驚愕は時として突然にやってくる。
ロイは目の前の光景に、その時の全てを奪われていた。
愛してやまぬ少年。彼が、色とりどり美しく着飾った女性達に囲まれ、とても楽しげな笑顔を見せている。
ただ、それだけのこと。
けれど、瞬間、ロイの心に宿ったのは、暗く濁った感情だった。
――何故、私以外の人間に、そんな笑顔を見せる。何故!
エドワード・エルリック。
彼は子供の身の上には過ぎた重荷を背負い、何時だって張り詰めた感情の中で足掻いている、気高くも哀れな存在だった。
そんな彼を見つめ続けてきたのが、他でもない己だと言うのに……。
なのに彼は、自分以外の人間に微笑みかける。
ロイには滅多に見せない顔で――。
――許せない……。
そんなことは、許せない。
ロイは、彼を見つけた瞬間にはかけようと思っていた声を、かけることなく踵を返した。
常のように、途中経過を報告しにきたエドワードを捕らえ、自宅に連れ帰る。
ひっきりなしに文句を紡ぐ口を、どうにか封じてしまいたくて、たどり着いた途端にキスをしかけた。
何時もなら、もう少し穏やかでゆったりとした時間経過を過ごすはずの彼ら。
しかしロイには余裕がない。
ただの嫉妬なのだ、というのなら、それで構わない。
けれど今この時、ロイはどうあってもエドワードを己一人のものとしてしまいたかった。
他の誰にも目を向けず、向けられず――。
「しよう、エドワード……」
腕の中に小さな体を閉じ込めたまま、ロイは囁く。
これまで一度として、直接的に求められたことはない。
初めてのそれに、エドワードは驚く同時に恥じらいに頬を染める。
「何、言って……」
「しよう、エドワード……」
元より、返事を待つつもりのなかったロイは、腰に回した手を滑らせ、ズボンを止めているボタン、ジッパーにかけた。
「ちょ、大佐!」
エドワードは慌ててロイを引き離そうとするが、何時もなら苦笑しつつも離れてくれる体が、今日は密着したまま離れない。
力の差は歴然としていた。
焦っている内にズボンと下着を抜かれ、下肢があらわになる。
何時もなら、こんな性急な求められ方はしない。
エドワードは混乱する脳裏でそう考えた。
まだ幼いともいえる年齢のエドワードは、行為そのものにはまだ慣れていない。
体を重ね合わせるようになって、今度で片手に足りる程しかしていないのだ。
そのどれもが、ロイがゆっくりと感情を高めてくれた結果のもので、今回のように直接的にするだけ――という状態は初めてだった。
「やだ、大佐!」
まだ怖い。
こういう求められ方は、エドワードを混乱させ、恐怖に陥れた。
「大佐!」
返事はない。
抵抗も封じられ、あらわになった下肢には愛撫の手が伸びている。
それでも、諦めきれずに身を捩るエドワードに、ロイの口から舌打ちの音が……。
「そんなに私に抱かれるのが嫌か?」
「そうじゃなくてっ!」
ただ、こういうのは怖い。
そう告げようとしたエドワードは、次の瞬間、床に引き倒されていた。
両手をまとめて片手で押さえ込まれ、その最中に練成されたロープで縛られる。
手の甲を重ねて縛られた手では、練成も出来ない。
エドワードは愕然と、上から見下ろすロイを見つめた。
「お前が嫌でも、抱く……」
何時ものように熱い熱を孕んだ瞳ではなかった。
冷たい、冷気を孕んだ瞳。
これまで何をしてロイに迷惑をかけようが、こんな目で見られたことはない。
エドワードの身の内を、別の恐怖が駆け抜ける。
――嫌われたかもしれない……。
そんな感情が、エドワードの抵抗を奪う。
下肢を広げられ、幼い性器が大人の手に包まれたのを、呆然とエドワードは見やった。
――嫌いなのに、なのに、抱くの?
言葉はついに、エドワードの口から放たれることはなかった。
抵抗の言葉も、疑問も、何もかも。
行為は執拗でねちこく、くどかった。
数度立て続けにいかされ、無理矢理汁を絞り取られた。
己の放ったもので後ろを慣らされ、指で押し開かれた時には、もうエドワードの思考は飛んでいたかもしれない。
グチュグチュと音を立てて抜き差しされる指に、官能が引きずられたのは、エドワードが己を失してからだった。
何度も体位を変え、突き上げる角度を変え。
声を出せと強要されて、またいかされ。
気を失えば頬を張られて、その度にきつい突き上げが待っている。
「もう……大佐……」
どろどろに疲れた体が悲鳴を上げている。
勘弁して欲しいと泣くエドワードに、更に激しくなる行為。
ロイは、何度もエドワードの内に熱を放ち、今では押し込まれる度に隙間から液が零れる程に一杯満たされている。
「たい……さ……」
それでも、ロイの動きが止まることはなかった。
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
場所を移して地下室に閉じ込められて。
どこも戒められていない体。しかし、地下室のドアには鍵がかけられ、出て行くことは不可能だった。
――監禁、って言うのかな?
エドワードは他人事のように、そう思う。
適度に暖められた部屋の中では、衣服は無用と全裸のまま放置されている。
食事は三度分。朝の内に持ち込まれ、好きな時に食べろ、と言われた。
暇つぶしの為の本と大人のおもちゃ。
どちらでも好きに使うが良い。と言われてはいたけれど、何もする気になれなかった。
エドワードは呆然と部屋を見やる。
――なんで、こんなことになったのだろう?
ロイのことは好きで、恋人になって、強姦にも等しいあの行為の前日までは、良好の関係を築いていたはず。
なのに。
本当なら、戸口を練成して、何時だって出て行くことは出来た。
なのに、する気にならない。
こんな風に自由を奪われてもまだロイが好きで、監禁の理由を聞きたいと思っていた。
けれど、ロイが訪れれば直ぐに行為にもつれこみ、話をしようと開いた口は喘ぎにまみれて言葉を封じられてしまう。
そう、行為にも、随分と慣れた。
今では後ろを刺激されるだけで達することも出来るようになった。
ロイの動きに合わせて、男を喜ばせる方法も自然と身についた。
まるで娼婦のように。
柔軟な子供の体は、ロイに馴染んで受け入れることに貪欲にもなった。
触れられれば淫らに喜び、喜ばせることも出来る。
いつでも抱ける。抱いて良いから――だから……。
理由だけ、教えて欲しい。
そうすれば、ロイの望む自分でいられる自信はある。
二度とロイ以外と口を利くな、と言うのならば、そうすることも出来る。
もう、体も心もただ一人のものだから。
だから……理由を……。
時計が昼と夜の狭間の時を指した。
そろそろロイが戻ってくる。
また、何時もの時間が――淫猥な時間が始まる。