1.触れたい 2.抱きしめたい 3.恐れ 4.一人 5.足跡
触れたい
小高い頂の上、固くとがりつつある蕾を舐められ、エドワードはその秀麗な顔を歪ませた。
「本当にするの?」
「本気だよ」
ゆるく吐息を吐き出師ながら答える相手に、今度は困った表情になる。
既に衣類は剥ぎ取られ、素肌に素肌がかぶさっている様な状態だ。
初めてではないのだし、この状態から逃げようなどとは思っていないが、久々に会ったのだし、もう少し離れていた間のことを、言葉で語り合っても良いのではないか、とエドワードは思う。
さりとて、既に臨戦体制でことに及ぼうとしている男のふくらみは痛いくらいにエドワードの太ももを押し上げており、このまま我慢させるのも、男にとっては残酷だろうとも思う。
結局、観念したように目の前の逞しい首に腕を回し、耳元で了承の言葉を囁けば、男は嬉しそうにエドワードの腰を攫い、己の膝に細い体をまたがらせる。
「優しくするよ」の言葉に、ぐにゃぐにゃに溶かされてしまったエドワードは、思うがまま、甘い香りを振りまきながら、隅々を愛する男に味わわれてしまうのであった。
抱きしめたい
懸命に書類を繰っている顔、微笑みながらお茶を飲んでいる顔。
ロイはエドワードに、様々な顔を見せる。
そんなふとした時に、抱きしめたいと思う。
「あれ、大佐だよね?」
弟の言葉に振り向けば、通り一本向こうの喫茶店の中に、見慣れた男の横顔を、記憶にない女の横顔が並んでいる。
「彼女かな?」
羨ましそうに言う弟の言葉を聞きながら、エドワードは懲りずに、酷く楽しげにしている男を、抱きしめたいと思った。
絶対に出来はしないけれど……。
「行こう、アル。大佐はいないけど、みんな、待ってる……」
「そうだね」
弟は知らない。エドワードが、喫茶店の中で目の前の女性にキスを贈る男と肉体関係にあることなんて。
そしてその事実によって、エドワードが酷い苦痛を覚えていることなんて……。
恐れ
何よりも怖いのは、別れようと言う言葉。
シーツを巻きつけ起き上がったエドワードの背に、ロイは指を滑らせた。
寸前まで燃え上がっていた体は薄く汗を滲ませ、しっとりと吸い付くような感触をロイに与える。
「最近、抵抗しないのだね?」
からかうような声に、エドワードは薄く笑う。
「俺だって何時までも子供じゃないし。慣れ――っていうのもあるのかな?」
抵抗したってロイが止まることはない。それに、最後に抵抗を示した日――あの日は酷くロイが不機嫌で……。
何時までも抵抗をやめようとしないエドワードを、力一杯に殴ったのだ。
痛かったし、その後の行為も痛かった。
それまでも、恋人として抱かれていると思ったことは一度もない。その価値もない体だろうし、それはそれで良いと思っていた。
でもあの日の抱き方は、まるで……意志のない人形を抱くような、そんな事務的な様子をロイから受けて……。
抵抗するのが怖くなった。
殴られるのも嫌だったし、人形を相手にするような抱かれ方も嫌だった。
何より……怖いのだ。
もう、エドワードなんて必要ない――そんな風に言われるのが。
「何時もそうなら可愛いからな……」
笑み交じりに言われたロイの言葉に、胸の奥がぎゅ、と痛んだ。
心が壊れるのが先か、二人の関係が壊れるのが先か……。
一人
年齢的にも、それがいけないということを知りながら、エドワードは買い求めたものの封を開けた。
好きな男の部下が、何時も美味そうに吸っているタバコ。
一本取り出して火をつけてみる。
「こんなところ、アルには見せられないな……」
思いながら、深く吸い込むと、ゴホゴホと咽た。
慣れないことはするものではない。
けれど、咽る度にこぼれていく涙は心地よかった。
泣くために、これは良いかもしれない……。
たった一人の宿の中でのみ、癖になった、喫煙。
誰にも、言えない……。
足跡
「では気をつけて行きたまえ」
駅まで見送りにきたロイは、それだけ言うと、余韻も残さずにエドワードに背を向けた。
遠く去っていくロイの背を、エドワードは見続けることが出来なかった。
遠く見えた――何時かロイに抱かれていた女の顔。
ロイがたった一つ残した、エドワードとその女を繋ぐ足跡。
それだけが鮮やかで。
「姉さん?」
訝しげにエドワードを呼ぶアルフォンスの声。
答えるように振り向いて、にっぱりと何時ものように笑う。
「行こう!」
「うん!」
何よりも優先すべきは、アルフォンスの体を取り戻すこと。
欲しいのはロイの心と約束ではなくて、アルフォンスの体。
ロイと男女の関係になって以来ずっと痛み続けている胸から意識を反らす。
まだ大丈夫。
アルフォンスの体を取り戻すまでは……。
どうか痛みよ、その姿を、目の前に姿を現さないで……。
ちらりと見やった場所で、二人の男女が固く抱き合っているのが見えた。
痛みはどんどん、酷くなっていった。