝撃に耐える準備をする。
 ロイはそんな少年に、胸の奥から愛しさを覚え、腹の底からわきあがる劣情の波に恐怖した。
 腰をきつく握ったまま、互いの肉体を近づける。
 ぬちゃり――と音がした後、少年が硬直した。
「い……痛いっ……」
 さすがに質量の差だろう、指一つならクスリで誤魔化されていたのが、今は痛いと知覚され、訴えてくる。
 だが、ここで引くことは出来なかった。
 イタイイタイと繰り返す子供を、何とか宥めながらロイは腰を進めていく。
 きつい少年の内部が、異物を弾き返そうと力を持つのを、強引広げた。
「やっ、やだぁ!」
 逃れるように――無意識にだろう――ずり上がろうとする少年の、今度は肩から押さえつけて、体制を変えると、ロイは一気突き入れる。
「や、やぁぁ!」
 子供は叫んで、気を失った。
 ロイは愕然とする。
「なんてlことを……」
 慌てて引き抜けば、どろりと血が伝い落ちる。
 傷つけてしまった。
 そんなつもりはなかったのに。
 いや、子供をこの手で汚すつもりだってなかった。
「クスリか……」
 ロイは苦笑して、子供を抱きしめ、その汗で頬に張り付いた髪を撫で上げた。

 久し振りにやってきた子供の兄弟を、大人達は揃って歓迎する。
 これは、この仕事場では良く見かける風景だ。
 大人であるからこそ、頑張っている子供には優しくしたくなる。それこそ、肩肘張って大人の振りをするしかなかった子供には、尚更。
 そういう意味では、兄弟はそこにいる大人に好かれる要素を満載した、可愛い子供達だった。

 最近過剰な風俗店を摘発して業務停止命令を出したばかりのそこには、その店で扱っていた媚薬入りのお菓子の類がごまんと置かれていた。
 勿論証拠物件として、後に裁判で使われるものだったが、そんなこと、何時もならこの仕事場に詰めているわけではな子供達には知る由もなかったことだろう。
 残業覚悟のロイ以外は、その日は定時で終る者ばかりだったので、その証拠物件はロイの執務室に入れられた。
 そこに子供が、忘れ物を取りに戻ってきて。
「なに、これ? 食べても良い?」
 と言い――。
 普段、この部屋に彼ら用のお菓子が常備されていることが災いした。
 子供の方を振り返りもせずに「ああ」と答えたロイにも問題があるにはある。
 あるが……。
「じゃ、いただきまーす」
 執務室に、風俗店からの証拠物件がある――と気づいたのは、子供の声が聞こえなくなってからだった。
 何時もなら、ロイの仕事の邪魔をせんばかりに、どうでも良いことばかり話しかけてくる子供が、急に大人しくなった。
「どうした? 鋼の?」
 声をかけると、微かな声がロイを呼ぶ。
 まさか――。
 と思いつつ、証拠物件の置かれた部屋の隅に行けば……。
「体……あつい……」
 服を乱し、素肌を晒した少年が、真っ赤な頬で瞳を潤ませて見上げていたのだった。

 気を失った子供を抱え、ソファに移ると、痛々しく涙の後の残る頬に口付ける。
 自分でもかなり気にしているらしい体の小ささだったが、骨格そのものが細く出来上がっているのかもしれない――とロイは機械鎧の重さを引いた体重を想像して、そう思った。
 何時も生意気の限りを尽くしている子供の顔は、こうして見ると酷く整っていた。
「年をとれば、女性が放っておかないだろうに……」
 なのに、きっと性的な意味で初めて肌を合わせた相手が、男になってしまった。
「済まなかった……」
 謝ると、閉じていた目が開き、涙に濡れた顔が横に振られる。
「謝らなくて……良い」
「しかし……」
「だって、好きだったから……嬉しかったから……良い」
 小さな声で語られた、告白。
「鋼の?」
「ずっと好きだった。だから……良いんだ……」
 てっきり嫌われているとばかり思っていた相手からの、告白。
 ロイは、自分とは一回り以上違う小さな少年を、呆然と眺めた。
「好き? 私が?」
 驚き混じりに尋ねると、少年は悲哀をその表情に乗せ、目を閉じる。
「迷惑……かけて、ごめん…………」
 しおらしい態度に、普段のあの生意気な態度は虚勢だったのか、と気付く。
「君は……」
「も、大丈夫だから、下ろして……」
 ソファの上、ロイに抱き上げられていた子供が、その腕から逃れようともがく。
 ロイは咄嗟にその体を拘束して。
「それは、私の恋人になってくれるという意味ととって、良いのだろうか?」
 その言葉に、今度は子供の方が驚いた。
「な……に、言ってんの?」
「私に責任をとらせてくれると思って、良いのだろうか?」
「……」
 子供は戸惑ったようにロイを見つめていた。
「なに……言ってるのか、判らない。今日のことなら、俺……良いから、責任なんて、取らなくて……」
「取りたいんだと言ったらどうだろう? 私の元に、お嫁においで?」
「お、お嫁って……」
 子供は戸惑いを深めてロイを見る。
 黒い瞳には、嘘のかけらも存在しなく、ただ優しさや慈しみだけが浮かんでいるように、子供には見えた。
 だが、子供はロイが無類の女好きであることを知っている。
「その冗談……性質悪い……」
 遊ばれているなら、気持ちが真剣な分だけ、性質が悪すぎると思う。
 子供は苦く笑って、ロイの腕から逃れようとする。
 だが、ロイは話さなかった。
「冗談なんかじゃないんだが……どうすれば信じてくれる?」
 子供の耳に囁くようにロイは告げ――。
「キスしてくれたら……」
 と子供は返した。
 躊躇うこともなく、ロイは子供の唇を塞ぎ――。
「さて、何時籍を入れようね?」
 と笑ったのだった。

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