いい天気だ…。
ヴァンは木々の隙間から見える空を見上げながら思った。
吹く風も上々。通りを歩く人々の足音も軽い。
うーん。次はどこに行くか。
前の街じゃ派手にやっちまったしなぁ…。
ジーパンのポケットの中に手を入れると厚い札束の感触がする。
これだけあればしばらくのんびり出来るだろう。
ごろりと木を枕にねっころがると眠気が襲ってくる。
とりあえず一眠りしてから考えるか。
その眠気に身を委ねようとしたとき、幼い声が響いた。
「あーっ！」
その声がした方に目を向けると、幼い女の子が上を見ながら
悲しそうな顔をしていた。
その視線を追い上を向くと、赤い風船が木の上に引っかかっていた。
「せっかくお兄ちゃんに買って貰ったのに…」
エビフライをくっつけた様な髪型をした女の子はみるみる泣きそうな
顔になっていった。
まずい。せっかくいい気分なのにガキが泣いたら台無しになっちまう。
やれやれと起き上がると女の子がびくりとして一歩退いた。
顔に警戒心がありありと浮かんでいる。
立ち上がるとさらに一歩引いた。
そんなあからさまに引かれるとちょっと傷つくな…。
ヴァンはひょいと簡単にジャンプするだけで風船の紐を掴む。
風船はそのまま紐に導かれてヴァンの近くでふよふよと浮いている。
その風船をぽかんとした顔の女の子の前に差し出してやった。
「ほら」
女の子は不思議そうに風船とヴァンとを交互に見つめている。
「お前のだろ？」
「うん。ありがとう！お兄ちゃん」
にっこりと笑うと風船を受け取る女の子。
その顔は先ほどの顔と違いキラキラと嬉しそうに輝いていた。
これで静かになるな。
また木の根元に座るが、まだ女の子が立ち尽くしていた。
おいおい。まだ居るよ。
「早く親んとこ帰れよ」
面倒くさげに声を掛けるが、女の子は悲しげに俯くと。
「おとうさんも、おかあさんも、いないよ」
う。やばい泣きそうだ。
「えっと。お前一人か？どこから来た？」
なんとか話を逸らそうと話しかけるヴァン。
女の子はふるふると顔を左右に振ると
「お兄ちゃんが…」
そこで言葉が途切れる。
おいおい。お兄ちゃんがいるのかいないのかどっちなんだよ。
そして女の子は方は何か考え込むように頭を捻っている。
どうするかこの状態。なんか面倒なことになる前に逃げるか…。
そう考え始めたとき不意に女の子の後ろから声がかかった。
「ウェンディ！」
どうやらこの子の名前らしい。その声を聞いたウェンディは嬉しそうに振り向く。
そこにはこれまた幼い少年がウェンディに向かい走ってくる所だった。
瞳と顔立ちが似ている。あれがきっと兄なのだろう。
「お兄ちゃん！」
「何してるんだ。僕から離れちゃいけないって言っただろ」
声変わりさえしていない幼い声。
しかし静かな物腰と声が少年の年齢を少し大人びて見せている。
「ごめんなさい。風船がとんでっちゃってお兄ちゃんにとってもらったの」
そう言ってウェンディはヴァンの方を見る。
兄のほうもヴァンを見つめると丁寧に
「すみません。妹がお世話になりました」
頭を下げた。
なんか馬鹿丁寧すぎていけすかねぇな…。
「いや、別に…」
かろうじてそれだけ言った。
兄はウェンディの手を握ると
「向こうでおじさんが待ってるよ」
優しく声を掛けると、ヴァンに向かいもう一度会釈をすると
「失礼します」
ヴァンに背を向けウェンディの手を優しく引きながら元来た道を歩いていく。
ヴァンはそんな二人の背を少し羨ましそうに見つめていた。
二人はずっと何かを話しながら歩いている。不意にウェンディの顔がこちらに向いた。
そして再び兄のほうを向き言葉を交わすと繋いでいた手を離しヴァンの元へと走ってくる。
おいおい。今度は何だよ。
頬を赤く上気させながら再びヴァンの前に立つ。
ヴァンが座ってやっと二人の身長差が無くなる。ヴァンは不思議そうに見つめると、
「どうした？」
ウェンディは胸を大きく上下させながら
「あのね。わたし達、オリジナルポイントって所から来たの」
嬉しそうに笑った。
…さっき言ったこと一生懸命聞いてきたのか。
律儀な奴だな。
「そうか。俺はヴァン。お前は？」
「私？ウェンディ。ウェンディ・ギャレット」
ヴァンはそっとウェンディの持つ風船を見ると、
「ありがとう。ウェンディ。もう風船飛ばすなよ」
「うん！バイバイ！ヴァン！」
ヴァンに手を振りながら再び走り出すウェンディ。
ヴァンも軽く手を振りながら二人が雑踏に消えていく姿を眺めていた。
姿が見えなくなると再び木を枕に横になる。
なんか久しぶりだな。ありがとうって言ったの…。
オリジナルポイントか…。
行く当ても無いし。何かの縁だ、行ってみるか。
そう考えながらヴァンは眠りに落ちていった。

おわり。

久しぶりに脳内妄想爆発ですわ。（笑）
小説読んでギャレット兄妹が生粋のエヴァーグリーン育ちではないと
知って思いついちゃいましたよ。
オリジナルポイントでギャレット兄妹が生まれてたらいいなぁ。（笑）
そしてひょんな感じにヴァンとウェンディが出会いヴァンがオリジナルポイントへ
行ったきっかけになったら萌えるなぁと思って書きました。
色々設定に無理があるがその辺はドンマイ！（笑）ってことで。
2006/01/08