「や……も、駄目ぇ……」
引き攣れた声を上げ、細い腰を跳ね上げる姿を目に入れ、ロイは舌なめずりをする。
幼いとばかり思っていた少女が、己の腕の中で見せる媚態は、思った以上に興奮をもたらし、なえるばかりで役立たないだろうと思われた己の男は、痛いくらいに張り詰めていた。
肉付きがあまり良くないと思える両の太ももから続く、狭間の暗がり。
濡れた音を響かせて、指が何度も奥を穿つ。
絡み付く透明な粘液が、少女が明らかに感じているのだと告げている。
ロイは潜めていた三本の指を取り出すと、エドワードの視線の前で開いてみせる。
卑猥に糸を引く粘液が、指と指と繋いでいる。
微かな匂い。
「そんな幼げな容姿をしていてさえ、ここは既に女として実を結ぼうとしている。どうやっても君は、女性という性から逃れられない運命なのだね?」
く、と喉の奥で笑った男が、エドワードの細い足を抱え上げる。
抵抗する間もなく大きく開かれた両足の狭間に、男が腰を入れた。
逃げようとしても、逃げられない。
両手を戒めている、軍用の手錠と男の身。
全身を嘗め回すように見る男の視線が、どうしても怖くて、エドワードは涙を溜めた目でじっと己を食いつくそうとしている相手を見つめる。
ロイは――手にチューブを持っていた。
「な、に……それ?」
「これは、君を熱くしてくれる魔法のクスリだよ」
にやり、笑った男がチューブの蓋を取り、男らしく太い指に半透明のジェルを取り出す。
「塗ればそこからむずがゆさが広がり、良すぎて気を失う類のものらしい。君の幼い体では、狂ってしまうかもしれないね」
いっそ狂ってしまえば良い。
塊と化したジェルを乗せた指が、明らかにある一点を目指しているのを知り、エドワードは震えた。
両足を閉じようと力を込めても、間にある男の腰が邪魔して閉じられない。
「や……だ……」
怯えたように声を上げても、男は止まらず、微かな水音を上げて指が奥へ――己ですら触れたことのない奥へと差し込まれた。
「……!?」
周囲にジェルを塗りこむように回された指。
視野におさめてもいないのに、その指の形がわかり、エドワードは愕然とする。
体はもう、男の指に慣れている。その形を覚えている。
もう、引き返せない。何も知らなかった無垢な体ではなくなってしまったのだ。
「酷い……」
涙が、こぼれた。
「俺のことなんて、好きでもないくせに……」
なのに、抱けるのだ、この男は。他の女と同じように――いや、クスリを使われる分だけ、エドワードの方が扱いが酷いのだろう。
けれど……。
「何を言っている。最初に言っただろう?」
「え?」
「本気だよ。君を本気で好きだ。だから、抱く」
思ってもいなかった言葉に、やっと心へ届いた言葉に、エドワードは呆然とする。
「好き? 俺が?」
「ああ。聞いていなかったのかい?」
聞けるわけがない。
顔を合わせたと同時に腕を引かれ、抵抗も空しくホテルに連れ込まれた。
明らかにそれ専門と判る安宿に、とうとう自分は「そういう扱い」をされるようになってしまったのだ、と愕然とした。
それからのことは、あまり覚えていない。
風呂を使わされたような記憶もあるが、どこか現実が遠く、それと認識できなかった。
だって……ショックだったから。
ロイはどうでも、エドワードはロイを好きだったから。
微かな期待で、いずれ想いが通じて、こういうことに至れれば良いな、とは思っていた。
なのに、気持ちもないのにこの状況。
遊ばれる運命にあるのだ、自分は――と、そう思ってしまったから。
ぐ、と熱と力のみなぎったそれが奥へと入り込んでくるのに、さすがに初めてすんなりとはいかず、痛みが起こる。
「やっ!」
短く声を上げて抵抗を示すのに、その度に体に柔らかな愛撫が施され、溶かされた。
「大丈夫。力を抜いて……」
「でき……ない……」
「呼吸を意識するんだ」
エドワードは、言われたとおりに己の呼吸を意識した。
痛みから目を反らし、導かれるままに。
けれど、奥へと進むごとに痛みは増す。
「も……やだぁ……」
「はじめだけだよ。きっと良くしてやれる。だから、鋼の……」
降ってきた唇が、エドワードの唇を塞ぐ。
眩暈すら引き起こしそうなキスの中、中途でとまっていた熱が限界まで押し込まれた。
「っ!!」
驚きに強張った体が、温もりに包まれる。
「好きだよ、鋼の……」
何度も耳に注がれる言葉に、強張りが解けて――あとはめくるめく灼熱の世界へ。
エドワードは波のように襲いかかる波に、ひたすら翻弄されたのだった。
「ということで、エドワードは私の妻になることになった!」
司令部に戻って直ぐ――なんとロイは、仕事の途中でエドワードを監禁、行為に至ったのであった――爆弾発言したロイ。
部下一同は、頭を抱えた。
「もしかして大佐、朝のあの話を真に受けて――」
呟くハボックに、ホークアイは「しー」と唇に人差し指を当てる。
「言っちゃ駄目よ。エドワード君が傷つくわ」
「……ですね」
ロイの隣には、前回最後に見た時とは比べ物にならない程「女」の顔をしたエドワードがいて、さりげなくロイの袖を握っている。
