「ヴァンの馬鹿……」
ウェンディは飛行船の自室で鏡を見ながらはみ出した口紅
をティッシュで拭いつつ毒ついた。
少し口紅のついたティッシュを離れたくず籠へ恨みをぶつける様に
えいっと投げた。綺麗な放物線を描いたティッシュは籠の淵に当たり転々と床を転がる。
それを見たウェンディはため息を一つつくと転がったティッシュを拾いくず籠の中に捨てた。
鏡台の前へ戻ってきたウェンディはもう一度自分の姿を鏡に映す。
エメラルド色のドレスが眩しい。借り物とはいえ乗客は富裕層が多い為か
質も良く、ウェンディの瞳の色と合い綺麗だった。
ドレスのスカートを摘むとゆっくりと周る。
ふわっスカートの裾が広がるとレースがひらひらとはためく。
「…うん。おかしくないわよね?カメオ」
鏡台の上で餌を頬張るカメオに声をかける。
カメオは首をウェンディの方へ向けると「キュィ」と鳴いた。
「ふふ。ありがとう」
ふと、耳に微かな音が流れてくる。耳を澄ませると微かにヴァイオリンの音色がした。
夕食が終わった客たちが踊っているのだろうか、軽やかな音楽と歌声がヴァイオリンの
音色に乗りここまで響いてきた。
「カメオ…もう一度がんばってみようか?」
ウェンディのそんな問いにカメオはもう一度「キュィ」と高く鳴いた。

コンコン
ウェンディはヴァンのいる部屋の扉を叩いた。
「ヴァン、入るね」
そういって扉をあけるとヴァンがベットの上でパズルをもてあそんでいた。
「おう…。どうした?」
扉の入り口で立っているウェンディを怪訝そうに見上げた。
ウェンディは少し俯きながら
「あのね、一緒に来て欲しい所があるの」
「……トイレか?!」
「違うわよ!」
間抜けな質問をするヴァンをキっと見つめると、
つかつかとベットに向かいギュッとヴァンの袖を掴むと
「いいから!」
「お、おい」
半ば強引にヴァンを部屋から連れ出した。
ウェンディに袖を引っ張られながら飛行船の船内を歩く。
「どこまでいくんだ?」
と問うヴァン。
ウェンディは引っ張っていた袖を離すとすっと指で先を指す。
「あそこ」
ヴァンはウェンディの指す方向を見ると怪訝な顔をした。
「ああ?」
そこは先ほど夕食を食べていたホールだった。だが先ほどまであったテーブルは隅に
片付けられちょっとした空間が出現していた。
そこには静かなワルツの音色にのり、数組の男女がドレスの裾を優雅に広げながら思い思いに
ダンスを楽しんでいた。
「で、何するんだ?」
まったく状況を理解できずウェンディに問うヴァン
「もう!見てわかるでしょ?!ダンスよ!ダンス!」
「はぁ…っていうかお前出来るのか?」
痛いところを突かれ言葉に詰まるウェンディ
「……昔、兄さんに教えてもらったから…多分……大丈夫」
「ええー…」
「いいから!」
なお渋るヴァンの袖を握り無理やり踊っている集団の中へ進むウェンディ。
困惑しながらも引っ張られるままウェンディの後を着いていく。
ある程度集団の中に入るとウェンディはくるっと振り返るとヴァンに向かい手を差し出す。
「んん?」
差し出された手を不思議そうに見つめるヴァン。
「あたしもあまりうまくないけど…ヴァンは、ここと、ここに手を置いて…」
「こうか?」
ヴァンは手をウェンディの腰にそっと回した。
腰に回されたヴァンの手の大きさに胸を高鳴らせるウェンディ
「そ、それで、曲に合わせて…左足から、イチ、ニイ、サン…」
2人は向かい合ったままスライドするように移動しようと足を踏み出すが
「きゃ!」
ヴァンは歩幅を考えずに移動した為ウェンディの手を思い切り引っ張ってしまった。
「もう、ヴァン。あまり強く引っ張らないで」
「え、ああ…」
「もう一度ね…イチ、ニイ、サン…」
何とかステップを踏むことが出来た。
「おお。なんか出来た」
「いや。普通に横移動しただけだし」
「そうなのか?!」
びっくりしたように驚くヴァンを少し苦笑い気味に見つめるウェンディ。
「あはは…じゃあ次はターンね。ヴァンから見て左周りの場合だけど…」
ウェンディは簡単にステップの説明をする。
「これでさっきのステップと組み合わせて…1、2、3、4でターン…」
「お…わ、わ…」
変わったステップについて行けずたたらを踏むヴァン。
「いたっ!」
「うぇ?」
ウェンディの声に驚き足元を見るとヴァンはウェンディの足を思い切り踏んでしまっていた。
「す、すまん」
「ん、大丈夫」
痛さに少し顔を顰めるウェンディ。
それにめげずもう一度最初からステップを踏み始める。
ウェンディの後を着いていくような感じだが何とか形になるようなステップを踏むことが出来た。
「…なぁ、これって何が面白いんだ?」
「ヴァンは楽しくないの?」
周りを見るとワルツの調べにのりカップルが楽しそうに踊っている。
「正直。楽しくないな」
困ったような顔をするヴァン
「お前はどうなんだ?」
「う、解らない…」
「でもダンスはお前の兄さんに習ったんだろう?」
「うん。大人になった時に必要になるだろうって……」
ゆっくりとワルツの音色が流れるなかしばらくステップを踏む二人。
ホールでは先ほどよりも大勢の人間が集まり煌びやかに踊っていた。
「お。すみません」
人が多くなってきたせいか何度か他の人にぶつかる様になってきてしまった。
そのたびにヴァンはすみません。と謝るのだがなぜかくすくすと嘲笑されるのだった。
なぜかその事にむっとするウェンディ
「ヴァン…人が多くなってきたね」
「そうだな…」
「そろそろ……」
そろそろいこうか。と声をかけようとした時ウェンディは不意に背中を押された。
「きゃっ!」
思わずヴァンにしがみつくウェンディ。
「お、とと…」
ドンとしがみつかれた衝撃でよろよろと2、3歩後ろへ下がるヴァン。
その時、不意に大きく足を取られる。よたよたと下がった時に誰かの足に引っかかってしまい
大きく体勢を崩す。
「うあ!」
そのまま2人は抱き合うような感じで倒れこんだ。
ヴァンは背中に当たる衝撃で一瞬息が詰まる。
「っ!」
そんな2人を見て周りからくすくすと忍び笑いが漏れる。
「なぁにあれ?」
「無様ね」
「ねぇあの人、さっき叫んでいた人じゃない?」
そんな声を聞きながら、ヴァンは気にもせず体を起こす。
「大丈夫か?」
ヴァンは自分にしがみついているウェンディに声をかけた。
「………」
ウェンディは俯いたままこくこくと頷く。
「ごめん。ヴァン…!」
おずおずと顔を上げたウェンディは目の前にヴァンの顔があるのにびっくりする。
あまりの近さにウェンディは慌てて離れようとするがヴァンに腕を唐突に掴まれた。
「ヴァン?」
頬を少し赤くしながらウェンディは不思議そうに声をかける。
ヴァンは今だ床に座り込んだままだったが、ウェンディの腕を掴んだ手とは逆の手を
ウェンディに向かい伸ばす。
「ついてる」
ヴァンの大きな手のひらが頬にかかり親指でゆっくりとウェンディの唇からはみ出た
口紅をぬぐう。
「な、な、な、」
思ってもいなかった行動にウェンディは口をパクパクと
「ん?」
ウェンディの態度を不思議そうに見つめるヴァン。
とりあえず立ち上がると呆然と座り込んでいるウェンディに声をかけた。
「立てるか?」
その声に我に返ったウェンディは立ち上がろうとするが、頭の中が真っ白になり
力が入らなかった。
ヴァンはそんなウェンディを困ったように見つめると
ウェンディの背中と膝の後ろに腕を入れるとぐいと持ち上げた。
「きゃっ!」
いきなりの事に小さく悲鳴を上げるウェンディ
「動くなよ」
ヴァンは軽々とウェンディを持ち上げると軽い足取りでホールの出口へと向かった。

