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気高き花

「ルーク、どうしたのですか?」
沈み込んでいルークを見かねて、イオンが声をかける。
憂鬱そうな顔を上げたルークは、それでも微かな笑みを見せて首を振る。
問わなくても理由なんて判っているけれど。
ルークはティアやアニス、ナタリアを心配しているのだ。あれだけ罵倒されてきたのに優しすぎるとイオンは思う。
「ちょっと眠れなくて……」
「なら、ジェイドにクスリでも手配してもらいましょうか? 明日からはもっとハードになる。ヴァンに近付いていますからね」
「あ、うん……そうしてもらおうかな?」
ルーク自身も判っているのだ。今はもう、ティアやアニス、ナタリアを心配していられるような状況ではないと。
ヴァンに近付く度に強くなっていく敵。まだ六神将の一人だって片付けていない。
これまでは回復譜術を持っていたティアやナタリアがいないから、今ではグミとルークの回復術しかない。これは、思った以上にルークに負担をかける結果になってしまった。
「では、ジェイドにクスリをもらってきますね」
「あ、俺が……」
「いいえ。あなたは限界まで譜術を使っているのですから、休んでいてください」
「……ごめん……」
「とんでもない」
済まないと瞳で謝るルークをおいて、イオンはジェイドの元へ向う。

ジェイドは今、少しでもルークの負担を減らせるよう、アッシュに回復術の特訓をつけているのだが、これがまたはかばかしくない。
どちらかと言うと、第七音素の素養は持っていても他の音素との相性が良いアッシュである。回復術に至るまではまだ長い道のりが必要と言えた。
「ジェイド……」
呼びかければアッシュの前、厳しい視線のジェイドが振り返る。
「どうかしましたか?」
「ルークが疲れているはずなのに眠れないと言っています。良い薬はありませんか?」
「クスリ、ですか……」
ジェイドは難しい顔で考え込む。
「クスリはないではないですが……睡眠導入剤を使ってしまうと、今度はクスリなしで眠れなくなる可能性があります」
「他に、何か良いクスリは?」
「そうですね……」
少し思考に沈んだ後、ジェイドはニヤリと笑った。
「ないでもありません。ですが、誰かの協力が必要です」
「協力、ですか?」
「ええ。睡眠導入剤の利用は勧められません。ですから、眠くなるように適度な運動を楽しく行なうクスリを用意します」
え? とイオンはジェイドを見上げる。
「それはもしかして……」
「当然、催淫剤ですよ。別名、媚薬と言います」
きらり、とイオンとアッシュの瞳が光る。
「女性は行為を行うと眠くなる習性があるのですよ。子供を身ごもる為に、ね」
「ですが、ルークは初めてですよね? 大丈夫なのですか?」
齢二歳のイオンが、何故そこまで詳しいことを知っているのか、とジェイドは一瞬疑問に思うが、仲間としてこの場にいる時点で既に、ルークを得る為に伴う知識の全てを得る努力をしたのだろうと納得する。
「皮膚から吸収する痛み止めを用意します。少し感覚が鈍りますが、一度してしまえば後は慣れるだけですから、今回だけ我慢すれば良いでしょう。当然、今回は一人だけが美味しい思いをして、後はサポートですよ?」
既にギラギラと視線を光らせるアッシュに、牽制するように言う。
つまらなそうに舌打ちしたアッシュは、しかし瞳の色だけは失っていなかった。
「サポートする人間だって美味しい思いは出来るじゃねぇか」
「それは、そうですね……確かに」
「合体するだけが美味しいわけじゃねぇからな。これは、初体験もまだの男には判らない味だ」
何時の間にいたのか、ガイに向けて言ったアッシュに、ガイは苦笑する。
「仕方ないだろう? 恐怖症なんだから」
「ルークは大丈夫なのにな?」
「愛は恐怖症を越えるんだ」
ふ、と笑ったガイに、一堂は冷たい視線を向けるが、反論はしない。
誰にも経験があるからだ。
生まれて初めて出会った女性がアニスで、女性というものに夢を持てなくなったイオンのその思考を変えてくれたのがルークだった。
元々他人に興味を抱けなかったジェイドに、連れ合いが欲しいと初めて思わせたのがルークだった。
女性恐怖症で触れられもしなかったガイが、初めて恐怖を感じずに触れられたのがルークだった。
個人主義とも言えるナタリアに、過去の思い出を滅茶苦茶にされ、女というものに軽い絶望を覚えていたアッシュをそこから救い出したのがルークだった。
そして今一人、ルークによって過去から解放された男がいる。

「さて、初めてを頂く幸運な相手は誰にしましょうか?」
「初めてなんですから、同じ初めてである僕やガイでは相手にはなりませんね。苦しませてしまうかもしれませんから」
「なら、俺か眼鏡だな」
「ジェイドが良いんじゃないか? 無駄に経験が多そうだ」
「ピオニー陛下には負けますけどね……じゃ、私がお相手するとしましょう」

男達は揃ってルークの元へ。
クスリを貰いにいったはずのイオンだけではなく、全員が揃って現れたことにルークは驚いていたが、もしもの時に人員が必要だと言われ、頷いた。
「これがクスリですよ」
はい、と水と共に渡されたそれは、小さなピンクの粒だった。
「飲んだら直ぐに体が熱くなってきます。症状が出たら、こちらのもう一つを飲んでください」
「うん。判った」
ルークは言われるままにクスリを飲み込む。
「もう一つは何のクスリなんだ?」
小声で尋ねるアッシュは、どうやらルークの体調を心配しているらしい。
「意識を混濁させるクスリです。記憶に残ったら、ショックを受けるでしょう?」
まだ初恋も経験していないルークのことだ。行為のことだって知らないはず。
いざ好きな男が定まってから、初めてがその相手ではなかったら、それなりに衝撃を受けるだろうことは想像に易い。
「それでも、全員を愛してもらいますけどね」
「当然だな」
だってルークは皆のものだ。
「ジェイド……」
震える声がジェイドを呼ぶ。
ジェイドは求められるままにもう一つのクスリを渡し、飲み下したルークを見守った男達が周囲を囲む。
「初回に参加出来ず、歯噛みするあの方の顔が目に浮かびますねぇ」
楽しげに言うジェイドに、趣味が悪いなと苦笑するガイ。
混濁した意識でぐらぐらしているルークを、広げた敷布に寝かせる。
焦れたように服のボタンに手をかけるアッシュと頬を撫でるイオンを横目に、ジェイドも脱がせたズボンと下着の下、まだ一度も開かれたことのない花弁に、透明な塗り薬を盛った指を近づける。

少女はこの日、五人の男達の女になった。




五人目はきっと想像通り。そして続きを書くなら、次はダーク。

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