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そして屍

「なんでぇ、そんなにルークのことを気にかけるんですかぁ?」
不満そうに言うアニスに、イオンとガイ、そしてジェイドはうっすらと質が良いとは言い難い笑みを零した。
「なんで? 当然でしょう? 彼女はあなたよりも余程可愛らしい。そして優しい。女性の理想ではありませんか」
「でも罪人です!」
ティアがアニスの言葉に乗っかるように言えば、明確な罪が存在する人間が何を、とガイとジェイドは呆れた風に溜息を吐く。
責任転嫁と言いきるのにはあまりにもお粗末なその思考に、既に彼女に対しては呆れしか浮かばない彼らは、早々に彼女を始末してしまった方が、この後の旅が快適なのではないか? とまで思う。
回復譜術ならばルークも学んでいて、そろそろ使えるようになる。
やたらと「守って!」「前衛!」「調子に乗らないで!」などと、後ろで守られておきながらどの口が言っているのか? と思えるような憤りを吐き出し平然としている人間よりかは、出来ることと出来ないことがあるのだ、ときちんと理解して「大丈夫か?」と声をかけながらグミを運んでくれるルークの方が、余程好ましい。
ぶっちゃけ、女であろうが譜術専門であろうが、さしたる戦闘能力もなしに自分が有用であると信じている者など、邪魔以外の何者でもない。
アニスなどは特に、殆ど戦闘でも謎解析ですら役に立っていないというのに、どこからそんな自信が溢れてくるのか、このパーティで最も高い戦闘能力を持つルークに対していまだに暴言を吐き捨てるという、冗談のような態度であり続けた。
本当に愚かで救いようがない。

「ああ、アニスをどうにかできないものでしょうか?」
イオンが呟けば、ジェイドがニヤリと笑って小瓶を取り出す。
「それは?」
「遅効性の毒薬ですよ。摂取してから死に至るまで二日程かかる。ゆっくりと体内を血液と共に循環し、辿り着いた心臓で爆発します」
「それ、良いですね」
イオンがニヤリと笑い、ガイがその小瓶を受取る。
「今日は俺が食事当番だからな。アニスとティア、ナタリア辺りで良いか?」
「一応ナタリアは除外してください。何か面白いことに使えるかもしれない。例えば、アッシュにルークを選ばれて自殺、なんて面白い見ものが見れるかもしれません」
「そりゃ良いや!」
いまだアッシュの心が自分に向いていると信じているナタリアは、既にその気持ちが、ナタリアよりも余程国や世界を思いやっているルークに向いていることをまだ知らない。
表立っては屑と呼び、怒鳴りつけるアッシュのあの態度が、実は如実な好意の裏返しだと言うのに……。
愚かな王女は、ルークよりも余程自分の方が優れた女だと思いこんでいる。
何を根拠にそう思えるのかは不思議だが、王女として教育を受けてきたからそう思うのだろうか?
ならばルークだとて、少なくはあるが貴族の令嬢としての教育を受けているし、何より自身がレプリカだと知ってからの努力は、他者を寄せ付けない程に涙ぐましいものだった。
その努力を知りもせずに、彼女達はただルークに与えられた残酷な運命を慰めもせず、当然とばかりに見下し、そして自らすらも貶めていたのだ。

「死体はどうやって始末するのですか?」
尋ねるイオンに、ジェイドの表情は楽しげである。
笑顔というポーカーフェイスの中に、嫌悪を隠し持つジェイドだからこそ、容赦はない。
「そうですね……アリエッタに差し出すのはどうですか? そもそもティアがあそこで戦闘態勢をとらなければ、ライガとの交渉はもう少し進めることが出来たかもしれない」
ライガの威嚇に、先に殺気を漲らせたのはティアだ。ルークもイオンも、勿論ミュウも、ライガを宥めることを考えたというのに。
「戦闘マニアを引き渡し、その罪を彼女に贖ってもらうのですよ。他の罪は放置されてしまって彼女は都合良くそれを過去のものだと忘れ去っています。ならば」
「そうですね。それでアリエッタが許してくれることはないような気がしますが……いいえ、アニスも差し出せばもしや……」
イオンとジェイドは顔を見合わせてニヤリと笑う。
ガイは彼らを見ながら「どうせこんな面白いことがあるんだ。アッシュにも知らせてやらないか?」
彼もルークをあそこまで追いつめた彼女達を心底憎んでいるように見えた。ならば、見物人として参加させてやっても良いだろうと。
イオンとジェイドは、頷いた。