 

「おい。お前の部屋に着いたぞ」
ヴァンはウェンディを抱き上げたまま器用に扉を開けると
ベットへそっと下ろしてやる。
ベットに腰掛けてたウェンディはコクンと小さくうなずく。
「ごめんね、ヴァン…あたしのせいで」

 

(唐突に終わる)

 

15話?だっけ飛行船で旅をする話。

ここでウェンディがドレスを着ていたのでヴァンと踊らせてぇ!&

やっぱりヴァンにウェンディのずれた口紅ぬぐわせてぇ!!

と思って書いた話。

もうね、これね、オチがつけられませんでしたorz

力量不足ですんません。。

ちなみに下のは別ヴァージョン。

口紅ぬぐうのをホールでやるか部屋でやるかを悩んで両方作ってみた。

 

 

 


無様に転んでしまったことと、他の乗客に笑われたことで頭の中が真っ白になる。
さっと立ち上がりその場を離れたいのだが他の乗客の笑い声が針の様に突き刺さり
力が入らず、ヴァンの服を握り締めるだけだった。
「立てるか?」
「………」
そんなヴァンの声さえも遠くに聞こえる。
ただ体が床に縫い付けられているように重く感じる。
(立たなきゃ…このままじゃ……)
そんな思いだけがぐるぐると頭の中を駆け巡り
ヴァンの服を掴む手がカタカタと震える。
「………」
ヴァンはそんなウェンディを困ったように見つめると
ウェンディの背中と膝の後ろに腕を入れるとぐいと持ち上げた。
「きゃっ!」
いきなりの事に小さく悲鳴を上げるウェンディ
「動くなよ」
ヴァンは軽々とウェンディを持ち上げると軽い足取りでホールの出口へと向かう。
すれ違うたびにかけられる嘲笑をウェンディは耐えるように体を縮こませ、ヴァンはそんな
嘲笑さえ聞こえないかのようにいつもと変わらない足取りで進んだ。


「おい。お前の部屋に着いたぞ」
ヴァンはウェンディを抱き上げたまま器用に扉を開けると
ベットへそっと下ろしてやる。
「……大丈夫か」
ベットに腰掛けてたウェンディはコクンと小さくうなずく。
「ごめんね、ヴァン…あたしのせいで」
「別に…いつものことだ」
「そんなっ!」
俯いた顔を上げきっとヴァンを見上げる。
「あ」
「な、なに?」
ヴァンがいきなりあげた声にびっくりするウェンディ
「それ」
「それって?」
ヴァンの指す所が何処だかわからずキョロキョロと後ろを探すウェンディ
「ココ」
そう言うとウェンディの唇からはみ出た口紅をきゅっと親指で拭ってやる。


 

 

 

 


 

 

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