こっそり作らせた部屋は、本当なら別の役割を果たすはずだったのに実に使い勝手が良く、まさにこのために作らせたのだ、と誤解しそうな程に都合が良かった。
完全防音で仮眠も出来るシャワーつき。
己の執務室の隣の、隠し扉によって自分と彼以外は誰も知らない小さな部屋。しかも、この部屋に不法侵入する者があれば、自動的に撮影してくれる隠しカメラとマイクまでしかけてある。
最近この部屋に大きな姿見を入れたのは、ただ楽しみを増やす為だけのこと。
「ね、獄寺君」
背後から抱きしめた細身の体。耳元に吐息込みで囁いた言葉に、ぶるりと震える獄寺は、上はスーツ着用、下は素肌という淫猥な格好で姿見に手を突いていた。
マフィアが嫌だと、明るい色のスーツを好む綱吉に合わせ、ライトグレイのスーツを着ている獄寺だったが、彼の髪に合わせるなら、もうちょっと濃い色のスーツが良いだろう、と散々言っているのに、自分は十代目の引き立て役ですから、と頑なに拒みライトグレイを着続ける獄寺。
本当に可愛くて、気が狂いそうになる。
いっそのこと、この部屋に監禁してやろうか、と考えたことは一度や二度のことではないのだが……そこまではさすがに狂えない。
綱吉の腕の中で震える獄寺は、必死に感覚を堪え、落ちそうになる体を支えている。
無駄なことを……と綱吉は、強情な獄寺を早々に陥落させるべく、これまでは単調にこするだけだった獄寺の雄、その先端に、爪を立てた。
「っぁあっ!」
鋭く尖る感覚に身を貫かれたのだろう、一瞬大きく反り返った体は、それまでの努力を一切無駄にしたように落ち、姿見に突いた手がぎゅっと握り締められた。
「じゅ……だいめ……」
切ない吐息が呼び、ぼたぼたと涙が床に落ちる。
「苦しい?」
「ほ……ほし…っ…………です」
返ってきた答えは、求めたものとは違うもの。だが、これ以上はさすがに可哀相でいじめられない。
「本当……獄寺君って、可愛くて困るよね……」
落ちた時に、乱れた上着までが落ちてしまった。
はだけたシャツまでが、上着と共に滑り落ち、男にしては細い、白い肌が現れる。
思わずといった風に唇を滑らせ、肌の滑らかさを味わった後、やはり必死に感覚を耐えてしまう獄寺を、今度は完璧に落とす為、彼自身が零して塗らした指を後ろに。
この準備を始めると、綱吉も平静ではいられなくなる。
綺麗でクールな獄寺が、落ちて乱れる様を期待し、奥をびちゃびちゃにぬらしてやりたいという欲望が湧きあがるのだ。
まずは一本。
濡れた指は、慣れの所為もあるのだろう、すんなりと入っていく。綱吉の持つ指が、一般的な男よりも細い所為もあるのかもしれない。
ぴくりと揺れた獄寺の体と、やはり押さえ込まれた声に、くすりと笑う。
欲しいと言ったのは、獄寺の方だ。
挿入の違和感を無くす為にも、前への刺激も休めない。
前後を同時にせめられた獄寺は、上がる息の中にかすかな声を混ぜ始める。それでも、明確に声を上げないのは、綱吉がこの空間に対してしていることを、知っているからなのか。
「もっと……声を聞かせて、獄寺君」
かすれ始めた声で囁けば、小さく首が振られる。
本当に惜しい。もう一本腕があれば、立ち上がり固くなっているだろう乳首も、せめてあげることが出来るのに。
指をもう一本増やし、慣らす行為に動きをつける。
広げるのではなく、綱吉が入った後の動きを予想させるそれに、獄寺が反応を返すようになった。
どうやら心がほどけてきたらしい。
随分と時間がかかったが、もうすぐ落ちそうな予感に、綱吉は歓喜に震えた。
「獄寺君……入るね?」
こくりと頷いた獄寺が、鏡についていた手を床に下ろし、腰を上げる。綱吉が入りやすいように。
どこまでも従順な獄寺には、時々やきもきもするけれど……。
「俺のこと、好きだよね?」
入り口に凶器を当て、周囲を撫でこするように問えば、がくがくと頷きが返った。
「愛、して……っつぁあっ!」
答えが返るのを見計らって、同時に押し込む。
一度ほどけてしまった口は、閉じることが許されない。
ゆっくりと奥まで侵入するのに、荒い呼吸の中に明確な喘ぎが混じった。
「じゅ……だい、めっ……」
中を犯す時、綱吉はよりゆっくりと動く。欲望に任せて激しくするのも良いが、ゆっくりの方が、より相手を感じられるような気がするし、気持ち良くなれるような気がしていたから。
側壁をなぞるように、ゆっくりゆっくりと動く綱吉に、合わせて獄寺の腰も踊った。
「ふ……ぁ…、じゅ……だい…………めぇ……」
高く掠れた声で呼ばれ、肉が厚く綱吉を包み込む。
言葉よりも雄弁に、愛しているのだ、と叫ぶ肉体が、終わりを求めて張り詰めていった。
ああ本当に。どうしてこんなに可愛いのだろうか?
ぽろぽろと生理的なものであろう涙を零し、開きっぱなしの口からは嬌声が漏れ出で続ける。
少し、ほんの少しだけ動きに速度を付け加えて、同時に終わりを迎えられるようにと獄寺の張ったものを強くこする。
「あ、ああっ……も、俺……」
「良いよ、いっちゃっても」
「じゅ、だい……め、あ……」
何かを求めるように伸ばされた手が、姿見に触れる。その手が、次の瞬間強く握り締められ――。
鏡越しに見る獄寺の顔は、哀れでいて隠微で、とても可愛らしく綱吉の目に映った。
かくり、と今度は完全に意識を闇の中に落とした獄寺を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
疲れただろう。いかせずとまらずで散々じらした。
「でも、獄寺君が悪いんだよ? なかなか声を聞かせてもくれないし、顔を見せてくれようともしないんだから」
まぁ、だから綱吉は、姿見に隠したカメラで常に行為を撮影し、マイクで音を録音しているのであるが。
趣味が悪い? それがなんだ?
愛する人間である獄寺は綱吉の守護者で。互いに忙しい身の上だから、殆どのこと体の接触は持てない。
右腕として側にいるから言葉は交わせようが、キスの一つもすることが出来ない毎日が募れば、これくらいはしたくなる。
たまに共に時間が開けて体を重ねようとしても、獄寺はあくまで自分が抱かれている最中の顔も声も、綱吉に与えてくれようとはしない。
恥ずかしいからだ、とは判っているのだが……。
「もう良い加減、薬で飛ばしちゃおうかな、くらいは鬼畜なんだけどね、俺も」
当然、合法的なものだが。
「さて、後始末しなくちゃね」
生で中出しだと、獄寺が辛いことになるので、それくらいのフォローはしなくてはならない。
どうせなら……ボンゴレの科学力を結集させて、獄寺を女にしてしまうか、と思うくらいには、狂っている。
綱吉は、獄寺に。
そして多分、獄寺も、綱吉に。
2009.08.19