少し隠れるようなその姿が、既に彼女がロイのお手つきになったことを如実に物語っていて……。
その姿は非常に可愛いのだが……。
駅についたと同時にロイに拉致されたエドワードをひたすら心配していたアルフォンスは、とてもじゃないが、心中穏やかには居られなかった。
「ちょっと待ってください、大佐」
「ん? なんだね? アルフォンス」
「僕、二人を交際を認めるなんて、言ってませんけど? 大体、結婚ともなれば、姉さんのたった一人の家族である僕に、事前の了承が必要なはずですよね?」
アルフォンスは鎧であるが故に、無表情だ。だが、無表情であるが故に、辺りに撒き散らされるオーラが強烈だった。
「あ、アルフォンス?」
一瞬にして気付いたアルフォンスの無言の怒りに、ロイはびくりと震える。
「姉さんも、どうしてそう簡単に許したりしたの?」
「え?」
逆に、キョトンとエドワード。
「だって俺、大佐のこと好きだったし」
そしてさらりと、アルフォンスすら知らなかった事実が、今、白日の下に晒された。
「へ?」
驚くのは、ロイも同様。何しろ、自分は散々愛してるだの好きだの言った割りに、エドワードからは一言だってそんな言葉を聞いた覚えはなかった。
とにかく肉体関係に持ち込んで、責任を取るという名目の元、ちゃっかり手に入れようと思っていたものだから。
「本当かい? 鋼の?」
「うん。本当」
二人は見つめあい、二人きりの世界へ。
周囲の人間達は、ぽかんと互いを見合わせた。
「ちょっと待て!」
空間を引き裂いたのは、ハボックの声である。
「それじゃ、朝のあの話は……」
「……冗談……にならなかったみたいね」
偶然とはげに恐ろしい。
ありえないはずの現実を目にして、部下一同は驚愕を見る。
「因みに……朝の話ってなんです?」
そこに一つの爆弾投下――アルフォンスである。
ロイに対するよりも遥かに怒りのボルテージを上げたアルフォンスは、拳を鳴らして部下一同の下へ。
これには普段冷静なホークアイも蒼白になり。
「ちょ、ちょっと落ち着きましょう? ね?」
なんて、何時もならアルフォンスを一言で懐柔させる言葉の威力も、今は全くの無力である。
「落ち着いてますよぉ。でも僕、その朝のお話って奴に、興味があるなぁ」
ガンガン。
鎧が鳴る。
「わ、判った! 話すから!!!」
だから、殴るのは勘弁してくれぇ!
悲鳴を上げた部下一同は、全くこちらの様子など眼中にない、出来立てカップルを横に、朝の一幕を話し始めるのであった。
ことの始まりは、ロイの結婚相手について、部下達が話したことである。
見合い相手と一夜の恋人は山程いれど、本命となるとまったく存在しないロイに、実は恋愛無頓着なのではないか、と、つい先日再びロイに「目をつけていた娘」をとられたハボックは、怒り交じりにそう言った。
と。
「そんなことはないわよ」
答えたのがホークアイ。
「以前はもうちょっと本命らしい女性がいたわ。でも……何時からかしら? その殆どが完璧な遊び相手になったのは……」
ホークアイは首を捻り、その正確な時期を割り出そうとする。
「そういえば、エドワード君が司令部に顔を出すようになってから、大佐は随分と周りの女性を整理したようですね」
「あら」
「前は毎日のように司令部にまで電話があったじゃないですか」
「そうね……」
なのに、エドワードが司令部に出入りするようになってからは、その電話が一回も鳴らない。その上、声では鋼の錬金術師と判断されづらいだろうから、と軍用回線を一本増やし「鋼専用」の電話まで置いたのである。
「もしかして、大佐……大将が本命とか?」
「まさか、鋼はまだ十四ですよ?」
「なぁ。ありえないよな」
そう、ありえない。
エドワードは年齢以上に成長が遅かったし、ロイはロリコンではなかった。
だけど……。
「でも、エドワード君は大佐が好きですよね?」
見た目よりも鋭く、特に人の心の機微に聡い(とはとても思えない)フュリーが言えば、部下達は一斉にフュリーを見やる。
「それ、本当?」
司令部一の才媛が問えば、フュリーは頷く。
「あれは、恋する女の子の顔だと思います。僕、そういう子、見たことありますから」
バサバサバサ!
そこに乱入したのが、ロイである。
執務室でおとなしく仕事をしていたロイは、仕上がったそれを持ってやってきたのだが、フュリーの言葉にその書類を床にぶちまけた。
「本当か!」
物凄い形相でフュリーに迫るロイ。
フュリーは怯えて……。
冗談だと思っていた。誰もが。
エドワードがロイを好き?
ありえない。
ロイがエドワードを好き?
それもありえない。
だが、ありえない事実は、秘められた二人の心の中では真実で。
「ということなんだ……」
話を聞き終えたアルフォンスは、問答無用で部下達(ホークアイを覗く)を殴り倒したのだった。
曰く。
「それが真実でも、本人達に自覚させないでください! 姉さんはまだ、十四なんですよ! なのに……」
もう処女じゃないなんて……。
「僕が初めてをもらう予定だったのに!!!!」
叫びは部下達を更に驚愕させ――。
――まとまってよかった。近親相姦よりはマシだ……。
誰もにそう思わせたのは、間違いない。