何時もならば、別行動で顔を見ることもままならないアッシュの来訪に、その意味も知らずナタリアは歓迎し喜んだ。
アッシュはナタリアには笑顔を見せるが、見る者が見ればそれは仮面に覆われた虚像だということが良く判る。
ルークもそれは判っているようで、何時にないアッシュの酷薄な雰囲気に不安そうにイオンやガイを見る。
呼び出したのはルークだが、何故呼び出したのか、ルークは知らない。イオンとジェイドとガイに頼まれたからだ。

何だか嫌な予感がする。
ルークは不安気に仲間達を見やる。
その時だった。
「ぐ……」
唐突に声を上げ、倒れるアニスとティア。
「ど、どうしたんだ!」
駆け寄ろうとしたルークは、ジェイドによってその腕を捕まれ留められて……。
どうして? という目で見るティアとアニスが目が、濁っている。
「どういうことだ?」
慌てて振り向いたルークが、ジェイドに詰め寄る。
それに酷く酷薄な笑みを浮かべたジェイド、イオン、ガイ、アッシュ。
「こいつらはテメェのことを何時までもグダグダ責め続けていたそうじゃねぇか」
まるでそうされるのが当然とばかりのアッシュに、ルークは首を振る。
「違うっ! 彼女達は俺に、色々と教えて……」
「普通は、ですね。人にものを教える度に馬鹿だの物知らずなどということはありえないのですよ。言われて貴女は傷ついていたでしょう?」
「それは……」
イオンに優しく尋ねられ、ルークは言葉に詰まる。
確かにティアとアニス、ナタリアも含めてだが、彼女達の言葉はいちいち辛辣で、その都度傷ついていたことは確かである。だが、だからといってこの状態は……。
慌てて回復に走るルークは、今度はガイとアッシュで止められる。
「こんな役立たずのゴミ、いなくても良いだろう?」
爽やか過ぎる笑顔で言うガイに、ルークは必死で首を振る。
いくら自分を傷つけるだけの彼女だからといって、このままでは……。
だが、駄目押しはジェイドが刺した。
「私にとっては貴女よりも彼女達の方が余程罪人として罰するに相応しい相手です。和平を邪魔したティア。彼女は兄の分の責任も背負っていながら、自分に非があるなどと微塵も思っていない。どこまで自分に甘いのでしょうね? それにアニス。彼女は私が指揮する第三師団の精鋭達を自らの両親とはかりにかけて殺した。普通身内の不始末は身内が背負うものでしょう? 何故何の咎もない彼らが死ななくてはならなかったのか。あなたが罪人だからです。アニス?」
意味が判らず首を捻るルークに、懇切丁寧に説明をしたのはイオン。
「アニスはモースのスパイなんです。僕の行動をいちいちモースに知らせ、守護役の任を放棄し、僕を散々危険に陥れた。立派な罪人でしょう? ダアトでは絞首刑に相当しますよ」
毒で殺されるなんて、なんて楽な死に方でしょう。
イオンは薄く笑って倒れたアニスの腹を蹴った。
ガクガクと震えるルークは、それでも回復を唱えようとするが、やはりアッシュに止められ、更に抱擁を受けた。
「お前のように心優しい人間が、真の王族であり、俺は安心した。お前となら、俺が目指したキムラスカを目指せそうだ」
え? と振り向くナタリアの前で、アッシュは軽く笑ってルークに口付ける。
その言葉と行動の意味が判らないくらいに愚鈍ではないだろう。ナタリアは、震える手をアッシュに伸ばした。
「何を……言ってらっしゃるの? あなたは……」
「自分のことしか考えられない王女失格ナタリア。お前はキムラスカ王族には相応しくない。潔く自害でもして果てたらどうだ?」
ニヤリと笑って吐き捨てるアッシュに、もうナタリアの声はなかった。

高笑いを浮かべながら去っていく仲間達。ルークは必死に彼女達に手を差し伸べようとするのに、それを他の男達が許さない。
死ねとばかりに放置された彼女達は、仲間だと思っていた者達が、実は限りない嫌悪と憎悪を自分達に向けていたことを、この時初めて知った。そして彼らの中で、自分達が最もその存在を軽く扱っていたルークだけが、心底から彼女達を仲間扱いしてくれていたことを……。
彼女達は自らの判断を誤ったのである。

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